『ゼルダの伝説 スカイウォードソード』
第3回:「濃密な火山と敵モンスター」篇
- 岩田
- その“できる秘書”みたいなファイは、
どのようにして生まれたんですか? - 藤林
- 『ゼルダ』シリーズには
やっぱり相棒は必要です。 - 岩田
- 確かに、あれだけいろんなことをするゲームですから、
相棒なしで、ひとりで全部をわかって
自分で全部発見しろというのは、
ちょっと無茶かもしれないですね。 - 藤林
- しかもリンクはしゃべらないので、
彼の感情の代弁や、今回の広大な世界観を説明するのにも、
必要不可欠な存在なんです。
で、今回は、その相棒の機能を持ちながらも、
いままでにない個性でシナリオにしっかりと噛ませられる
キャラクターとして創造しました。 - 岩田
- ファイは、リンクが呼び出すと、
ヒントをくれたり助言をしてくれるんですよね。 - 藤林
- そうです。
- 岩田
- 尾山さん、演出面で
ファイというキャラクターを見たとき、
どんな印象を持ちましたか? - 尾山
- わたしは、ある程度各エリアができあがってから
全体を通して触ってみたときに、
ファイといっしょに冒険している感じが
どうしても薄いように感じたんです。 - 岩田
- 相棒という感じがしなかったんですかね。
口調もなんだか冷徹ですし。 - 尾山
- はい(笑)。そもそもリンクは、
これから冒険するフィールドについて
まったく知識を持っていないわけなんですけど、
ファイは、森や火山など、世界のいろんなことを知っていて、
いわばナビゲーターの役割も持っています。
で、先ほどもちょっと話に出ましたけど、
今回は、森チームや火山チームのように
縦軸でゲームがつくられましたので、
各フィールド間のつながりが少し物足りないというか・・・。
- 岩田
- それぞれの世界を“濃密”につくるのに夢中で、
そのつなぎの部分まで頭が回らないということなんですかね。 - 尾山
- そうなんです。
そこで、たとえば火山のフィールドに
はじめて入るようなときに、
ファイが、この場所はこういうところなので、
こんなことに注意してください、というようなことを
まず解説してくれるようにして、とにかく
「リンクがひとりで冒険しているのではない」
ということを強調した演出を入れました。 - 岩田
- 「ひとりで冒険しているのではない」
ということをうまく演出できると、
遊んでいるときの感覚が変わりますか? - 尾山
- もちろん変わります。自分が困ったときに
ただヒントを教えてくれるというだけではなく、
ファイはリンクにとって、とても大切な存在だということが
すごくわかるイベントも起こったりします。
まあ、ストーリーにも関係してきますので
これ以上はお話しできないのですが・・・。 - 藤林
- そもそも尾山さんに
つなぎの演出の仕事をお願いしたのは、
ゲームの各エリアができあがってきた時期に、
自分でも各エリアのつなぎが悪い、
ということがわかったからなんです。
そこで、間をきれいに埋めてくれる人を捜していたところ、
よいアイデアを頻繁にあげてくれる人物がいたので
各エリアをつないでくれる“番長”をお願いしたんです。 - 岩田
- “番長”ですか(笑)。
- 藤林
- 僕は“番長システム”と呼んでるんですけど、
最後まで僕の手が回らなかったり、
力が足りないところは、“番長”を任命して
磨いてもらっていました。 - 尾山
- やはりダンジョン担当の人は、
自分のつくったダンジョンをひたすら磨いているんですね。
だから、つなげて、その間を見ていないんです。
なので、わたしはできあがったものを毎日のように触っては、
「ここはちょっと薄いかな・・・」と感じると、
すぐに意見をしたり、自分で演出を考えるようにしていました。 - 藤林
- ファイのメッセージで各エリアに特化したものは
プランナーが書いていたんですけど、
口調が違ってきたりします。
僕がそれを冷徹な口調にそろえたり、
足りないところは、書き足していったんですが、
