『ゼルダの伝説 スカイウォードソード』
第2回:「濃密な森」篇
- 岩田
- さて、巨大なボスが登場するという、
「封印の地」については、足助さんに訊きますね。 - 足助
- はい。
- 岩田
- どうして巨大なボスをつくろうということになり、
足助さんはそれとどのように闘ったんですか。 - 藤林
- 巨大なボスをつくることになった経緯については、
足助さんは途中から入ってきましたので
たぶん知らないんですよね。 - 足助
- そうですね。
- 藤林
- そもそものはじまりは青沼さんのリクエストなんです。
僕はもともと、こういう遊びをつくるときはスタッフに対して
テーマとコンセプト、そして最低限のルールだけを
出すことが多いんですけど。 - 岩田
- いつも無茶振りするんですね(笑)。
- 藤林
- はい(笑)。でも、青沼さんの場合、
僕よりさらに輪をかけて、
漠然としたお題を出すんです。 - 岩田
- どんなお題だったんですか?
- 藤林
- 「巨大な敵がひとつのところに攻めてきて、
それを何とかするんだよ」みたいな。 - 岩田
- それだけなんですか?(笑)
- 藤林
- はい(笑)。
まぁそれは、ブレスト(※7)のとっかかりのような
意味で言われてるんですが、でも、確かに、
自分よりもはるかに巨大な敵と戦うというのは、
やってみるとすごく気持ちがいいだろうと思いまして。
そこで、スタッフたちといっしょに、
こうすればどうだろうかと、
いろいろアイデアを考えながら
風呂敷をどんどん広げていきました。
そんなところに、足助さんが加わることになったんです。 - 岩田
- 以前、『NewスーパーマリオWii』(※8)をつくった
足助さんは、そのボスのステージを頼まれてどう感じましたか? - 足助
- はい。じつは、僕は以前から『ゼルダ』が苦手で、
しかも3Dのゲームをつくるのは初めてでしたから、
プレッシャーをすごく感じていました。 - 藤林
- でも、「3Dゲームに不慣れ」というのは、
逆に武器になると思ったんです。
それに、足助さんは『NewスーパーマリオWii』の
ディレクターをつとめた経験がありますので、
3Dゲームというものを、誰にとっても
遊びやすいものにしてくれるのでないかと思いました。
そこで、その時点では担当が決まっていなかった、
巨大なボスのステージを
足助さんにお願いしました。
ブレスト=ブレインストーミング。従来の方法や考え方、先入観にとらわれず、自由なディスカッションを通じて新たなアイデアや解決策を引き出そうとする手法のこと。
『NewスーパーマリオWii』=『New スーパーマリオブラザーズ Wii』。2009年12月3日に、Wii用ソフトとして発売されたアクションゲーム。
- 岩田
- 足助さん、そのとき藤林さんから
どんなふうに風呂敷を広げられたんですか? - 足助
- 「超巨大なボスがいます。それがどんどん迫ってくるので、
それを何とか食い止める遊びをお願い」と。 - 岩田
- はあ?
- 足助
- で、「あとはよろしく」と(笑)。
- 岩田
- あははは(笑)。
- 足助
- でも、そのときに
「リンクの今回の性能と“いままで蓄積してきたものを活かす”をテーマに
自分のアイデアをどんどん盛り込んでいいよ」と
言われたんです。風呂敷の中身はそれだけだったのですが、
自分で自由につくれるというのは、
プランナーにとって、こんなにうれしいことはないですし。 - 岩田
- ですよね。
でも、ボスというのはふつうは倒すものですけど、
食い止める遊びなんですね。 - 足助
- そうなんです。
すごく不気味な巨大なボスが
じわじわ迫ってくるので、それを何とか食い止める、
緊張感のある遊びにしようと。 - 藤林
- あと、僕が広げた風呂敷のなかでは
地形についても触れていましたよね。 - 足助
- はい、そうでした。
超巨大なボスが迫ってきて、それを食い止めるとなると
それなりに大きな地形を考える必要があったんです。 - 岩田
- 超巨大なボスが登場するわけですから、
舞台となる地形はさらにでかくする必要がありますよね。 - 足助
- そうです。その超巨大なボスのサイズに合わせて
ただ単に平らで広大な地形を用意することもできるんですけど、
それだと遊びにくいと思ったんです。
リンクがそのボスにしがみついて
戦えるようにもしたいと思いましたので。 - 岩田
- となると、平原のような場所は向きませんね。
- 足助
- はい。そこでいろんな形状を考えたんですけど、
あるとき地形のデザイナーさんから
「らせん状にしてはどうか」
という提案があったんです。
すり鉢のようになっている地形の大きな壁を
らせん状にすることで、
超巨大なボスは底からどんどん登ってきて、
最後には頂上まで到達すると・・・。 - 岩田
- 到達すると・・・?
