『ゼルダの伝説 スカイウォードソード』
第5回:「濃密な空と町」篇
- 岩田
- 最初はコース選択画面風の機能だけだった
「空」の場所というのは、
その後、「スカイロフト」の町になって
冒険の拠点へと姿を変えていきますよね。
“空番長”の岩本さんにお訊きしますけど、
どうしてそうなったんですか? - 岩本
- 「スカイロフト」は基本、
冒険の準備をするところなんですけど、
今回は何か成し遂げたあとに必ず帰ってくる
自分のホームみたいなところにしたいと思いました。 - 岩田
- いちばん多く何度も立ち寄る場所ですよね。
- 岩本
- はい。なので、ただ冒険の準備をして
また出て行くだけでは、面白みがありませんので、
町のいろんな人たちとの絡みを入れることで、
冒険とはちょっと離れて「気軽に探索する場所」
というものにしました。 - 青沼
- 「スカイロフト」でいちばん特徴的な遊びは、
地上で集めたお宝を、町に持ち帰って
いろんなものに変えていくシステムだよね。 - 岩本
- そうですね。
お宝でアイテムをパワーアップすることができます。
また、「あずかり屋」というのがあって、
そこで「冒険ポーチ」の中身を入れ替えることができるんです。 - 岩田
- 「冒険ポーチ」というのはなんですか?
- 藤林
- 僕からかんたんに説明すると、
ポーチの中身を選択することができて、
地上に冒険に向かうリンクのタイプを
その都度、プレイヤーが考えて、
好みを選ぶことができるというものです。 - 岩田
- リンクのタイプを選ぶんですか?
- 藤林
- はい。たとえばクスリばかり詰め込んでいくと
タフなリンクになりますし、
いろんなものを集めるのが得意なメダルを
ポーチのなかにたくさん入れていくと、
お宝がいっぱい出るようなタイプにすることができます。 - 岩本
- ただしポーチの中に入れられる数には
制限があるので、いっぱいになっているときは、
不要なものを置いていく必要があるんです。 - 岩田
- それらを預けておく場所が、
その「ショップモール」にあるんですね。 - 岩本
- そうです。
冒険に必要ないろんなショップがあって、
そこでは買い物をしたり、
クスリを調合したり、ものを預けたりと、
いろんなことができるのですが、
それらを1カ所でササっとやろう、
という狙いがあって、
「ショップモール」ができました。 - 岩田
- ああ、だから“モール”なんですね。
- 岩本
- はい。町の中に点在させると
行ったり来たりで時間がかかるし、
面倒くさいだろうということで
「スカイロフト」の中心につくりました。 - 久田
- 入り口も複数あって、どこからでも
アクセスしやすいようになっていますし、
あと、これとこれが並んでると便利だよね、
というお店も近くにしています。 - 岩田
- 町も機能優先で、デザインされているわけですね。
さて、地形のデザインをまとめた
久田さんに質問なんですが、
プランナーからの無茶な要求というのは
けっこうあったんですか? - 久田
- えー、あります・・・ありましたね、はい(笑)。
- 岩田
- 2回も繰り返すほどなんですか?(笑)
そんな無茶な要求を、どう受け止めて、
どう返していくんですか? - 久田
- 突飛なリクエストがあったりすると
最初は「えーっ!?」となるんですけど、
みんなで話し合って、その本質がわかると、
実現する方法が見つかったりするんです。
たとえば、「空に浮かぶ町をつくりたい」と言われても、
最初はどこから手をつけていいかわからないんです。
- 岩田
- 誰もそんな世界を見たことがないわけですからね(笑)。
- 久田
- でも、リンクがそこから飛び降りて
口笛を吹くと、ロフトバードが飛んできて
いろんなところに行けるようになる、
という目的がはっきりすると
「じゃあ、リンクが飛ぶ場所が必要だね」
ということになって、
どこからでも飛び降りやすいように
「スカイロフト」のあちこちに
そういう場所を用意したりしました。 - 岩田
- これまでのインタビューでも、
デザイナーの視点で提案をしてもらって助けられた、と
いろんな人が言っていますね。 - 藤林
- それに近い話なんですけど、
まだ初期でそれほど忙しくない頃、
デザイナーさんには
自由に空のイメージボードを描いてもらったりして、
いろんなアイデアを提案してもらいました。 - 岩田
- そういった意味では、
デザイナー側の意見から生まれたもので
代表的なものって何かありますか? - 久田
- 代表的なもの、そうですね・・・。
- 藤林
- たとえば、「モルセゴ」とか。
- 久田
- はい、モルセゴですね。
モルセゴは、人間になりたいと願っている、
悪魔族の生き残りのような存在なんですけど、
ある地形のデザイナーさんが
「町にいたら面白い人」というお題で
イメージボードをつくって、
それを見て「こういう人がいたら面白いね」
という会話のなかから生まれたキャラクターなんです。 - 岩田
- 「こういう人がいたら面白い」というのは、
ちょっと変わった存在なんですか? - 久田
- はい。ここで詳しくは言えませんが、
見た目と実際の性格にギャップのある
キャラクターなんです。 - 藤林
- そもそもモルセゴを僕が最初に見たのは
岩本さんの席でなんですけど、
どう見ても『ゼルダ』じゃないものが動いていて。 - 久田
- そうそう(笑)。
- 藤林
- で、岩本さんは『ゼルダ』とは別の
新しいゲームをつくってるのかな?
