『ゼルダの伝説 スカイウォードソード』
第5回:「濃密な空と町」篇
- 岩田
- 社長が訊く『ゼルダの伝説 スカイウォードソード』も
いよいよ第5回となりました。
今回は「空と町」をテーマに、
みなさんに集まっていただきました。
よろしくお願いします。 - 一同
- よろしくお願いします。
- 岩田
- ・・・青沼さんが
いつもと違うところに座ってますね(笑)。 - 青沼
- 自分もちょっと違和感があります(笑)。
- 岩田
- いつも、はじっこのほうで
「僕はプロデューサーです」
みたいにしている青沼さんが、
今日はなぜ、藤林さんの左隣にいるんですか? - 青沼
- じつは今回、「空」というフィールドには、
いちプランナーとしてかかわったんです。 - 岩田
- じゃあ、藤林ディレクターの指示のもとで
仕事をしたということですか?(笑) - 青沼
- はい(笑)。
- 岩田
- どんな仕事を担当したのかは、
後でじっくりお訊きします。
それでは、青沼さんと藤林さん以外で
新しく参加のみなさん、自己紹介をお願いします。 - 岩本
- 情報開発本部の岩本です。
今回、「空と町」のプランニングを全般的に行いました。
序盤のシーケンスの構成から、
町にいる人々とリンクが接するサブイベント、
大空で鳥に乗るシーンを担当しています。
- 藤林
- 岩本さんは“空番長”なんです。
- 岩田
- 第3回で藤林さんが話をされていた、
“番長システム”ですね。 - 岩本
- 皮肉っぽく“空の神”とも呼ばれてましたが(笑)。
- 岩田
- 皮肉っぽいんですか?
- 岩本
- まぁ、今回、いろいろやっちゃっていますので・・・。
- 岩田
- じゃあ、それもまた後で(笑)。
- 久田
- 地形を全般的にまとめていた、
情報開発本部の久田です。
わたしは岩本さんと一緒に
おもに「空と町」を担当しました。
どんな地形にするか方針を出したり、
背景のテイストや、絵づくりを
とりまとめていました。
- 岩田
- 世界観をつくっていくうえで、
とても重要な役割ですね。 - 久田
- はい。
- 水田
- サウンドを担当していた
情報開発本部の水田です。
BGMや効果音を鳴らす仕組み全般と、
効果音の作成、それらのとりまとめを行いました。
それから、楽器の仕組みや
ネタづくりなんかも行っていました。
サウンドはフィールドのどこでも鳴りますので、
「空と町」の音だけをつくっていた、
というわけではないのですが、
サウンドの話がしやすいのでは、
ということで、今回参加しました。
- 岩田
- ちなみに、今回のサウンドは
何人でつくったんですか? - 水田
- 10人です。
- 岩田
- えっ? 10人もですか?
- 水田
- はい。
効果音とサウンドの仕組みをつくるスタッフが5人、
コンポーザーが5人、
合わせて10人で担当しました。 - 岩田
- それはまた、大人数ですねぇ・・・。
どうしてそんなに多くの人が
かかわることになったんですか? - 水田
- そもそも最初の1年半くらいは、
コンポーザーの若井(淑)さん(※1)と2人で
楽器ネタの準備や
サウンド全般の下地づくりをしていたんです。 - 岩田
- 若井さんは、次回に出ていただく予定ですが、
今作ではサウンド全般の
とりまとめを担当したんですよね。
若井淑=任天堂情報開発本部制作部所属。これまでに、『スターフォックス64』や『ピクミン』『ゼルダの伝説 風のタクト』『nintendogs』などのサウンドを担当。今作、『ゼルダの伝説 スカイウォードソード』では、サウンドディレクターを担当。
- 水田
- はい、そうです。
最初は2人だけでやっていたんですけど、
次第にステージの数や
イベントの規模感もわかってきて、
スタッフがどんどん増えていきましたので、
サウンドも2人だけではもう無理だということで、
近藤(浩治)さん(※2)に
スタッフ増員の相談をしました。
近藤浩治=任天堂情報開発本部制作部所属。これまで、『ゼルダの伝説』シリーズなど、数多くの作曲を担当。
- 岩田
- それで一挙に10人になったんですか?
- 水田
- いえ、一挙に10人ではなく、
スタッフは少しずつ増えていきました。
最後の効果音担当者が入ったのも
今年になってからでしたし。 - 青沼
- そうです。
ずっと10人いたわけではないです。 - 水田
- サウンドはいつも最後に作業が集中するんですが、
今回は量もかなり多かったので、
その分、増員規模が大きかったんです。 - 青沼・藤林・久田
- うん、うん(強くうなずく)。
- 岩田
- 任天堂が社内で制作したソフトの歴史では、
10人のサウンドスタッフというのは
かつてなかったことじゃないですか?
要するに、今回の“濃密”さゆえに、
物量も増え、大勢のサウンドスタッフが必要になった、
ということですね。 - 青沼
- そのとおりなんです。
さらに、BGMは今回オーケストラですし、
イベントシーンひとつひとつに全部効果音をつけて、
キャラクターそれぞれのボイスもあって、
今回は本当に多岐にわたる作業があったんです。 - 岩田
- なるほど。では、そうなると久田さん、
デザイナーは何人くらいだったんですか?
