『ゼルダの伝説 スカイウォードソード』
第8回:「何百時間も『スカイウォードソード』を遊んだ人たち」篇
- 岩田
- さてここからは、
いつもの「社長が訊く」とは
ちょっと趣を変えていきたいと思います。
今回『スカイウォードソード』のデバッグでは、
すごくたくさんの方に、何百時間もの長い間、
プレイしていただきました。 - 青沼
- 600〜700時間はザラで、
なかには1000時間という方もたくさんいます。 - 岩田
- それだけプレイしたら普通、
「もう二度と見たくない!」って
思う気がするんです。
でも、その方たちはみんな口を揃えて、
「商品が出たらまた買って遊びたい」と、
言ってくださっているそうなんです。 - 青沼
- 本当にそうなんですよ。
けっして、社交辞令とかではなくて。 - 岩田
- それを聞いてわたしは、
「彼らがデバッグのなかで感じたものは何なんだろう?」って、
とても興味を持ったんです。
そこで本来であれば、その方たち全員を招いて
お話を伺いたいところなんですが、
それはさすがに無理なので・・・。 - 青沼
- はい(笑)。
- 岩田
- 彼らに、意見や感想をコメントとして書いてもらって、
バーチャルにこの「社長が訊く」に
参加していただけないか、と提案したんです。 - 青沼
- いわば「社長が訊く マリオクラブ(※6)篇」的な企画ですね。
マリオクラブ=マリオクラブ株式会社。任天堂の開発中ソフトのデバッグやテストプレイを行う。
- 岩田
- はい。コメントは、日本のマリオクラブ、
そしてアメリカ、欧州、韓国で、デバッグや翻訳などに
携わっていただいた方々にご協力をいただきました。
それらをご紹介しながら、お話ししていきたいと思います。- 青沼
- この方は韓国の方で、880時間プレイした方です。
- 青沼
- 岩田
- いきなり880時間ですか・・・(笑)。
- 青沼
- はい(笑)。
「やればやるほどおもしろく」っていうのは
まだわかるんですけど、
「新鮮」っていうのはどういうことなんだろう?
って思いますよね。
- 岩田
- 知ってるところを繰り返しやったら、
普通、新鮮には感じられないはずですが・・・。 - 青沼
- そこなんですが、その理由をもう少し具体的に、
欧州の別の方が挙げられています。- 青沼
- この方はプレイするたびに「敵の新たな倒しかた」が
みつけられる、ということを言っているんです。 - 青沼
- 岩田
- ・・・それは、Wiiリモコンプラス(※7)のおかげで、
表現力とバリエーションが増えたことが
影響しているんじゃないですか?
Wiiリモコンプラス=2010年11月に発売された、Wiiモーションプラス(ジャイロセンサーを内蔵し、細やかな動きを感知できる周辺機器)と一体型のWiiリモコン。
- 青沼
- そうなんです。
組み合わせ自体が無限にあるわけで、
何度も遊んで経験すると
自分の腕も上がってきて、
同じ場面でも必然的に、
違ったやりかたになるんです。
それで、そのやりかたを試すと
また別の、新たな発見があって・・・。 - 岩田
- ああ、だから何百時間遊んでも、
まだ遊びたい、となるわけですか。 - 青沼
- まだやり残してることがある、と
感じられるようなんです。 - 岩田
- 青沼さん、
そういったことはたぶん、
これまでの1人で遊ぶゲームでは
前例のないことだと思いますよ。 - 青沼
- たしかに、デバッグのとき、僕も
何度も同じ場面をプレイしていましたけど、
苦ではなかったです。 - 岩田
- 苦にならなかったのは、なぜなんですか?
- 青沼
- まあ、僕の場合は、まだ開発途上で
ゲームがどんどん改良されていったのもありますが、
人から見たり聞いたりした攻略法を
試したくなるんです。
僕のやりかたはじつはダサいやりかたで、
もっとスマートなやりかたがあったりしたので(笑)。 - 岩田
- なるほど(笑)。
とは言っても、マリオクラブの方たちは、
ゲームを極める最良ポイントを
いとも簡単にみつける、熟練のスタッフたちですよね。
その彼らをもってして「まだ奥があるぞ」って
言わしめるのは、やっぱり相当なことなんじゃないか?
って思います。- 岩田
- これは、わたしがとても新鮮に感じたコメントです。
すごく端的に、魅力を表現されていて、
ありがたいなと思いました。 - 岩田
- 青沼
- そうですね。僕は海外のメディアの方に、
「戦闘も、謎解きになりました」って答えていたんです。
本当にふっと素直に、その言葉が出てきました。 - 岩田
- 今回は作り手が用意した謎解きのほかにも、
戦闘の謎解きが無限にある、ということですね。 - 青沼
- ボタンで行っていた戦闘とは違って、
いろいろ試すと、それに応じた反応の変化が発見できる。
それが楽しい、っていうことを
メディアのみなさんもおっしゃってくれました。 - 岩田
- そこが、みなさん共通した点なんですね。
- 青沼
- はい。そういう意味では、
『ゼルダ』はもともと1人で遊ぶゲームですけど、
今回の『スカイウォードソード』は
みんなで遊ぶともっと楽しいんじゃないか、って
ずっと思ってるんです。 - 岩田
- なぜ、そう思うんですか?
- 青沼
- まず、人がどんな風に遊んでいるのか気になりますし、
逆に見せたくなる感覚もあったりします。
そんな気持ちが、これから遊ぶ方のなかにも
自然と生まれてくるんじゃないかな、って気がするんです。
友だちや兄弟、家族みんなでわいわい遊ぶ。
これは過去の3D『ゼルダ』にはありえないことだったんですけど、
やったらすごくおもしろいです、きっと。 - 岩田
- そんななかには、スマートな戦いかただけじゃなくて、
むやみに振り回すからみつかる新しい発見も
さらにあったりしそうですよね。 - 青沼
- 1つ目のコメントは、
フランスの翻訳のリーダーの方です。 - 岩田
- 自分の体験を語るように、
Wiiリモコンプラスになじんでいく様子が
目に浮かんできますね。 - 青沼
- 欧州の方はけっこう、自分が感じとったさまを
物語のように書いてくださって、
読んでいて気持ちが伝わってきます。
ゲームの世界に没入した気持ちそのままを
表現しなきゃ気がすまない、みたいな感覚なんですね。 - 岩田
- 2つ目は、本編をなんと20周!した方のコメントです。
- 青沼
- 「リンクになる」って、深いですね。
- 岩田
- 『ゼルダ』はリンクが画面内に見えるから
それを操る「3人称視点」(※8)のゲームなわけですけど、
それにとらわれない一体感のようなものを
感じていただけたんですね。 - 青沼
- いままでは、1人称視点(※9)の目線じゃないと
没入できない、っていう固定観念があったように思うんです。
ところが『スカイウォードソード』は、
その概念を覆すことができているのかもしれない、と
このコメントを読んで感じました。
3人称視点=画面内に映し出されているキャラクターを見ながら操作する視点(でプレイするゲーム)。3rd Person Viewとも呼ばれる。
1人称視点=画面を見たプレイヤーの視点がそのままゲームの操作キャラクターの視点(でプレイするゲーム)。広くはFPV(First Person View)と呼ばれることが多い。