『星のカービィ Wii』
5. バラエティ番組のような
- 岩田
- そうやって生まれたこの商品の
セールスポイントはズバリ、どこですか? - 熊崎
- やっぱり最大のセールスポイントは
4人同時プレイが可能で、さらにそれが
「いつでもイン」「いつでもアウト」できることです。
4人同時プレイ自体は、幻の3作品のうち、
最初のカービィで考えられていたことだったのですが、
今回、やっと実現することができました。 - 岩田
- ちなみに「複数プレイヤーが遊べる横スクロールアクション」
というのは、宮本さんが昔からやりたがっていたお題で、
『マリオブラザーズ』(※18)のように
マリオとルイージで何回も試していたそうです。
マリオは『New スーパーマリオブラザーズ Wii』(※19)で、
ようやく4人マルチプレイの遊びを実現できたけれど、
カービィも11年間の紆余曲折を経て、
やっとできあがりましたね。
『マリオブラザーズ』=1983年6月、アーケードゲームとして登場したアクションゲーム。
『New スーパーマリオブラザーズ Wii』=2009年12月、Wii用ソフトとして発売されたアクションゲーム。マリオ初、4人マルチプレイが可能に。
- 熊崎
- はい。わたし、マリオが大好きなのですが
何かの部分で『New スーパーマリオブラザーズ Wii』とは
違うことをやりたかったのです。
マリオではワールドマップに戻ってきて
Wiiリモコンを認識して、メンバーが増えるというプロセスで、
これは仕様的にも美しくて安定性も高いのですが、
もっと無茶ができないかなと思って参考にしたのが
『スーパーデラックス』のヘルパーシステムでした。 - 岩田
- セレクトキーを押すと、吸い込んだ能力のヘルパーが
ポンッと出てくるんですよね。
じつはあのヘルパーシステムは、
わたしと桜井(政博)(※20)さんが京都に打ち合わせに行った際、
宮本さんから「2人同時プレイを試してみたら」と
提案されたことがきっかけなんです。 ※20桜井政博さん=有限会社ソラ代表。ゲームデザイナー。株式会社ハル研究所在籍時に、『星のカービィ』シリーズや『大乱闘スマッシュブラザーズ』シリーズの制作に携わる。
- 熊崎
- そうなんですね。
これはすごいなと思いまして、
「いつでも、どこでもイン」できるようにするのは
なかなか難しかったのですけども、
実際にWiiリモコンさえあれば
パッとすぐ参加できるようになると、とても革命的で
アグレッシブにプレイを楽しめるゲーム展開になりました。 - 岩田
- 難易度はどのように決めたんですか?
- 熊崎
- 最初は山上さんが言われたように
1人用モードをつくることに専念したのですが、
そのときから4人プレイを意識したしかけやアクションを仕込み、
全体的にいつもより少し難しい場面をつくるようにしました。
そうすればピンチがおきて「お兄ちゃん、手伝ってよ」
というようなシチュエーションが生まれると考えたのです。
だから後半はこれまでのシリーズより
やや難易度が上がっていきます。
それから多人数で、よりドタバタするような
ハプニングを盛り込みたくて、
「キャリーアイテム」というものを用意しました。 - 岩田
- それはどういうものなんですか?
- 熊崎
- カービィが触れると持って運ぶことができる新しいアイテムです。
『星のカービィ64』に似たようなシステムがあるのですけど、
コピー能力とも違う、
特別なアイテムを持って運んで攻略するアクションは
シリーズ初です。 - 岩田
- たしかに、アイテムを持った記憶はないですね。
- 熊崎
- はい。持っている大砲から弾がボンボン出続けるとか、
爆弾がふくらんで勝手に爆発しちゃうとか、
バラエティ番組にありそうなものからイメージしました。
「はい、パス」「いらない!」「それ、持ってきて」みたいな。
キャリーアイテムは、ひとりでも十分に楽しめる新規要素ですけど、
マルチプレイならもっと楽しくなります。
通常、自分の攻撃は仲間にダメージを与えられないのですが、
キャリーアイテムの攻撃判定だけは特別に
仲間を巻き込むように設定しているので、
いろいろなハプニングが巻き起こると思います。 - 岩田
- そうすると、やはり多人数プレイが変わっていきますか?
- 熊崎
- はい、だいぶ変わりました。
キャリーアイテムの取り合いもおきますし、
コピー能力を持つ人がヒーローになりがちなのですが、
それがない仲間たちでも、キャリーアイテムが手に入ると
ゲーム展開がガラッと変わるんです。 - 岩田
- 『スマブラ』(※21)のアイテムと構造が似ていますね。
それにしても、できすぎなぐらいですねぇ。
「最初は1人用に専念して」と言われながらも
「じつはこう思っていた」みたいな話があったり、
最終的には「絶対に4人ともカービィにしたい」
と、ちゃんとプログラマーが思っていたり・・・。
以心伝心感が強いんですが、これは偶然なんでしょうか?
