『ゼルダの伝説 スカイウォードソード』
第8回:「何百時間も『スカイウォードソード』を遊んだ人たち」篇
- : 青沼
- これも、深いコメントです(笑)。
- 岩田
- この方がおっしゃるとおり、
根本の構造はとにかくシンプルなんですよね。
それぞれの要素の役割が、きちんと
何のためにあるのか、はっきり決まっている。
そのうえで、ひとつひとつの徹底ぶりが・・・
ひどいくらい濃密と(笑)。 - 青沼
- はい(笑)。シンプルな構造だからこそ、
そこにいろんなものを
どんどん入れていけたんです。 - 岩田
- シンプル&ディープ、なんですね。
- 青沼
- そうです。シンプルだからこそ、
何度も遊べる感覚も生まれたんだと思います。
今回、冒険の拠点である「スカイロフト」から
地上に降りるのも、感覚的には
「ちょっとご近所に行く延長線」
くらいの気軽さになっているんじゃないかと(笑)。 - 岩田
- もともと「マリオのコース選択」(※10)みたいな発想ですし、
ポンとすぐに行って、さぁ冒険、みたいな感じですからね。
マリオのコース選択=ワールドマップ上のキャラクターアイコンを操作し、マップを移動するシステム。『スカイウォードソード』ではこの発想を元に、空のフィールド移動のシステムがつくられた。
- 青沼
- じつはそういった背景には、
セーブシステムを変えたことも
大きくかかわっているんです。
これまでの『ゼルダ』は、代々、
どこでもセーブできる方式だったんですけど、
再開はリンクの家だったり
ダンジョンの入り口からだったりで、
その場からの再開はなかったんです。
これには、一度通った場所から改めて再開したほうが
その世界に慣れて、スムーズに進める感覚を得られる、
という意図があったからなんです。 - 岩田
- それがいままでの「ゼルダ作法」でしたよね。
- 青沼
- ただそうすると、たとえば
ダンジョンのボスに負けてしまったとき、
入り口からやり直すことになるのは、
いまはストレスに感じることのほうが多いんじゃないかと。
倒すための別のアイデアを思いついても、
すぐには試せないわけですから。 - 岩田
- なるほど。
それで、アイデアを思いついたらすぐ試せるように、
時間のサイクルを短くする工夫を
いろいろ凝らしたんですね。 - 青沼
- そうです。
今回はセーブポイントを特定の場所に定めて、
その起点から、いろいろすぐに試せる構造になっています。
これも結果、シンプルさにつながっています。 - 岩田
- セーブの仕方も含めて、今回はとにかく
トライ&エラーの仕組みがうまくできていますね。
思いついたことがシンプルなステップで
すぐにできて、あらゆる場面でストレスを意識させない。
同じ時間のなかでも、次々にいろんなことができる。
だから、プレイ時間も濃密に過ごせるんですね。- 青沼
- この方はフランスの方なんですが、
キャラクターの表情や演出だけで、
言葉がわからなくても次に自分が何をすればいいかわかる、
って書かれています。 - 青沼
- 岩田
- 青沼さん、すごいことですよ、これは。
第三者の視点で言われて初めて、はっとする言葉です。
だって、わたしたちのなかでは、『ゼルダ』って
ある程度言葉の説明がないとできないゲーム、と
思い込んでいたじゃないですか。
- 青沼
- そうですね・・・つくり手としては
その先に何があるかを少しずつ説明して
理解してもらいながら進んでもらおう、
と思ってるわけですし、
そこは言葉で伝えないと無理だと思ってたんですが、
今回はそれがなくても伝わっていた、
ということなんでしょうか。 - 岩田
- そうみたいですね。
- 青沼
- まあ、これも、
基本がシンプルだからこそ伝わって、
どんどんディープに楽しめるわけですよね。
『ゼルダ』におけるシンプルさって、
これほど重要なことだったんだなぁって、
改めて再認識させられました。 - 岩田
- 開発者としては、悩ましい部分なんですよね。
このシンプルさを、お客さんに満足してもらえるのか、
怖い部分があるじゃないですか。 - 青沼
- たしかに『ゼルダ』というタイトルは、
いろんなことを求められている感覚があります。
ある種、複雑にしていかないと
満足してもらえないんじゃないかって、
不安が常にあるタイトルでしたから。 - 岩田
- とくにシリーズを重ねると、どうしても
こねくりまわしがちになってきますよね。 - 青沼
- そこはやっぱり、つくり手としては
より高度なもののほうが、新しい驚きだったり、
探求心に結びつくはずだ、と思っているわけですから。
でも、そうじゃなかったんですね。
一見矛盾しているようなんですが、
まるで「北風と太陽」のお話のように、
今回、それがよくわかりました(笑)。 - 岩田
- そうですね(笑)。
そのたとえ、よくわかります。- 青沼
- これは、NOA(※11)の方ですね。
さきほど言った、やり直しが簡単、
ということも大きいと思いますし、
そういう点が現代のニーズに
マッチしたものになったのかなと思います。 - 青沼
NOA=Nintendo of America(任天堂のアメリカ現地法人)。
- 岩田
- 「剣を振るだけでおもしろい!」
って感じる瞬間が常に継続してあるわけで、
退屈する場面がないということなんでしょうね。 - 青沼
- たしかに“やらされている感”は
ほとんどないんじゃないかと思います。
とくに海外の方は自由度を求める傾向が強くて
一本道で進むRPGを好まない傾向があるんですが、
『スカイウォードソード』の場合は
システム的には一本道なのに、自由度がない、
といった印象を持たれていないんです。
- 岩田
- すべての戦闘において
自由度が満載だからですかね? - 青沼
- はい、そう思います。
もう試したくなることが山ほど出てくるわけで。
そういう点が大きいんだと思います。 - 岩田
- まとめてご紹介しましたが、これらはすべて、
これまでの『ゼルダ』と何が同じで、何が違うのか?
という設問に対してのコメントです。 - 青沼
- 最後の方が続けて書いてくださってることが
おもしろいので、続きを紹介しますね。 - 岩田
- あぁ、たしかにダメな大人です。
しかも濃すぎです(笑)。
でもこのコメントからは、愛をすごく感じますね。 - 青沼
- 全般的に、
「キャラクターがものすごく魅力的です」
と書かれているコメントが多いんです。 - 岩田
- これまでのシリーズでもキャラクターは
十分に魅力的なはずですが、
今回とくにそう言われている理由は
どこにあるんでしょうか? - 青沼
- いちばんの大きな理由は、
さっきのコメントにもあったように、
普通の登場人物以外に
敵キャラにも個性が感じられる点だと思います。
それは戦闘のリアクションの効果が大きいんですが、
「ボコブリンはパンツに執着心がある」とか、
ファイがひとこと説明をしてくれるわけです(笑)。
それはあくまで設定上の遊びだったりするんですけど、
みんながそれを、
「こいつはそういうやつに違いない」
って感じてくれているんです。 - 岩田
- なるほど。
あと、わたしが驚いたのは、
みなさんがそんな風に思い入れを持って
語ってくださるポイントやディテールが
けっこう違うことなんです。 - 青沼
- あ、たしかに。
みんなそれぞれ違いますね。 - 岩田
- 戦闘がおもしろい、
みたいなところは共通でありますが、
「誰々が好き」とか、「○○がいい」という話が、
じつにバラバラで、楽しそうに語ってくださるんです。
これがとてもよいことですし、うれしいことですね。