『ゼルダの伝説 スカイウォードソード』
第7回:「女性スタッフ」篇
- 岩田
- では岩崎さん、アイテムの話をしましょうか。
- 岩崎
- はい。
- 岩田
- 『ゼルダ』におけるアイテムづくりというのは、
それを任せられた人は何を考えてつくるんですか? - 岩崎
- アイテムにもいろいろあるんですけど、
まずはどこでつくられたかを考えるようにしています。 - 岩田
- アイテムの生産地を考えるんですね。
- 岩崎
- そうです。「スカイロフト」で生まれたアイテムは、
そこに住んでる人がデザインし、
そこに住んでいる人がつくったものなんです。 - 岩田
- 空中にある「スカイロフト」は
地上の世界と隔絶されてるわけですからね。 - 岩崎
- そうです。
なので、そこからいろいろ妄想してみるんです。
「スカイロフト」はけっこう素朴な土地ですので、
すごく細かい模様だとか、ゴージャスなデザインではなく、
きっとシンプルなデザインをするはずなんです。
しかも、モチーフにするのは、
たぶん雲とか鳥のように、身近なものだろうと・・・。 - 岩田
- スカイロフトの人になったつもりで
妄想し、デザインをする・・・。 - 岩崎
- はい。なので、いろんなものに
鳥の絵が描いてあるのはもちろんのこと、
羽根だとか、鳥の足跡だとか、風であったりとか、
そういうものをたぶん模様にするんだろうな、と思って
盾にも、そういうモチーフを入れたりしました。
- 岩田
- だから、リンクが「スカイロフト」で
最初に手に入れる盾には
鳥の足跡のマークが入っているんですね。 - 岩崎
- そうです。で、そのように
素朴なデザインをする人たちがいる一方で、
今回は女神さまがつくったアイテムだとか、
昔に栄えていた古代文明がありますので、
それらは不思議な金属であったりとか、
あとはよくわからないツルッとした
不思議な素材でつくられたものを考えました。 - 岩田
- だから、生産された土地や
その背景にある文化を意識しながらデザインするので、
それぞれに個性が立つものになるんですね。 - 岩崎
- そうです。ひと目でそれがどこでつくられたのか
わかるといいなと思ってデザインしました。 - 久田
- わたしは、「スカイロフト」の地形を担当しましたけど、
1軒の家をつくるだけでも、それが木でできているのか、
それともレンガづくりなのか、というところでまず悩むんです。 - 岩田
- そこで、妄想をはじめるんですね。
- 久田
- はい。空に浮いている土地なので
そこに木がたくさん生えてるというのもおかしいですし、
そもそも風が強いでしょうから
高木が育ちにくいはずなんです。
すると、木は彼らにとってはすごく贅沢品になっていて、
建築資材としては、潤沢には使えないと。
そこで、「やっぱり土づくりかなあ」と、
デザイナー間でいろいろ妄想して。 - 岩田
- 建物の素材まで考えるんですね。
- 久田
- そうです。
- 岩田
- なるほど。
そのデザインがとても自然に感じられるよう、
ゲームには出てこないところでも
いろいろ考え抜かれているということなんですね。 - 久田
- はい。
- 岩田
- デザインといえば、
そもそも、今回の絵柄そのものが
とても新しいチャレンジですよね。 - 久田
- そうですね。
- 岩田
- いわゆる、コンピューターグラフィックスの
ツルンとしたフォトリアリズムの世界でもないですし、
『風のタクト』のようにトゥーンレンダリング(※13)の世界でもなく、
「今回は新しいデザインの方向をつくろう」という
強い意志のようなものを感じるんですけど、
どうやってそれは生まれたんですか?
