『ゼルダの伝説 スカイウォードソード』
第4回:「濃密な砂漠と新システム」篇
- 岩田
- 「社長が訊く」の第1回目のときに、
その「古代文明」の設定ができたことで
「この人はロボットにしよう」
という話もありましたよね。 - 北川
- はい。それもこのステージの大きな特徴のひとつです。
「砂漠」にいるキャラクターや敵たちはロボットですし、
それらは電気仕掛けで動いたりしているんです。 - 藤林
- でも、『ゼルダ』の世界で
そもそも「電気」と呼んでいいのだろうか?
という問題もあって(笑)。 - 岩田
- ああ、確かにそうですね(笑)。
- 藤林
- なので、そういった用語についても
いろいろ考えましたし、
ロボットのデザインに関しても、
あまりにもメカっぽいものは避けるようにしました。 - 岩田
- 藤野さんはどう思いましたか?
「古代文明」とか言いながら、
『ゼルダ』の世界にロボットを出すと聞いて。 - 藤野
- 「ホントにいいのかな・・・」と。
- 岩田
- 「『ゼルダ』にこんなものを出してもいいの?」
っていうことですか? - 藤野
- はい(笑)。
- 岩田
- やっぱりメカニカルなものに、
みなさん、最初は戸惑うんですね。 - 北川
- そうなんです。
- 岩田
- でも一方で、動いている絵を見ると、
別にこの世界にいても変だとは思わないですね。
なんとなく・・・馴染んでいるんですよね。 - 藤林
- そうですね。
そのあたりはやっぱりデザイナーさんの力だと思います。
「こういうことができるロボットがほしい」と
僕たちが機能的なポイントを伝えるだけで、
その世界に即したものをちゃんと生み出してくれたんです。 - 岩田
- それが“デザイン力”と呼ばれるものだと思うんですけど、
どうやって馴染ませているんでしょうか。
デザイナー出身の北川さんはどう思いますか? - 北川
- 担当したデザイナーさんは、
なんとか軟らかいイメージを出そうとしていました。
そこで、土偶や縄文土器などを参考にしながら、
それがロボットになったらどうなるんだろうか、
ということで設計していました。 - 岩田
- なるほど。「古代文明」だから
そういうものをモチーフに選んだんですね。
ふつう、ロボットというと
金属っぽい硬いデザインになりそうですけど、
日本古来の土偶などを意識することで
軟らかいイメージを出すことができて、
しかも、この世界に違和感なく
溶け込ますことができたんでしょうね。 - 北川
- そうだと思います。
- 岩田
- ちなみに、「古代文明」という設定で、
ほかにはどんな遊びが生まれたんですか? - 北川
- たとえば「地図」がそうです。
わたしが担当した最初のエリアでいうと、
現在歩いているところでは、見えない謎があって、
どうしても解けなかったりするんです。
そうしてると、古代の地図が手に入って
昔の状態がわかるようになるんです。
それと現代の様子を重ねると・・・
といったネタをやっています。
- 藤林
- 実際、流砂のために先に進めないようなところでも、
じつはその下に遺跡が隠されているということが
古地図を見ると、わかったりするんです。 - 北川
- なので、その古地図が
先に進むためのヒントになるんです。 - 岩田
- へえ〜、まるで平安京の古地図を見ながら、
現在の京都を歩くみたいな話ですね。
では、2つ目のエリアについてお訊きします。
先ほど藤野さんが「砂漠が海になって船で進む」
なんて、ちょっと意味不明のことを言ってましたけど、
いったいどういうことなんですか? - 藤林
- まず最初に考えたのは、転移させた場合
「砂漠と対比して面白いものは何だろうか?」
ということでした。 - 岩田
- それで、「海」ですか。
- 藤林
- はい。で、海があるのなら、
船を浮かべないと、と思って。 - 岩田
- 欲張りですね(笑)。
- 藤林
- はい(笑)。
そこで例によって
「海と船。しかも砂の上をはしる「砂上船」を出しましょう」と、
藤野さんに、振ってみたんです。 - 岩田
- 藤野さんは、それをどう受け取ったんですか?
その無茶振りに対して(笑)。 - 藤野
- いえ、単純に面白いと思いました。
で、「船を浮かべたい」という話でしたので、
まず、船に関する資料を
片っ端から集めることからはじめました。 - 藤林
- あの当時、藤野さんの机の上はすごかったんですよ。
船を輪切りにした本とか、船の設計図とか、
船に関する本が山積みになっていました。 - 岩田
- でも、その山積みの資料をどうするんですか?
