『星のカービィ Wii』
3. 目がキラキラしている
- 岩田
- では山上さん、お待たせしました。
- 山上
- いえいえ(笑)。
- 岩田
- 11年の中で、山上さんには
今作ではじめてカービィを担当してもらいました。
では山上さん、服部さんと共にこのプロジェクトに加わり、
最初にどう思い、何をチームに伝えることで
完成できると思ったかを話してもらえますか? - 山上
- はい。最初にわたしのところに話がきたとき、
そもそもなぜいままで3回も中止になったのか、
その理由がわからなかったんです。
だから、それをひもとけば対策が練れるだろう、と
その時点では思っていました。
でも途中の作品はどれを見ても完成度が高いし、
中止の理由を取材してもいまいち理由がわからない。
だから、わたしは中止の理由探しを止めて、
いまあるパーツを活かす方向で進めようと考えなおして、
パーツを並べて構成するのが上手な服部さんを指名したんです。
- 岩田
- それで服部さんが登場したんですね。
- 山上
- はい。さらに、アクションゲームが得意な
吉川(和宏)さん(※12)も入れて、
ふたりをコンビにしたんです。
そして開発がはじまってからは、
何しろいままで3回、途中で中止になっているので、
とにかくハル研さんには、
わたしたちが考えていることを
正確に伝えていくことに注意を払おうと、
吉川さん、服部さんと徹底しました。
まずいちばんに心がけたことは、
「この商品は必ず売る」ということ。
去年の3月から打ち合わせをはじめたんですが、
その時点で
「来年の8月か9月には売ります。
これはもう決まっていますから、
完成するしかないんです」と明言しました。 - 熊崎・中野・上武
- (笑)
吉川和宏=情報開発本部制作部所属。過去に、社長が訊く『斬撃のREGINLEIV』に登場。
- 岩田
- 山上さん、予言者になったんですね。
- 山上
- そうです。
それと早い段階から大きな構想を伝えるのではなく、
最初は「1人用を完成させてほしい」とお伝えしました。
本当は、僕らの中で「4人カービィ」は
はじめから絶対にやりたかったんですけど、
一度に言うと重荷になると考えて、
はじめは1人用プレイに専念していただき、
徐々にマルチプレイをご提案していったんです。
あとは、上がってくる仕様に対して、
「ここまでできましたね」
「この時期の出来具合としては良い出来ですね」と、
できるだけ言葉で表現するよう心がけていました。 - 岩田
- マラソンの残り距離をつねに言う感じですね。
- 山上
- はい。「うまくいっている」ことを
できるだけしっかり、我々の気持ちとして
伝えていくことを徹底して、
完成を実感していただきたかったんです。 - 岩田
- では、服部さん。
このゲームとずっとつきあってきたわけではないのに
いきなり大量のパーツを渡されて、
「何とかしてください」と無茶ぶりされて・・・
どう思いましたか? - 服部
- 最初はさんざん脅されるところからはじまりました。
3回、中止の憂き目にあっている、10年以上完成していない、
というお話を社内の各方面から聞いて、
いろいろと脅される・・・んですね(笑)。
- 一同
- (笑)
- 服部
- だから最初は少しおびえていたところもありました。
「いっしょに徹夜でもして、気合いを入れなきゃ!」
と思っていたんです。
でも、いざはじまってみると・・・
こんなにお任せして安心感のあったプロジェクトは、
いままでにないくらいでした。 - 岩田
- すごい・・・褒められましたよ(笑)。
- 熊崎
- おおお、ありがとうございます(笑)。
- 服部
- だから打ち合わせのかなり初期から、
「これは大丈夫だ」と、確信が持てたんです。
「これは絶対に完成する、完成しないわけがない」って。 - 岩田
- 山上さんの暗示にいっしょにかかったんですね(笑)。
- 服部
- あ、そうかもしれません(笑)。
でも、完成しない理由がまったく思いつかなかったんです。
それは論理的なものじゃなくて、
チームのみなさんの活気といいますか。
だって・・・3回も失敗しているのに、
みんな目がキラキラしているんですよ! - 一同
- (爆笑)
- 山上
- そうそうそう!(笑)
- 岩田
- たしかに4回目ともなれば、
考え方が後ろ向きになってしまったり、
モチベーションが下がってしまったりしますよね。
そう思っていたら、“カービィ愛”にあふれた人たちが
目をキラキラさせて、ものすごいスピードで
仕事をしていたんですね。
- 服部
- はい!「これすごいでしょ?」って
いろいろなものを見せてくれて(笑)。
だから最初から完成に対して確信を強く持てましたし、
逆に言うと、今回、わたしたちからお願いしたことは
「スーパー能力を残してください」と、
「4人カービィを実現してください」と
いう2つしかなかったんです。 - 岩田
- その2つをお願いしたのはなぜなんですか?