と思ったくらいなんです(笑)。 - 岩田
- 藤林さんがそう思うくらい、
モルセゴというのは異質なんですね。 - 藤林
- そうなんです。
屋根裏部屋みたいな、
変なところに住んでいますしね。 - 久田
- でも、モルセゴの頼みを聞くと
いろんなものをくれるんです。
そのようなサブイベントは、
岩本さんやキャラクターデザインの人たちと一緒に、
とにかくたくさんのネタを考えました。 - 岩本
- ネタ出しをして、まとめたときは
「これが多いのか少ないのかわからないなあ」
という印象だったんですけど、
フタを開けてみたら、けっこう量が多くて・・・。 - 藤林
- あれだけでゲーム1本分くらいあるかもしれませんね。
- 岩田
- え? そんなにあるんですか?
- 藤林
- なので、空の上も“濃密”です(笑)。
- 岩田
- わかりました(笑)。
さて、サウンド担当の水田さん、
大変お待たせしました。 - 水田
- はい。
- 岩田
- 今回の音づくりで、とくにこだわった点は何ですか?
- 水田
- 制作初期の段階から、まず最初に
大切にしたいと考えていたのが「風の音」です。 - 岩田
- ただ、ひとくちに風と言っても、
いろんな種類がありますよね。 - 水田
- そうですね。
空と町をはじめとする
フィールドやダンジョンの環境音的なものから、
鳥の飛行中やダイビング中に
バーッと風を切る気持ちよい音まで、
たくさんの種類があります。
効果音の担当は5人いたんですが、
この人はここの風を、というように、
担当も分かれています。 - 岩田
- 同じ風でも担当が分かれているんですか?
- 水田
- はい(笑)。
それぞれの地域によっても担当者が違います。
そして、もうひとつ大切に考えてたのが「剣の音」です。
今回は剣を振るアクションがこれまで以上に重要ですし、
タイトルも『スカイウォードソード』ですから、
これはもう、「剣の音にこだわろう」と。
- 岩田
- 音楽を大事にするのはたくさんのゲームが行っていますが、
効果音にこだわってエネルギーを注ぐ、っていうのは
たぶん、宮本さんチームの特徴のひとつなんですよね。 - 水田
- そうですね。なので、そのことを
常々心がけながら音づくりをしています。
今回、後から入ってきたサウンドスタッフにも、
「剣の音」と「風の音」を大切にするように、と
意識を共有するようにしていました。 - 青沼
- あと、新しい楽器のことも
言ったほうがいいんじゃないの? - 水田
- あ、そうですね。
今回は、ハープが弾けるんです。 - 岩田
- 『ゼルダ』シリーズといえば、楽器ですよね。
- 水田
- はい。今回のハープは
歩きながら弾くこともできて、
そこに流れているBGMに合わせて
演奏することもできるので、
ぜひいろんなところで弾いて、
楽しんでもらえればと思います。 - 岩田
- それは楽しみです。
さて、少し突っ込んでお訊きしますけど、
今回の音づくりでは、どんなハードルがあって、
いまに至っているんでしょう? - 水田
- まずは単純に、物量が相当ありましたので、
それが大きなハードルになりました。
そこで今回は、マリオクラブ(※5)に
イベントシーンの映像をぜんぶ撮ってもらい、
それを全部見ながら
ひとつずつチェックしていきました。
マリオクラブ=マリオクラブ株式会社。任天堂の開発中ソフトのデバッグやテストプレイを行う。
- 岩田
- つまり、適切な音が付いてるかどうかを
ビデオを見ながら確認したんですね。 - 水田
- そうなんです。
まだ音が付いていないイベントを見つけたときに、
どのようなBGMや効果音が必要かリストアップしたり、
「この音がここで鳴ってちゃまずい」
みたいなことを発見するのに使っていました。
サウンド担当としては、やっぱり
全体のクオリティを管理したいので。 - 岩田
- そうですよね、やっぱり。
- 水田
- ただ、そういった工夫もしてみたのですが、
それでもやっぱり「多過ぎる!」
ということにはなって・・・。 - 岩田
- 10人いても、まだ足りないんですか(笑)。
- 水田
- はい(笑)。
そこで、会話中に鳴る音のセレクトと実装を
プランナーの方にお願いすることになりました。 - 青沼
- 自分で音を付けるっていうのは、
僕は初めての経験でした。 - 岩本
- そもそも今回のツールを使えば、
プランナーだけで簡単なデモを
つくることができるんです。 - 水田
- そこにまた問題があって・・・
知らぬ間に内容が変わっていたり、
イベントができてたりすることが
多々あるんです(笑)。 - 久田
- そうなんですよー!
何だかいつの間にか増えていて・・・。 - 岩本
- いつの間にか知らないオブジェクトが置かれてたりとか。
- 岩田
- いつの間に、なんですか(笑)。
- 岩本
- はい、まさに“いつの間にイベント”
っていう感じでした(笑)。