『キキトリック』
2. 聴覚とはコミュニケーション
- 岩田
- 坂本(賀勇)さんは、
要所要所で相談にのっていたんですか?
- (任天堂)坂本
- そうですね。
最初は佐藤さんにお任せしていましたけど。
- 岩田
- 佐藤さんは非常に好奇心が強い人で
自分でどんどん深く掘っていけるから、
じつはわたしも見守っていようと思っていました。
逆に、ひんぱんに干渉されなかったからこそ、
じっくり音を追求できたのかもしれないですね。
- 佐藤
- はい。半年ぐらい掘りつづけて、
誰とも連絡をとらない時期もありました(笑)。
でもなんだか散漫になってしまったので、
坂本さんに相談したら、軸となることを
いろいろアドバイスしてもらえたんです。
「ノイズ君たちと耳の職人たち(ミミプロ)っていう
わかりやすい仕組みをつくったほうがいい」
と言われてから、バラバラだったピースが
ガシャンガシャンとはまったんです。
- 岩田
- 面白そうな材料はいっぱいあったんだけど、
どうまとめるべきかを悩んでいた時期があったんですね。
- 佐藤
- ええ、だいぶ悩みました。
仕組みができた後も途中で煮詰まってしまって、
「どこか面白さが足りないです・・・」
ってまた坂本さんに相談したら、そのときも
いいアドバイスをもらって道をつくってくれました。
- 岩田
- 毎日このことを考えている役割の佐藤さんと、
ふだんは少し離れていて、
ときどき出てきたものを見たときに
お客さんとしての第一印象で
どう見えるかを考える坂本さんと、
きれいに分担できていた感じでしたね。
- 佐藤
- はい。でも、そのときのアドバイスは衝撃だったんです。
「これはひとり用ゲームじゃなくて多人数用ゲームだと、
パッケージに書いたらどうだ?」っていう、
ものすごく思い切ったことを言われたので(笑)。
- 岩田
- 「ひとりでは遊べません」っていうことですね。
わたしも「そんな無茶な・・・」
と思ったのを覚えています(笑)。
- 佐藤
- 最初は冗談かと思いましたから。
でも、どこかで納得できる部分があって、
チームのみんなにも話してみたんです。
そうしたら・・・
ものすごくたたかれちゃいました(笑)。
- 岩田
- まぁ、ゲームは普通、ひとりで楽しめないと
いけないことになってますからね。
- 佐藤
- はい。ですから最終的には
もちろんひとりで遊べる仕様になっているんですが、
明らかにまわりに人がいたほうが楽しいんです。
なので、ゲームの最初にノイズ君が
「おおぜいで遊んでね」って言うようにしました。
まずは人を呼んできて、
みんなでやってもらうようにするところから徹底しよう、と
坂本さんが方向を示してくれたおかげで、
その後、僕もブレずにつくることができました。
- 岩田
- 「Wiiリモコンを持たなくてもいいから呼んできて」
というのは、このソフトの重要なポイントですよね。
- (任天堂)坂本
- そうですね。
やはり「みんなでやると楽しい」っていう部分の反面として、
参加していない人にとっては迷惑かもしれないですよね。
だから「これはいろんな人が参加する遊びなんだ」
ってあらかじめ認識してもらうよう、
ゲームデザインの中に盛り込むべきだと思ったんです。
- 佐藤
- 極論を言ってもらえたおかげで
割り切って考えられたので、
そこからは「みんなで楽しめる」要素を
さらに盛り込んでいきました。
- 岩田
- それにしても・・・
佐藤さんは、ふたりのまったく違う
坂本さんのあいだでつくっていたわけですよね(笑)。
- 佐藤
- はい(笑)。
任天堂の坂本さんもそうなんですが、
オトデザイナーズの坂本さんも、すごく情熱的な方でした。
「世の中はコミュニケーションがすごく大切です。
このゲームでは、耳を通じてコミュニケーション能力が
上がるとうたい文句にいれたいくらいなんです!」
っていつもおっしゃっていましたよね。
- (オトデザイナーズ)坂本
- まぁ、そう言い切ってしまうと
学術的に効果を証明するのは難しいので、
キャッチコピーにはできませんけど、
ゲームを遊んでいる方に、
「他者とのコミュニケーションに役立ててもらいたい」
という思いがあるんです。
人だけに限らず、自然や環境の中のあらゆるものとの
コミュニケーションに聴覚は重要ですから。
- 岩田
- ああ、その話にはすごく共感できます。
コミュニケーションの力は、世の中では
“しゃべる力”や“プレゼンテーションする力”
と思われがちですが、わたしは、
“聞く力”が土台としてすごく大事だと思います。
それがあってこそ相手と適切なコミュニケーションができて、
そこではじめて相手に共感してもらえると思いますから、
結果的に相手にプレゼンテーションする能力が
高くなるんですよね。
- (オトデザイナーズ)坂本
- はい。一方で、やはりゲームですから
「勉強のような雰囲気はいやだなぁ」と思っていました。
だから、パッと音が流れたときに、
どこを向いていてもみんなが聞けて、
面白いと思ってもらえるようにできないか、
佐藤さんと随分話し合いました。
- 佐藤
- ゲームにはノイズ君たち
5人のキャラクターが出てきますが、
5人それぞれ、普通の声から少し情報をなくしたり、
聞き取りづらくしたりしています。
じつは聞こえなかった部分は、
脳が勝手に補足して聞き取ろうとするんですが、
そのときに自分の語彙や経験などから補おうとします。
だから、相手の気持ちになって聞くことで、
すごく聞き取りやすくなるはずです。
たとえばノイズ君は小学生のキャラクターだから、
小学生が言いそうな話として聞くと、聞き取れるんです。
- 岩田
- へぇー。
- 佐藤
- たとえば「テストが・・・」って言うと、
後半は聞こえなくても小学生なら
「点数がよかった」「悪かった」って言うだろうなと
みんな想像していくんですね。
そういった部分は、心を込めて人の話を聞くための
材料になっているんじゃないかなと思います。