『ゼルダの伝説 スカイウォードソード』
第5回:「濃密な空と町」篇
- 岩田
- 藤林さんは、どうして岩本さんに
“空番長”を任命することにしたんですか? - 藤林
- ちょうどその頃、岩本さんがディレクターを担当していた
『大地の汽笛』(※3)の開発が終わり、
僕たちのチームに合流してもらえると聞いたので、
すかさず“空番長”を依頼しました。
『大地の汽笛』=『ゼルダの伝説 大地の汽笛』。ニンテンドーDS用ソフトとして、2009年12月に発売されたペンアクションアドベンチャーゲーム。
- 岩田
- 岩本さんが入ったとき、
「空」はどんな状態だったんですか? - 岩本
- 僕が参加したときには、
空に1個の大きい島があって
雲に開いた穴に飛び込んで地上に降りていく、
というところまでは決まっていました。
そこで、移動する手段をいろいろ考えたとき、
空なので、やっぱり鳥だということで
いろいろ実験をしていたんですけど、
どうしても自由に飛ばせたくなってしまったんです。
- 青沼
- でも、鳥に乗って自由に飛べてしまうと
「どこまで飛んで行けるの?」とか、
また別の問題がどんどん出てくるのが見えていたんで、
「鳥に乗った瞬間、目的地に着くくらいでいいからね」
と何度も岩本さんに言ってたんです。
もともと岩本さんは、
『夢幻の砂時計』(※4)の船であるとか
『大地の汽笛』の汽車もそうなんですけど、
乗り物に関しては、さんざん苦労をした人なので、
まさか「自分から火中の栗を拾いに行くわけない」
と思っていたんです。
と思っていたんですけど、それが・・・(笑)。 - 岩本
- まあ・・・そうです。
「やるしかない」と思い立って、
試行錯誤のすえ、現在に至る、みたいな感じです。
『夢幻の砂時計』=『ゼルダの伝説 夢幻の砂時計』。『ゼルダ』シリーズ初のニンテンドーDS用タイトルとして、2007年6月に発売された、ペンアクションアドベンチャーゲーム。
- 岩田
- それにしても、『マリオ』のコース選択から
あの鳥が生まれたとは、意外でした。 - 青沼
- しかも、コース選択どころか
鳥で自由に空を飛べるようになっただけでなく、
たくさんの島を空に浮かべて
いろんな遊びを詰め込みましたからね、
岩本さんは。 - 岩田
- ああ、だから「空」も“濃密”になったわけですか。
- 青沼
- はい、そうなりました。
- 岩田
- では、そろそろ、
青沼さんがプランナーを担当することになった
理由を訊きましょうか。 - 青沼
- きっかけは、さきほどの「空」の話が
岩本さんの参加で落ち着いた頃だったんです。 - 岩本
- いやいや、まったく落ち着いていません(笑)。
- 青沼
- そうだっけ?(笑)
まあ、デザイナーたちの頑張りのおかげで
空に浮いてる島「スカイロフト」がだんだんできてきました。
で、今回のリンクは騎士学校に通っていて、
全寮制の寄宿舎にいるという設定なんです。
ちょっと凝った設定だったので
「大丈夫かなあ」とは思っていたんですけど、
だいたいできあがったところで
ゲームの序盤を岩本さんから見せてもらったんです。
すると、これが正直ぜんぜんダメで・・・。 - 岩本
- あっはっは(笑)。
- 青沼
- ふつう、初めてほかのキャラクターと話すだけでも、
これからのいろんなドラマを想像して
すごくワクワクするものなんですけど、
会話しても、ちっとも嬉しくなかったんです。
しかも、登場する人たちが
リンクの同級生なのかどうかも決めてなかったんですよ。
それで、「こういうところをちゃんとやろうよ!」と
岩本さんを問い詰めたら、
「ちょっといまは、ほかのことで忙しいです」
と言われてしまって。 - 一同
- (笑)
- 岩本
- ちょっと青沼さん、
それ、かなりはしょってますよ〜。 - 青沼
- いやいや、だいたいそんな感じだったと思うけど(笑)。
それで、
「じゃあこれはいつになったら
もっとグッとくる感じになるの?」と聞いたら、
「ほかのものが落ち着いてきてから・・・」とか言うんですよ。 - 岩田
- 「僕は鳥を飛ばすのに忙しいんだ!」
っていうことですかね(笑)。 - 青沼
- もう、そんな感じでした(笑)。
でもその時点で、ある程度はできあがっていないと、
宮本さんが入ってきたときに
「いままで何をやってたんだ!」となるのは
目に見えていたので、僕的には焦っていたんです。 - 岩田
- ああ、そうなんですね(笑)。
宮本さんは、序盤にものすごく厳しいですからね。
後ろにいくら良いものがあっても、
序盤でつかみがないと、バサッといきますから。 - 岩本
- はい。それは僕も何度か経験していたんですが・・・。
- 青沼
- でしょう?(笑)
だから結構、切迫した状況のはずだったんです。
でも、「早くなんとかしなきゃ・・・」と言っても、
そこに手をつけられる人がいなかったんです。
そこで「じゃあわかった、もう、オレがやる!」と。
- 岩田
- 青沼さんは、自分から手を挙げて、
プランナーになったんですか。 - 青沼
- ええ、でも・・・「まあ半分、やりたかった」
というのもあります(笑)。 - 岩本
- あのー、ちょっとだけ、
言い訳させてほしいんですけど・・・。 - 岩田
- はい、どうぞ。
- 岩本
- 今回は「スカイロフト」が
ひとつの大きな拠点みたいになっていて、
各フィールドに降り立っては戻ってくるということで、
今作では重要な場所なんです。
ですから、あの当時はとにかく「スカイロフト」と
空の全体像をつくりあげる必要があって、
序盤の部分をつくり込むところまで
手が回っていませんでした。 - 藤林
- 僕からもちょっとフォローすると、
「スカイロフト」もほかのフィールドと変わらないくらい
「繰り返して遊べる」ということがテーマなんです。
なので、ここも“濃密”にする必要があって、
岩本さんが、そういう事情のために
序盤まで手が回らなかった、というわけなんです。 - 岩田
- なるほど。
- 藤林
- でも、序盤のつかみをしっかりつくらないといけませんし、
それができるのは、『ゼルダ』のことを
しっかりわかってる人だけなんです。
で、当時の僕は口癖のように言ってたことがあって、
「立ってるものは親でも使え」と(笑)。 - 一同
- (一斉に青沼さんの顔を見る)
- 青沼
- な、なにそれ?(笑)
- 一同
- (笑)
- 藤林
- じつは、青沼さんが自分から手を挙げる前に、
岩本さんと2人で、夜な夜な策を練っていたんです。
「ものすごくわかっている人が
すぐ近くにいますよね・・・」と。 - 青沼
- ええっ、そうだったの!?