- 藤野
- いろんな資料を片っ端から開きながら、
ひたすらネタを拾うようなことをしていました。
で、気になることがあると
どんどん箇条書きにしていって、
「これは使えそう・・・」
「これは使えなさそう・・・」というのを
頭のなかでグルグルと考えていきました。
- 岩田
- ああ、そうなんですね。
まずはネタの要素をバラバラに分解して、
それらを頭のなかでグルグル回して、
「これとこれを組み合わせると面白い・・・」
「ここはうまくつながる・・・」みたいに
バラバラのピースを組み合わせるようなことをしたんですね。 - 藤野
- そのとおりです。すると、
次第に形がぼんやりと見えてくるようになります。
でもやっぱり、どうしても足りないピースが2カ所、
あるいは3カ所くらい出てきたりするんです。 - 岩田
- 自分ひとりで考えるのは限界があるわけですね。
- 藤野
- はい。で、そのくらいの段階に達したら、
みんなにプレゼンをしました。
すると、地形をつくるデザイナーさんとか、
プログラマーさんが、アイデアを足してくれるんです。 - 岩田
- それは頭のなかで培養したアイデアが、
まだ完成には至っていないんだけど、
一定の形まで育っているので
「こうすれば着地するよ」といった感じで、
いろんな人が言ってくれるようになる、
ということですか。 - 藤野
- そうなんです。
なのでずいぶん助けられました。 - 岩田
- ちなみに、藤野さんのプランナー歴は
今回で何回目になるんですか? - 藤野
- DSの『夢幻の砂時計』(※5)までは
プログラマーをしていたんですけど、
次の『大地の汽笛』(※6)のときに
初めてプランナーを担当しましたので、
今回で2回目になります。
『夢幻の砂時計』=『ゼルダの伝説 夢幻の砂時計』。『ゼルダ』シリーズ初のニンテンドーDS用タイトルとして、2007年6月に発売された、ペンアクションアドベンチャーゲーム。
『大地の汽笛』=『ゼルダの伝説 大地の汽笛』。ニンテンドーDS用ソフトとして、2009年12月に発売されたペンアクションアドベンチャーゲーム。
- 藤林
- 僕は『大地の汽笛』のときは参加しなかったので
プレイヤーの立場で遊ぶことができたんですが、
ちょっと触っただけで、藤野さんがつくった
ダンジョンはわかるんです。
もう・・・独特のクセがあるものですから(笑)。 - 岩田
- へぇ〜、それはどんなクセなんですか?
- 藤林
- よく言えば・・・謎解きがメインの、
ものすごく『ゼルダ』っぽいダンジョンなんです。
悪く言うと・・・理屈っぽいというか。 - 岩田
- ああ、プログラマーならではの理屈で、
理詰めで解かせるような感じじゃないですか? - 藤林
- そう、そうなんです!
まさに“理詰めダンジョン”なんです(笑)。
で、今回の『ゼルダ』の、とくに「砂漠」では、
そういうダンジョンをつくりたいと思っていたものですから、
まさに、彼が適任だと。
- 岩田
- なるほど。で、任された藤野さんは、
「砂漠」の2つ目のエリアでは
どんな遊びを考えたんですか? - 藤野
- 今回は「ダウジング」という仕組みがありますよね。
- 岩田
- ゼルダを捜したりする仕組みですね。
- 藤野
- で、ほかのステージの話を聞くと、
プレイヤーが僕のステージに到達するまでに、
リアルタイムで動くものを捜すといった遊びが
あまりなかったんです。 - 岩田
- お目当てのものが固定されていたり、
あるいは立ち止まってることが多かったんですね。 - 藤野
- はい。でも、僕が担当したステージでは、
すでにゲームの中盤に入っているということもあって、
ひとつ難易度を上げて
「移動しているものを捜す」
という遊びをつくりたかったんです。
そこで、大きな船が海をさまよっていて、
それを捜す、という遊びを考えました。 - 岩田
- 海をさまよっているから、
鬼ごっこのような遊びができるということですね。 - 藤野
- そうです。
- 岩田
- で、ここで藤野さんの
“理詰めダンジョン”が発揮されるんですね? - 藤野
- はい(笑)。船を見つけられたら、
みなさん、たっぷりと楽しんでいただけると思います(笑)。