- 足助
- 内緒です(笑)。
- 岩田
- はい(笑)。
- 足助
- で、らせん状の地形になることで、
巨大な怪物がどこを登っているのか
上のほうから見ると一目瞭然ですし、
じわじわ登ってくるので、ドキドキ感が増すんです。
そこでリンクは、らせん状のステージを
上に登ったり、下に降りたりしながら、
巨大なボスの動きを封じ込めようとするんです。 - 岩田
- 上と下への移動はどうやって?
- 足助
- 今回は「パラショール」という
パラシュートのようなアイテムが使えます。
そこで、飛び降りるときは
そのパラショールがパッと開いて・・・。 - 岩田
- だから、すごく高いところから飛び降りても、
着地したときのダメージがないんですね。 - 足助
- そうです。
で、下のほうでは巨大なボスの足を攻撃できるんですけど、
足しか見えなかったりするんです。 - 岩田
- あまりにでかいからですね(笑)。
- 足助
- はい、すごく大きいですから(笑)。
で、逆に登るときは、
あちこちの穴から風が上向きに吹きだしているので、
それを利用して、パラショールで上に飛べるんです。
そこで、ボスより先回りしてから、
エイヤッとボスの上に飛び移って戦うこともできます。 - 岩田
- ただ、大きい怪物と戦おうとすると、
カメラの問題が出てきますよね。
- 足助
- そうなんです。リンクはちっちゃくて、
ボスはめちゃくちゃでかいわけですから。 - 岩田
- 迫力のある画面にしつつ、
一方で戦いやすくするというのは、
試行錯誤がけっこうあったんじゃないでしょうか? - 足助
- はい、そのとおりです。
3Dゲームで遊びやすいものをつくるのは
これほど難しいのかと、
いちばん苦労したところでもありました。 - 伊藤
- あの当時、足助さんは
「『ゼルダ』ってやっぱり大変やな・・・」と
ボソッと言ってましたよね。 - 足助
- ・・・そうでしたね。ホントに悩みました。
ただ、カメラを担当してくれたプログラマーさんは、
プライベートでも、カメラやビデオを持ち歩いていて、
いろんなものを撮影するのが
趣味だったりする方だったんですね。 - 岩田
- 撮影センスもあるプログラマーさんなんですね。
- 藤林
- はい。そのプログラマーさんは
最近の『ゼルダ』のカメラをずっと担当してくださっていて。 - 足助
- なので、そのプログラマーさんが、迫力のある、
戦いやすい戦闘のカメラをつくってくれて、
僕の悩みを一気に解決してくれたんです。
そういう方といっしょに仕事をできたのは、
僕にとって、すごく幸運だったと思いますね。
実際にそのボスと戦うときは、
その迫力のあるカメラも楽しんでほしいと思います。 - 岩田
- ちなみに、ダンジョンに出てくるラスボスは、
一度倒すとそれでおしまいですよね。 - 足助
- これまでの『ゼルダ』はそうでした。
でも今回、「封印の地」に登場するボスは、
開発スタッフの間では「大ボス」と呼んでいて、
何度か出てくるんです。 - 岩田
- つまり、大ボスを食い止めるというのは、
封印するということなんですね。 - 足助
- そうです。なので大ボスの名前は
「封印されしもの」です。
封印しても、完全に倒すことはできないんです。
で、リンクはその大ボスと
何度か対峙することになるのですが、
物語の進行にあわせて戦い方も変わってくるんです。
ただ、それはまだ・・・。 - 岩田
- 内緒なんですね(笑)。
- 足助
- はい(笑)。