『キキトリック』
4. 「任天堂の変な音ゲーム」
- 岩田
- このゲームがどんな方に注目されているかを
調べたところ、わりと幅広い世代の女性の方に
興味を持ってもらえているようなんです。
- (オトデザイナーズ)坂本
- 女性に評判がいいというのは
わたしも意外だったんですけど、
たしかに納得する部分もありました。
- 岩田
- それはどうしてですか?
- (オトデザイナーズ)坂本
- 聴覚心理の実験や研究では、聞き取り能力に関しての
男女差はあまり聞いたことがないんです。
だからこれは日常習慣の問題だろうと考えたとき、
音声コミュニケーションや
他者とのコミュニケーションの機会は、
圧倒的に女性のほうが多いんです。
奥様方の井戸端会議でも、
女性はものすごくしゃべっていながら
きちんと相手の声を聞いているんです。
でも男性は、自分の主張をしゃべりだすと
相手の話なんか聞いてないことが多い(笑)。
- 岩田
- ああ・・・そうかもしれません(笑)。
- (オトデザイナーズ)坂本
- そういう意味では女性のほうが、
このゲームを理解しやすいのかもしれないです。
- (任天堂)坂本
- あと、これは僕の考えなんですが、
ある日突然、コツをつかんだり鍛えられたりして、
聞こえなかったものが聞こえるようになるという
日常の不思議な体験や感覚は、男性に比べて
女性のほうが好きなんじゃないかなという気がします。
- 岩田
- ビデオゲーム自体が、競争して1番になるとか、
何かを倒すといった遊びが主流ですから、
こういった不思議な感覚はまだまだ未開拓なんでしょうね。
『トモダチコレクション』(※13)なんかも
圧倒的に女性支持の強いゲームですし、
何か共通点があるのかもしれません。
『トモダチコレクション』=2009年6月、ニンテンドーDS用ソフトとして発売されたそっくりトモダチコミュニケーションソフト。
- (オトデザイナーズ)坂本
- じつは『トモダチコレクション』と『キキトリック』は、
けっこう、ノリが似ていると感じているんです。
『トモダチコレクション』では、
友だちをつくるためにコミュニケーションが必要ですよね。
そういうところが、『キキトリック』の
最初は声も聞き取れないような人たちと交流するうちに、
友だちになっていくところと同じなんですね。
- 岩田
- たしかに、声が聞き取れるようになると、
友だちになっていくわけですからね。
- (オトデザイナーズ)坂本
- そうです。
相手の言っていることを聞き取れるというのは、
友だち関係の第一歩です。
だから坂本さんが『トモダチコレクション』を
つくられているということを
後から聞いて、わたしはすごく納得したんです。
- (任天堂)坂本
- 『トモダチコレクション』と『キキトリック』の
共通点をあえて言えば、ゲームから飛び出した、
外でのコミュニケーションが楽しいことかなと思うんです。
- (オトデザイナーズ)坂本
- 底流に流れるノリが似ている気がします。
“ゲームの外でのコミュニケーション”
というところがすごく共感するところです。
わたしは聴覚の専門家なのでなおさら感じるんですが、
現代社会では、何でもかんでも
視覚に情報を詰め込みすぎていると思うんです。
視覚はそれほど容量の大きい感覚ではないので、
外に出す情報がないと
受け手がストレスを抱えてしまいます。
- 岩田
- ありとあらゆる情報が
視覚に飛び込んでくることに対する
問題意識とも言えますね。
- (オトデザイナーズ)坂本
- はい。その中でも『キキトリック』は
現代人の五感のバランスに非常に合っていると思います。
- 岩田
- では最後に、
みなさんが「これはこういう商品です」と
言葉で説明するとしたら、どのように表現しますか?
佐藤さんからお願いします。
- 佐藤
- 難しいですね・・・。
僕は多くの人にプレゼンテーションをしたんですけど、
最終的には言葉で説明するのではなく、
1分くらいのデモをつくって見てもらったんです。
このデモは、製品にも入っているんですが、
まず、「今から流れる音は声です。」というアナウンスの後、
ノイズ君がザッザザザッとしゃべります。
このデモで音を聞いていただくと
みなさんすごくおどろかれるんです。
実際に体験していただくことが、
いちばんのおどろきにつながるので
言葉には落とし込めないんじゃないかなと感じました。
- 岩田
- オトデザイナーズの坂本さんはどう思われます?