- 岩本
- うまく、いきました。
- 青沼
- そうか・・・まんまと、ひっかかりました(笑)。
- 岩田
- あははは(笑)。この章の題は
「企みにはまったプロデューサー」にしましょうか(笑)。 - 一同
- (笑)
- 青沼
- いや、でも実際、
みんなすごく大変そうだったんですよ。 - 岩田
- 大変さが目に余るくらいですか?
- 青沼
- そうです。
これまでずっと『ゼルダ』をつくってきて
大変じゃなかったことは一度もないんですけど、
今回は、いままでにないくらい「大変だ、大変だ」と
みんな口をそろえて言ってたんです。
それで、どれだけ大変なのかを
自分の身をもって知ろう、というのもありました。 - 岩田
- 実際やってみてどうでしたか?
- 青沼
- いやあ、やっぱり大変でした。
たしかに、いままでにないくらい、大変でした。 - 岩田
- その大変な理由は何だったんですか?
- 青沼
- 今回の開発では特別なツールを使っていて、
プランナーが、いろいろできるようになっていたんです。
たとえば、キャラクターのセリフや
イベントのタイミングなども、
これまではそれぞれの担当者に
頼んでつくってもらっていたのが、
今回はプランナーが、ある程度
自分でつくれるようになったんです。
つまり、僕らがこれまで、
プログラマーさんに頼んで
担当してもらっていた部分を、
自分でやれてしまうんです。
ただそうすると、何でも自分でできる分、
最後の最後まで、ひとりで面倒を見なきゃいけないんです。 - 岩田
- それはつまり、誰かに頼んで、
上手く処理してもらうことができないんですね。 - 青沼
- だから、抱えてしまったら、それはもう大変で・・・。
- 藤林
- この仕組みは、DSの『夢幻の砂時計』のときに
採用したつくり方なんですが、
すごく使い勝手がよかったんです。
それで今回の『ゼルダ』でもやろう、と
最初につくったというか、
つくってしまったんです(笑)。 - 青沼
- はたしてこのやり方が良いか悪いかで言うと
非常に難しいところなんですが、
デバッグの段階でのロスが圧倒的に少ない、
というメリットもあるんです。
でも、分担作業がやりにくいので、
ひとりへの負担がすごく重くなってしまうんです。 - 岩田
- 「ひとりで何でもできる」けど、
「ひとりで何でもやらなきゃいけない」ということですね。 - 藤林
- そうなんです。
そこで、ディレクターとしては、
その作業の重さを見込んで
経験豊富な岩本さんに担当をお願いしたんですが、
それでもやっぱり「空と町」がかなり重かったんです。
それでさっき青沼さんも言ってましたけど、
そろそろ宮本さんのチェックが入ることは
僕も十分わかっていましたので、
その大きな関門を突破するには、
もうひとつの関門でもある青沼さんを
まず味方につけようと・・・(笑)。 - 青沼
- ああ、だから「オレがやる!」と言ったとき、
反応がやけにあっさりだなあと思ったんだけど、
そういうことだったのか(笑)。 - 岩田
- そうして、ひとつ目のプロデューサーの関門を
自動的にくぐったんですね(笑)。 - 藤林
- ええ。それに、序盤をつくるのに、
これほど適した方はいないですから。 - 青沼
- いやでも、その後、
宮本さんから何度も直されましたけどね。
「青沼のテキストはひとこと多い」と(笑)。 - 岩田
- でもそういう意味では、
藤林さんの秘策は成功でしたね。 - 藤林
- 大成功でした(笑)。
おかげで、序盤はとても良いものになったと思います。
- 岩田
- 青沼さん、今回、プランナーとして
参加された部分の満足度はどうですか? - 青沼
- 最終的には、宮本さんにいろいろ直されてはいるんですが、
序盤に出会うキャラクターたちは
生き生きした存在になったと思っていますし、
やってよかったなと思っています。 - 岩田
- やりたかった学園モノもできた、
ということですか(笑)。 - 青沼
- そうですね。とくに騎士学校に登場する人物たちは、
キャラクターをしっかり表現することができましたので、
いろんな人が出てくる学園生活も
楽しんでもらえたら嬉しいですね。