『ゼルダの伝説 スカイウォードソード』
第7回:「女性スタッフ」篇
- 岩田
- 丸浪さんと保坂さんは、
『ゼルダ』を実際につくる側になって
どのようなことを考えるようになりましたか? - 丸浪
- わたしは『風のタクト』を触って、
「これはただカワイイだけのものではないな」
と思ったんです。骨太なゲーム性を核に、
細やかなつくり込みがされているゲームだと感じました。
というのも、たとえば、草を切ることができたり、
石ころにしても、そこに生えてる木にしても、
こちらが何かをすれば必ずと言っていいほど
リアクションが返ってきて、それがすごくうれしくて・・・。 - 岩田
- モノがそこに、ただ置かれているわけではないんですよね。
- 丸浪
- そうなんです。
それは『ゼルダ』ではおなじみのことなんですけど。 - 岩田
- お客さんが、そこにあるモノに
何かをすると、まるで“おもてなし”をするように、
反応があって、驚かせてくれるんですよね。
以前、社長が訊く『ゼルダの伝説 時のオカリナ 3D』のときに、
春花(良紀)さんが、そのことを
“襲いかかるおもてなし”と表現していましたが。 - 丸浪
- そうですね。
まさにそのように“おもてなし”をすることが
『ゼルダ』の伝統になっていると思いますし、
自分が実際にオブジェクトをつくるとなったとき、
そのように、リアクションで感じられる
「モノ」としての手ごたえをできるだけ入れたいと思いました。
- 岩田
- 保坂さんはどうですか?
- 保坂
- 最初にも言いましたが、「没入感」ですね。
たとえば、『トワイライトプリンセス』を遊んで、
そのときに感じたことがあったんですけど、
女の子がさらわれて、リンクがそれを助けるという・・・
幼なじみのイリアだったかな? - 一同
- そうそう。
- 保坂
- そのイリアを助けたときに、
「ありがとう。あなたは先を行って」
みたいな必要最低限のことを
淡々と言うんですけど、
すっかり没入しきっているわたしは
「えええーっ、そうじゃないでしょう!」と。
なんで、こう・・・(ハグする仕草をしながら)
「こうしないの!?」みたいな(笑)。 - 一同
- (笑)
- 保坂
- まぁ、それだけその世界に
のめり込んでいたんですけど、
つくる側になってからは
「そういう没入感を自分でもつくれたらな」と、
理由をさがしたりしました。
それでわかったことですが、
『ゼルダ』のキャラクターというのは
ひとりひとりに最初から設定ができあがっているわけではなく、
みんながいろんな工夫をして・・・。
- 岩田
- 開発している人たちが、寄ってたかって、
キャラクターに命を吹き込んでるんですよね。 - 保坂
- そうなんです。
なので、たくさんのスタッフの考えが
そのキャラクターにどんどん積み重ねられていって、
最終的に、生き生きとした存在になるということが
つくる側になってわかりました。 - 岩田
- なるほど。岩崎さんの『ゼルダ』歴は?
- 岩崎
- わたしは昔からがっつり『ゼルダ』を遊ぶ子だったので、
最初に遊んだのは『神々のトライフォース』(※9)なんです。
小学校のときに買ってもらって、
「なんて面白いんだ!」と。 - 岩田
- じゃあ、硬派なゼルダっ子だったわけですね。
『神々のトライフォース』=『ゼルダの伝説 神々のトライフォース』。1991年11月に、スーパーファミコン用ソフトとして発売された、アクションアドベンチャーゲーム。
- 岩崎
- そうです、大好きでした(笑)。
それこそ何回クリアしたかもわからないくらい、
何年も何年も遊び続けて、
『時のオカリナ』が出たときもすぐ買って、やっぱり
「なんて面白いんだろう!」と。 - 岩田
- そこまで大好きだった『ゼルダ』を
初めてつくる側になったときは、
感慨深いものがあったんじゃないですか? - 岩崎
- そうですね、うれしかったんですけども、
やっぱり、つくるとなると大変なんだろうな、とも・・・。 - 岩田
- 「あんなに楽しんだ『ゼルダ』と同じものを
自分にもつくれるのか?」ということですね。 - 岩崎
- そうなんです。
「あのクオリティのものを、わたしがつくれるのかしら」
という不安がありましたし、
でも、そこはもう、がんばるしかないなと(笑)。
- 岩田
- つくってみて、何か発見はありましたか?