訊くのがちょっと、怖いんですけど(笑)。 - 久田
- えーと、そうですね・・・。
全員合わせると、背景で区切って
22人です。 - 岩田
- 地形だけで、22人ですか!
普通なら、ゲーム1本分の人数ですよ。 - 久田
- すごい人数でした、はい。
- 一同
- (そろってうなずく)
- 岩田
- ・・・『ゼルダ』史上最多ですよね、それは。
- 青沼
- はい、最多です。
『ゼルダ』史上で最多ということは、
任天堂のゲームづくり史上でも・・・
最多になります。 - 岩田
- デザイナーの人数も“濃密”、ということですか。
- 青沼
- ・・・ということになりました(笑)。
- 岩田
- 青沼さんは今回、「空」では
プランナーを担当したということでしたけど、
具体的にはどんな仕事をされたんですか? - 青沼
- え−と、その前に、「空」ができた
きっかけから、話をさせてください。 - 岩田
- そうですね。お願いします。
- 青沼
- いつものことなんですが、
陸続きの『ゼルダ』をつくっていくと、
フィールドとフィールドをつなぎ合わせる
“のりしろ”の部分が必要になるんです。
今回で言えば、「森」「火山」「砂漠」といったエリアで
いろんな遊びをつくりましたが、
そのエリアを行き来するための
道をつくらなきゃいけないと。
で、「この道をどうするのか?」ということが、
毎回けっこう悩みどころなんです。
- 岩田
- とくに『ゼルダ』のようなゲームだと、
道というのは、必要不可欠なものですからね。 - 青沼
- そうなんです。
ですが、今回まず最初に考えたのは、
そういう道はもういらないんじゃないか?
ということでした。 - 岩田
- 道がいらない、
というのはどういうことですか? - 青沼
- はい。エリアごとの遊びを
それこそ“濃密”にできれば、
「それぞれを物理的につなげる必要はないんじゃないか?」
という話を、藤林さんとずっとしていたんです。
「じゃあ、どういう仕組みが必要なんだ?」
ということになって。 - 岩田
- で、青沼さんは、どういう仕組みを考えたんですか?
- 青沼
- 「『マリオ』のコース選択でいい」と。
- 岩田
- コース選択・・・ですか?
- 青沼
- そうです。『マリオ』のコース選択画面の、
ピューッと進んだらそこにピョーンと入るやつです。 - 岩田
- 『ゼルダ』の世界にまた・・・
無茶なことを言いましたねぇ(笑)。 - 藤林
- ですよね! 僕にとって、
青沼さんは無茶ぶりの親分なんです(笑)。
なので、すぐには
「なるほど!」とはならなくて・・・。 - 岩田
- いまの話を訊いて、わたしの頭のなかでずっと、
『マリオ』のステージ選択の音楽が鳴っているんですが、
『ゼルダ』の世界観とかみ合わないですから(笑)。
- 藤林
- 僕らも、『マリオ』はそれでいいけど、
『ゼルダ』はそのままじゃダメだよね、
という話をずっとしていたんです。 - 青沼
- でも、そうこうしているうちに、
今回のスタートになる場所を
「空に浮かべたい」っていう話が出てきたんです。
それを聞いて、たしかに構造的には
そこから飛び降りるみたいなかたちにすれば、
それはそれでアリだなと。 - 岩田
- たしかに、道はいりませんからね(笑)。
- 青沼
- そうなんです。でも、その後、
「じゃあ、飛び降りるってどうするの?」と。 - 岩田
- 「飛び降りる」というアイデアは藤林さんですか?
- 藤林
- はい。もとは、テレビか何かで見たんですけど、
スカイダイビング中に女性が気絶してしまい、
それに気がついたベテランのスカイダイバーが
ものすごい勢いで女性のところまで滑空していって、
彼女を抱きかかえつつ、自分のパラシュートをひらいて
カッコよく地面に降り立つ!
という映像が記憶にあって。
- 岩田
- 藤林さんはそれを見て、いつかは
そのようなことを実現したいと思ったんですね。 - 藤林
- そうです。
いつかゲームでやりたいと思ってはいたんですが、
でも「空からはじめる」というだけでは
絶対に企画が通らないんです。 - 青沼
- それだけだとあまりにアバウトですからね。
- 藤林
- そこで、一時期は、
塔から飛び降りるという案も考えました。 - 青沼
- そう、そうだった(笑)。
世界が盆地になっていて、
その中心にものすごく高い塔がそびえていて、
その塔を上がっては飛び降り、
上がっては飛び降りして・・・。 - 藤林
- しかも、高く登れるようになると、
遠くまで飛んでいけるようになるんです。
でも・・・地味ですよね、やっぱり(笑)。 - 岩田
- そこでやっぱり、空から
飛び降りることになったんですか? - 青沼
- そうです。でも僕としては、
空から降りるというのがいまひとつピンとこなくて、
空と下の世界の位置関係をどうするんだ?とか、
いろいろ検討するうちに、やっぱり
「何か移動する乗り物に乗らないと無理だ」
という話になったんです。 - 岩田
- そこで“空番長”・・・岩本さんの登場なんですね?
- 岩本
- はい(笑)。