トゥーンレンダリング=3Dコンピューターグラフィックスのひとつ。3次元のデータから漫画やイラスト風にレンダリングする技術のこと。
- 久田
- そもそもわたしは
ゲームがあまり得意ではないということもあって、
わたしと同じような人でも
入り込みやすい世界観をつくろうと思ったんです。
そこで、全体的に明るく色鮮やかな印象を意識してつくりました。
ぱっと見の印象が怖くないほうが、手に取りやすいですよね。 - 岩田
- 確かにダンジョンも含めて、
明るくなった印象がありますね。 - 久田
- あと明るいというのには
もうひとつ理由があって、
見やすさというのもすごく重視しました。 - 岩田
- 画面が暗いと、どうしても迷いやすくなりますよね。
- 久田
- はい。そこで、どこにネタがあるのか、
敵はどこにいるのか、どの道に進めばいいのか、
ということを、わかりやすくすることも
今度の『ゼルダ』では必要だという話になったんです。
なので、バクダンのようなアイテムも
「これはオブジェクトだ」と
はっきりわかるようにつくりました。
- 岩田
- つまり、オブジェクトとか人物とかが、
背景に埋もれないようにしようとしたんですね。 - 久田
- そうなんです。
- 岩田
- でも、それをあまりにやりすぎると、
そのオブジェクトだけが目立ちすぎることになって
違和感が出ることになりませんでしたか? - 久田
- はい、そこがいちばん悩んだところでした。
- 岩田
- たとえば、とても優れたアニメを見ると、
背景はすごく細かく、リアルに描き込まれているんだけど、
その手前で動くキャラクターは、
とても対称的なシンプルな線で描かれているのに
何の違和感もなく見られたりしますよね。 - 久田
- そうですね。
- 岩田
- 今回は、そのようなアニメにも似た新しい
チャレンジだったんじゃないかと思うんです。
実際、そういった部分の違和感がないんですけど、
それがうまく成立できたのは、どうしてだと思いますか? - 久田
- じつは、開発初期の頃は、背景だけでなく
敵やオブジェクトも水彩画調にしていたことがあったんですが、
敵とかも全部が背景のなかに埋もれてしまって、
目的がぜんぜんわからなくなってしまうんです。
そこで、キャラクターなどの表現は全部、
トゥーンレンダリングに近い「ハーフトゥーン」という技法にして、
あえて目立つようにしたんです。 - 岩田
- トゥーンレンダリングの技法を
部分的に使っている、ということですね。 - 久田
- そうです。で、試しにその技法を使ってみると、
トゥーンレンダリングほどペタッとした表現ではなく、
少しフンワリした柔らかい表現になるんです。
先ほどのアニメの話にあったように、
背景は写実的に描かれているのに、その上で
シンプルかつ柔らかく描かれたキャラクターが動いていても
何の違和感もなかったので、
「これでうまくいけるかな・・・!?」と思ったんです。
ただ、それでも目立ちすぎたり、
背景に埋もれたり、という問題はあちこち出ました。
なので、あとはもう、常にチェックしながら、
色味や明度を細かく調整したりとか、
背景の水彩画調具合を調整したりとか、
あとはライティングとかも・・・。 - 岩田
- ああ、やっぱり1個1個の
細かな調整をすごくやったんですね。 - 久田
- もう、それはすごい調整をしました。
最後は夜なべをしながらの調整になりましたから。 - 丸浪
- ホントに1個1個調整しました。
たとえば、草や木のように、
ただ純粋にリアクションを楽しむだけのものであれば、
ある程度は背景に埋もれていても
それに気がついた人に楽しんでもらえればいいんですけど、
そうじゃないオブジェクトもありますので。 - 岩田
- それに気がつかないと、謎解きができなくて
先に進めないということもありますからね。 - 丸浪
- そうなんです。
なので、水彩画調に馴染ませつつも、
そこにあることに気づいてもらえるように、
ひとつひとつ調整していきました。
- 岩田
- アイテムはどうだったんですか?
- 岩崎
- 今回のバクダンは水色なんですけど、
最初はもっと色が濃かったんです。
ところが、暗い地下ステージに持っていくと
見えなくなってしまって・・・。 - 岩田
- バクダンが見えなくては困りますよ(笑)。
- 岩崎
- はい。そこで、地上でも地下でも
ハッキリ見えるように、思い切って色を明るくして、
さらにまわりと馴染むようにしました。 - 岩田
- だから、今回のような水彩画調の絵柄を
うまく成立させることができたのは、
最後は、ひとりひとりが、それぞれ担当するものを
みんなで寄ってたかって、手作業で調整して入れました、
ということなんですね。 - 一同
- はい。