- (オトデザイナーズ)坂本
- ひとことで伝えるとしたら、
「画面を見なくてもWiiリモコンを持たなくても、
参加できて面白いゲームだよ」って言いますね。
- 岩田
- それは世の中でも前例が非常に少ないことですよね。
テレビを向いてなくても遊べるし、
振り返って答えを言うだけでもいいわけですから。
テレビをきちんと見てなかった人が、
突然、答えをつぶやくクイズ番組と似ていますね。
- (オトデザイナーズ)坂本
- そうです。まさにあのノリです。
それこそが聴覚の特徴そのもので、
楽しいポイントだと思います。
- 岩田
- 坂本(賀勇)さんは?
- (任天堂)坂本
- 僕も、言葉で表現するのはすごく難しいと思います。
何を言っているのかわからない言葉に対して
「あ、なるほど」とハッとする瞬間を
言葉にするのは非常に難しいと思いますから。
だから佐藤さんが言うように何か体験できる方法をさぐって、
それをもとにオトデザイナーズの坂本さんがおっしゃった
「Wiiリモコンをにぎっていない人でも楽しめる」ところに
うまく導ければ、新しい遊びのスタイルを
アピールできるのではないかなと思います。
- 岩田
- わたしは、新しいものをつくったときに
どうやって言語化するかをいつも考えるんです。
もちろん、体験していただくのがいちばんなんですが、
体験していただいた方がほかの方と共有するときに
言語化できるようなキーワードをお渡しできると、
周囲に伝わりやすくなるんです。
でも言語化できないとなかなか広がりづらいので、
しつこく探して、考えているんです。
- (任天堂)坂本
- ・・・やや乱暴ですが、
「任天堂の変な音ゲーム」というのが、
わりとわかりやすい気がします(笑)。
「何それ!?」っていうところから興味を持ってもらえれば。
- 岩田
- 『トモコレ』や『メイドインワリオ』や『リズム天国』を
つくったチームの人たちがつくった「変な音ゲーム」、ですね(笑)。
- (任天堂)坂本
- 画像だけ見ると、パッと見、こぎれいな印象にうつりますので、
「変さ」や「奇妙さ」は、きちんと言葉で補いたいところです。
ある意味、「変」なところはうちのグループの武器ですから。
- 岩田
- このチームの変な面白さは、
実際に商品になった状態でさわって味わうと、
遊んでいる自分の頬がニヤニヤするのがわかるんですよ(笑)。
- (任天堂)坂本
- そのためにやっているところもあります(笑)。
やっぱり、遊んでくれている人がどんな顔をしているかが、
いちばん大事だと思いますので、そこに対して
自分は何ができるのかをいつも考えています。
- 岩田
- 今回はさらに、部屋にいる人が
Wiiリモコンをにぎろうと、にぎるまいと、
ゲームを遊んだことがあろうとなかろうと、
“全員を巻き込んで参加してもらうこと”が野望ですね。
- (任天堂)坂本
- はい。やはり、誰かが急に割り込んで
参加してくるのが面白いと思いますから、
そういう遊び方をしてほしいですね。
- 佐藤
- 公式サイトでも、
先ほど言ったゲームの導入部分のデモや
ゲーム中の聞き取りにくい音など、
いろいろと用意していますので、
ぜひ音を体験していただきたいです。
- 岩田
- 聴覚に関しては興味深いことがまだまだたくさんあるのに、
いまはまだ、研究者のみなさんだけが
そのことを知っている現状です。
でも、任天堂がその不思議さを少しでも具現化して、
そのことに興味を持つ人たちがふえて、
聴覚を研究してきたみなさんに対して
未来に何らかの形でお返しできるといいなと思っています。
今日は本当に、ありがとうございました。
- 一同
- ありがとうございました。