『ゼルダの伝説 スカイウォードソード』
第6回:「濃密なシナリオと演出」篇
- 岩田
- ちなみにシネマシーンは
どのくらいの量をつくったんですか? - 森
- デモ数は79個とかでしたっけ・・・?
- 吉田
- はい。
- 藤林
- 総計は120分以上です。
- 岩田
- えっ!? 120分ですか?
映画1本分じゃないですか! - 藤林
- はい。ただ時間というより、
デモの本数で数えるようにしていたんですけど、
前回の『トワイライトプリンセス』(※3)などを基準にして、
その数に合わせてつくることにしていました。
で、自分が今回の『ゼルダ』で伝えたいシーンを
全部セリフまで書いて、数えてみると・・・
予想よりもかなり多かったんです。
『トワイライトプリンセス』=『ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス』。2006年12月に、Wiiおよびゲームキューブ用ソフトとして発売されたアクションアドベンチャーゲーム。
- 岩田
- 映像を使って伝えたいことが、
藤林さんのなかに、けっこうあったんですね。 - 藤林
- はい。デモの映像には数字をふって整理するんですが、
たとえば30番だと、それに1、2、3というように、
3つくらい入れるようにして・・・。 - 岩田
- 30番の1、2、3・・・ですか?
それって、30番だけじゃないじゃないですか(笑)。 - 青沼
- ごまかしてるんだよなぁ(笑)。
- 一同
- (笑)
- 藤林
- いえ、でも、全部で、79個なんです(笑)。
- 岩田
- だって、30番には1、2、3があるのに、
それを含まないで、79個なんでしょう?(笑) - 藤林
- いや、なので、そこはちゃんと相談しました。
「共通で使えるシーンなので、大丈夫ですよね?」と。
すると、「わあ、多い!」と言われると思ったら、
「まあ、これくらいなら・・・」みたいなことを
吉田さんから言われた覚えがありますし・・・。 - 吉田
- そうですね。
でもやっぱり、そのときもツッコミましたよ。
「これ、3つでひとつなんですか?」と(笑)。 - 森
- 確かにシネマシーンは何回もつっこんでましたよね。
「これ、ひとつじゃないよなぁ」とか言って・・・。 - 藤林
- まあまあ(笑)。
でも、舞台セットはあるものを使えますし、
そうやって上手に使えば大丈夫だと思ったんです。
で、シネマシーンがたくさんできあがって、
ゲームに実装してから、青沼さんに見てもらったんです。
そのときの第一声が・・・「多いなー!」って(笑)。
- 岩田
- あははは(笑)。
- 藤林
- でも、僕が今回、
どうしても実現したかったシーンがあるんです。
序盤のシーンなんですけど、
ゼルダが「スカイロフト」から、
ロフトバードで飛んでいるリンクにむかって飛び降りて、
リンクが、それを空中であわてて受け止めるというシーンなんですが。 - 岩田
- 前回、スカイダイビング中に
空中で女性を助けた人の話をしていましたね。 - 藤林
- はい。今回の「ゼルダ」という女の子の性格を
そのシーン一発で表現したかったんです。
明るくて活発で、感情がたかぶるとパッと体が動いてしまうような。
そのようなシネマシーンをつくったんですけど、
それを見た青沼さんに
「長い・・・長すぎる!」と言われたので
「いかん、このままではカットされてしまう」と。 - 岩田
- 青沼さんは何が不満だったんですか?
- 青沼
- 僕がそのときいちばん気になっていたのは、
序盤にシネマシーンが連続していたからで・・・。 - 岩田
- プレイヤーにすると、
「早くゲームに触らせてよ!」
という気持ちになりますからね。 - 青沼
- そうなんです。
早くゲームのなかに入っていきたいのに、
「こんなに映像で畳みかけられちゃうのはマズイよ」と。
それで、
「そもそも本当にゼルダが飛び降りるシーンが必要なの?」
と言ってしまったんです。 - 藤林
- はい、言われました(笑)。
- 青沼
- しかも、なんだかベタベタした
恋愛シーンみたいなところも気になって、
「『ゼルダ』でここまでやっちゃうの?」
みたいなことを伝えました。 - 岩田
- なるほど(笑)。
でも、藤林さんは、そのシーンを
どうしてもやりたかったんですよね。 - 藤林
- ベタベタ恋愛シーンは、僕ではないんですが、
その場では「ちょっと検討します」と言って
早々に退散して、ほかの部分を削りました。 - 青沼
- だから、彼は最後までやり通したんです。
- 岩田
- 藤林さん、残してよかったですか?
- 藤林
- いや、よかったと思っています。
僕はかなり気に入っています。 - 青沼
- あの、僕も最終的には
残してよかったと思っているんです。 - 藤林
- 寄宿舎のネタにもつながってますしね。
- 青沼
- そう。それに、プレイする人が
ゼルダをどうしても助けたいと思うようになることが、
すごく大事だと思いますから。 - 森
- そうなんですよね。今回はいかにして
「この娘を助けたい・・・!」
と思ってもらえるようになるのか、
それはセリフを書くうえでも
すごく意識したことなんです。
リンクとゼルダが「幼なじみ」という設定もありましたので、
最初から仲がいいのは当然なので、
だからこそ、いままで以上に、リンクに対して
最初から好意を持っているゼルダにしようと考えました。 - 岩田
- 最初から“好意バクハツ”なんですか?(笑)
- 森
- はい(笑)。
それに、今回もゼルダは
序盤でいなくなってしまうんですけど、
彼女をずっと捜していると、
何度かニアミスをして、
その都度、「助けたい!」という想いが
高まるようにこころがけました。 - 青沼
- いままでのシリーズでは、
ゼルダは最初に出たあと、ずっと会えなくて
リンクのひとり旅になっていましたよね。
だから『リンクの伝説』とか言われてしまったり(笑)。
- 藤林
- なので、今回は、ゼルダの姿が見えなくても、
リンクが冒険をしている裏では、
彼女はいまどこで、どんなことをしているのかを想定しつつ
シナリオを書きました。 - 岩田
- ああ、それは新しいですね。
単に、「ゼルダがどこか遠くに行っちゃいました」
ではなくて、彼女の存在をいつも意識しながら
冒険することができるんですね。 - 藤林
- そうです。
さっき森さんが言ったように
ニアミスもたくさんしますし。 - 青沼
- しかも、今回のゼルダはお姫様じゃないですから・・・。
- 岩田
- つまりゼルダ“姫”ではないんですね。
- 青沼
- そうです。
- 岩田
- 最初からお姫様じゃないのは・・・。
- 森
- 『風のタクト』のテトラがいましたね。
- 青沼
- でも、テトラは最初は海賊でしたけど、
最後にはちゃんとお姫様になりましたよね。
今回は、最初から最後までお姫様にならないんです。 - 岩田
- へえー、それはシリーズで初めて・・・。
- 青沼
- はい、初めてです。
なので、ゼルダはふつうの少女としてこの物語に登場して、
途中からは「巫女(みこ)」と呼ばれるようになります。
だから、タイトルが『ゼルダの伝説』でよかったんです。
『ゼルダ“姫”の伝説』じゃありませんから(笑)。 - 岩田
- 確かに(笑)。
- 青沼
- で、ゼルダがなぜ伝説になるのか、
最後に解き明かされるようになっています。 - 岩田
- 初代『ゼルダの伝説』から25年の時を経て、
初めて解き明かされるということですね。 - 藤林
- はい。だから、今回初めて、
正真正銘の『ゼルダの伝説』なんです。