- 服部
- 「それ以外は問題なく完成できる」
と早い段階で確信できたからです。
カービィの根本的な部分は
11年の積み重ねがありますから、
本当に安心してお任せできる感じでした。 - 山上
- ひとつ開発初期のエピソードをお話ししますと、
ハル研さんへ行く途中の電車の中で
服部さんと打ち合わせをしたとき、今日の会議では
「4人全員がカービィを使えるようにする」話を
しようと思っていたんです。
でも服部さんが「いきなりそれを言うと大変だから、
最初は4人別キャラでもいいことにしましょう」と言うんですね。
「面白くなったら、きっと4人カービィもやりたくなるはずだから」と。
だから最初、4人カービィの件はふせてお話ししたんです。 - 岩田
- 片道4時間の旅で、そういう話をしていたわけですね。
- 山上
- はい。で、開発が進んできたころ、
改めて4人カービィの話題を出したら、
「やりたいって話が出ていたんですよ!」
ってハル研さんから逆に言われたんです。
先ほど服部さんが話したように、
チームのみなさんが「やりたい」と思えると、
それが実現する活気あるチームでしたから、
「やりたい」と思えるまで待ってから話したんです。
- 服部
- やっぱりみんな、カービィも操作したいですから。
- 川瀬
- もし4人カービィができないと、
兄弟で遊んだ場合、きっと弟はカービィで遊べませんもんね。
お兄ちゃんにいつもカービィをとられてしまって。 - 上武
- 「ぼくも吸い込みたい〜!」って(笑)。
- 熊崎
- そうそう、仲間ごと吸い込んだり吐き出したり、
コピー能力を奪い合ったりするのは、
ほかの仲間のキャラクターだとできないので。 - 服部
- それが面白いですもんね。
やっぱり協力よりもね、競争のほうが
どうしても燃えますから。 - 岩田
- 協力の中にある小競り合いが面白いことは、王道ですね。
もうひとつの「スーパー能力」のほうは、
どうしてリクエストしたんですか? - 山上
- それは、見た目が派手だからです(笑)。
コマーシャルにしたいなあって思うくらい、
じつにシーン映えする絵なんですよ。
楽しさが、見ているだけで伝わってくるんです。
ただ、ゲーム性を変えてしまうような強力な能力だったので、
「演出としてでもいいので、楽しく活かせませんか?」
って少しトーンを落として実装の検討をお願いしてみました。 - 熊崎
- スーパー能力に関しては、
わたしが提出した最初の企画書には入れていなかったのです。
じつはスーパー能力は、3作目の仕様にあったもので、
当時も考えうる限りの実験をすごくやっていて、
それでもまとまらなかったものになります。
最終的には実装しましたが、正直、それに手をつけるのは、
最初は恐かったです。
- 岩田
- あれはデザイナー負担が大変ですよね。
すごく実現コストが高い仕様だと思いますから。 - 上武
- はい。とにかく何でもやれちゃうんです。
地形も壊しちゃうし、でっかいものがあったら、
ドカンと燃やしちゃうこともできます。
アイデアはどんどん思い浮かぶんだけれど、
実際に思いついたものをかたちにすることが大変でした。 - 岩田
- 一つひとつのステージが、
使えるスーパー能力に合わせて個別にカスタマイズされている、
と理解すればいいんですか? - 熊崎
- そうです。
実際にはどのステージでも使えるようにできていますが、
スーパー能力を使える場所は思う存分使いこなせるように、
「専用のステージ」としてつくっています。
登場頻度と種類をしぼることで、
強大でおどろきがありながら、
ゲーム全体のカービィらしい印象やテンポを
崩してしまわないように配慮しました。 - 中野
- 「つぎに何が出てくるんだろう?」と
ドキドキワクワクする、あの感じがいいですよね。 - 熊崎
- そうですね。過去のシリーズにも、
これほど大きなアクションはないので
最終的に「そこまでやるかっ!?」という感じが
出せたことは、大きな価値があると思っています。 - 岩田
- 実際にさわった印象ですけど、
プレイしていて発動すると
「おもてなしされているなぁ」
という感じがして、うれしくなりましたよ。 - 熊崎
- たしかに、どちらかというと「よっ、ヒーロー!」って、
カービィを盛り上げる演出に近いかもしれません(笑)。
あ、ちなみに最後のほうには
スーパー能力でも苦戦する「何か」を用意していますから、
楽しみにしてもらえたらと思います。