『スマブラ』=『大乱闘スマッシュブラザーズ』シリーズ。ハル研究所が開発し、任天堂が発売した対戦型アクションゲーム。1作目は1999年、NINTENDO64用ソフトとして発売された。
- 服部
- あの〜・・・この場を借りて
謝らなければならないことがあるんです・・・。
わたしたちの中で、4人プレイはぜひ実現させたかったんです。
でも、最初岩田さんからは
「まず1人用を」と言われていました。
だからこっそりハル研さんとのあいだで
裏で「いつかやりましょう」という話を
かなり初期から交わしていたんです。
つまり、いずれ「4人プレイを入れたい」ということを
共通認識としてずっと持ち続けていたんです。
1人用が心配なくなって、マルチプレイに取り掛かれる
来たるべき時のために、準備をしていたわけです。
だからいざ、4人用の話が本格化したとき、
すごくスムーズに進んだのかなぁと思います。
- 岩田
- ちゃぶ台は返ったんじゃなかったんですね。
むしろ「待ってましたー!」だったんですね。 - 川瀬
- まさにそうかもしれません。
- 岩田
- 普通はちゃぶ台返しって「うわー! 困った」
ってところからはじまるんですけど、
みなさん、ぜんぜん困っていないじゃないですか(笑)。 - 熊崎
- たしかに、ようやく「GOサインが出た」という感じでした。
- 岩田
- ちなみにマルチプレイの
「いつでもイン」「いつでもアウト」は、
さまざまな困難があったと思いますが、
どのように克服したんでしょうか? - 中野
- そうですねぇ、いろいろありました。
インしたキャラがいつの間にか画面から消えたり、
ほかのキャラに吸い込まれて吐き出されたら、
どこにもいなかったり・・・。 - 熊崎
- よく画面からいなくなりましたね(笑)。
- 中野
- つくりはじめたころは想定外のことばかりでしたが
だんだんと「こういうケースは危ない」
というパターンがわかってきて、
担当プログラマーがそのあたりをつかんできたなぁと
遠目で見守っていたら、
いつの間にかできていた・・・という。 - 熊崎
- いつの間にかだったの・・・?(笑)
- 川瀬
- そうなの!?(笑)
- 中野
- はい(笑)。
ふと見たら担当プログラマーのテレビの前で
開発者4人がわいわいと遊んでいました(笑)。 - 岩田
- あと、この手のゲームはレベルデザインが命だと思うんです。
1人用とマルチプレイ用の両方を考慮してつくることは
大変なはずですが、どうやって乗りこえたんですか? - 熊崎
- ひとつ、進め方で工夫したことがありまして、
レベルデザイナーがマップをつくり、
それをわたしがチェックするまでの流れをダイレクトにしました。
レベルデザイナーが隣のブースなので、
つくっているそばからいっしょに考えて
どんどん修正を伝えていったんです。
- 岩田
- レベルデザイナーって何人ぐらいですか?
- 熊崎
- 何名かでサポートしましたが、
ほとんどのマップをつくったのは1名です。
ひとりなのでノウハウも集中的にたまっていきますし、
そばで見ながら相談していくと、
あがってきたものを監修するよりも
時間的に倍ぐらいの手ごたえがありました。 - 岩田
- フィードバックの回数が段違いですからね。
じゃあ、1人用と4人用を両立させる点では、
何か特別な工夫はしたんですか? - 熊崎
- そこは正直、反省ポイントでもありまして、
いざ4人プレイをしたら、
おんぶして進むには無茶なスペースが見つかったり、
想定したような遊びが、
4人や3人だとできないステージもたくさんありました。
特別なことをしたわけではなく、
一つひとつ多人数用でも楽しくなるように
プレイヤーやマップを調整していったのです。
また、何度もマップデザインを見直すことで
完成度を高めていきました。 - 中野
- 実装途中で、プログラマー側からも
なるべく早く問題点を提案できていれば、
もう少し負担は減らせたかな、と反省しています。 - 熊崎
- とくにレベルデザイナーには、
今回、4人プレイやスーパー能力もあり、
いろいろと苦労をかけた部分があります。
1カ月半に1回のペースで、
山上さんたちに途中報告をする機会があったのですが、
その機会ごとに、「1レベルずつ完成させよう!」と
目標を立てていたのです。 - 岩田
- ああ、それはわたしが『カービィボウル』を
つくったときに使った手とよく似ています。
宮本さんのところにミーティングに来て帰るとき、
「つぎまでにこれをやってきます」と宣言するんです。 - 熊崎
- まさにそんな感じです。
それが、打ち合わせで指摘された
修正箇所を直すのと次回の目標が同時進行なので、
後半ものすごく大変で、夜になってみんなが帰宅して
やっとレベルデザイナーと相談しながら
新しいマップをつくっていくのですが・・・
それでも、わたしはその時間がとても楽しかったです(笑)。 - 岩田
- で、朝焼けのすばらしい富士山を眺めるんですね。
- 熊崎
- はい(笑)。
でも、そんな無茶につきあってくれる
メンバーが多くて、ずいぶん助かりました。