尾山さんに“つなぎ番長”を受けてもらった直後から、
「ここのメッセージが足りないです」と言われ、
どんどんそっち方面の仕事が増えていきました。
- 冨永
- 藤林さんは、ものすごくたくさんのメッセージを書いていましたよね。
だから、そのあとに最初から遊んでみると、
尾山さんがつくっていたつなぎの部分とかも
ひととおり触ることができて、
「ああ、なるほど。こんなふうにつながっているんだ」と、
改めて思ったところもありました。 - 岩田
- それぞれのチームでつくられていた世界が
きれいにつながったんですね。 - 尾山
- そう思います。
- 藤林
- あと、尾山さんには
ダンジョンに入るときの“入場番長”もお願いしたんです。 - 岩田
- はいはい。
藤林さんは、前回の「社長が訊く」で、
初代『ゼルダ』(※4)のダンジョンの入り方、
今回あれをどうにか再現したいと言ってましたよね。 - 藤林
- ええ。
初代『ゼルダ』=『ゼルダの伝説』。1986年2月に、ファミコンのディスクシステム用ソフトとして同時発売された、アクションアドベンチャーゲーム。
- 岩田
- 藤林さんの、
「あのザッザッザッを再現したい」という願いを
尾山さんが実現したんですね。 - 尾山
- そうです。
これまでは、ふつうのドアをくぐるときと
それほど変わらない演出の仕方だったんですけど、
今回は初代『ゼルダ』のような
ダンジョンに入る感じをしっかり再現してほしい、
ということでしたので。
ただ、そっくりそのまま、
初代『ゼルダ』のようなことをしても・・・。 - 岩田
- ダメですよね。
- 尾山
- そうです、ダメなんです。
でも、一度は試しに、その方向でつくってみようと。
足音もザッザッザッにしてもらったんですよね。 - 藤林
- そうでした。
- 尾山
- でも、やっぱりダメで、
今回の雰囲気にはぜんぜん合わないんです。 - 岩田
- 初代『ゼルダ』の絵であったから
あの入り方がピッタリはまっていたわけで、
今回のようにリアルでもなければ
セルアニメ調でもない絵柄に、
どうすればピッタリ合う演出や音を再現できるのかというのは、
かなりの無理難題だったわけですね。 - 尾山
- そうなんです。
そこで、いちばん最初にダンジョンに入るときは、
そこがどんな場所なのかを
プレイヤーに理解してもらいつつ
ドキドキしてもらう必要があると思って、
たとえば「火山」のダンジョンに入るときは、
その熱さが感じられるような
ごっつりした演出を見ることができるようにしました。 - 岩田
- その、ごっつりした演出が見られるのは、
最初に入るときだけなんですか?
- 尾山
- そうです。
で、2回目以降に入るときに、
初代『ゼルダ』のザッザッザッという雰囲気を
感じられる演出が入っています。 - 藤林
- そこはかなりこだわってつくりました。
デモ映像専属のスタッフがいるんですが、
尺から何から、すごく細かいところまで
「もうちょっとここを長くしてくれ」とか、
「短くしてくれ」とか、
数フレーム単位で指示しました。 - 尾山
- フェードまでの時間は、もうあと10フレームとか、
フレーム単位でかなり調整しました。
でもその結果、目指していた
ダンジョンに入っていく雰囲気を出す演出を
しっかりつくりこめたように思います。 - 岩田
- それ、わたしもまだ見ていないので、
2回目以降に入るのが楽しみです(笑)。
それにしても、いまの話に限らないのですが、
今回の『ゼルダ』は、すごいボリュームがありながらも、
本当に細かいところまで徹底できたのは
どういうことなんでしょうか? - 尾山
- 今回はかなりていねいに、
すべてのところを追いかけることができたというか・・・。 - 岩田
- そう、“ていねい”な印象がすごくするんです。
- 藤林
- そこは“番長システム”が機能していたことが
ひとつの理由だと思っています。
担当者には、セクションの枠を超えて
その制作に全権を持ってもらいますので。
徹底してつくりこめますし、
一人一人の責任や役割が明確になります。