- 岩崎
- 丸浪さんも言っていたように、
やっぱりオブジェクトに、
ふと思いついて試してみたことに対する
リアクションがあるのがうれしいんです。
実際につくる側から見ると、
スタッフ同士が知らないようなことも、
誰かがこっそり仕込んでいるのに気づいたりして、
「そんな細かいところまで!?」という発見の連続でした。 - 岩田
- それは今回、オブジェクトをつくるうえでも
活かされてるんですね。 - 岩崎
- そうです。
- 岩田
- 廣野さんはどうですか?
- 廣野
- わたしは
ファミコン版の『ゼルダ』(※10)が最初のゼルダでした。 - 岩田
- さらに上をいく硬派なゼルダっ子が登場ですね(笑)。
ファミコン版の『ゼルダ』=『ゼルダの伝説』。1986年2月に、ファミコンのディスクシステム用ソフトとして同時発売された、アクションアドベンチャーゲーム。
- 廣野
- はい(笑)。で、スーパーファミコン版もプレイして、
その後、しばらくゲームをしなかった時期があったんですけど、
NINTENDO64で『時のオカリナ』が出たときに、友だちが
「すごく面白いよ」と言うので遊んでみたんです。
すると、当時のわたしは3Dゲームで遊んだことがなかったので、
ものすごいショックを受けて・・・。 - 岩田
- 『神々のトライフォース』の2Dの世界から
『時のオカリナ』の3Dの世界に触れて、
カルチャーショックのようなものを受けたんですね。 - 廣野
- はい。なので、ものすごくあの世界に没入して、
ありとあらゆるものとたわむれました。
たとえば木があればぶつかったり、剣で叩いたり、
町の人には何度も話しかけて、
ゴシップストーン(※11)があれば無意味に打ち上げたりとか(笑)。
- 岩田
- バクダンを置くんですよね。
ゴシップストーン=ゲーム内でヒントなどをくれる石。
- 廣野
- はい(笑)。
ロケットのように飛んでいくんですけど、
それを眺めながら
「なんて面白いんだろう・・・」と。
で、任天堂に入社してから、『風のタクト』のときに
スタッフとして少しだけかかわることになって、
どうやってキャラクターがつくられるのか、
はじっこから、ちらちら見る機会があったんです。 - 岩田
- 先輩の仕事をちらちら見ていたんですか。
- 廣野
- はい。すると、キャラクターたちが
本当に生きてるという感じがしてきて、
ただ普通にしゃべるだけの人がいないというか・・・。 - 一同
- (そろってうなずきながら)そうそう。
- 廣野
- 制作が進むにつれて、キャラクターたちに
背景が生まれたり、どんどん命が吹き込まれていく感じで
「ああ、こうやってつくられるんだ」と驚きました。
そして、今回の『スカイウォードソード』で
キャラクターをつくるときに心がけたのは、
見た目はおかしくても、親しみがありつつ、
かわい気も出したいなあと・・・。
丸浪さんと保坂さんも言ってましたけど、
「かわいい」というのはフックになると思うんです。 - 岩田
- しかも“濃い”キャラクターに、ということですよね。
- 廣野
- はい(笑)。
ちっちゃい子どもが見ても、
すぐに覚えられるようなインパクトも意識しながら、
親しみやすいデザインを心がけました。 - 岩田
- ・・・それにしても面白いですね。
みなさん、それぞれ過去に『ゼルダ』を体験した
感想を訊いたわけですが・・・
たとえばゴシップストーンを打ち上げるのが楽しいとか。 - 廣野
- はい(笑)。
- 岩田
- 草を切るのが楽しいとか。
- 丸浪
- はい(笑)。
- 岩田
- 「どうしてハグしないの?」とか。
- 保坂
- はい(笑)。
- 岩田
- そもそも『ゼルダ』というのは、剣を持って
怖そうなモンスターと戦うゲームですよね。
にもかかわらず、
「強そうな敵をやっつけて、スッキリしました」
というような声がまったくなかったことは
女性ならではなのかもしれませんし、
そういったことも、『ゼルダ』の幅広い魅力というものを、
じつは表しているということなんでしょうね。 - 一同
- (そろってうなずきながら)そう思います!