『Wii Party』
3. 「パーティって何?」
- 西谷
- 今回、Miiでできることで悩んだことはとても大きかったのですが、
そのこと以外に、このソフトを「Wiiシリーズ」として考えたとき、
Miiで遊べるスゴロクのボードゲームやミニゲームを入れただけでは
何かが足りない、というのがあったんです。 - 岩田
- 「Wiiシリーズ」というのは、
『Wii Sports』(※9)など、
“Wii”が冠についているタイトルのことですね。
『Wii Fit』=2007年12月に、Wii用ソフトとして発売されたフィットネスソフト。バランスWiiボードがセットになっている。
『Wii Sports』=2006年12月に、Wii本体と同時に発売されたスポーツゲーム。テニス、ベースボール、ボウリング、ゴルフ、ボクシングの5つのスポーツを収録。
- 西谷
- はい。ですから、「Wiiシリーズ」として出すには
新しいチャレンジをする必要がありました。 - 岩田
- 任天堂は、これまで、「Wiiシリーズ」のソフトを
すべて社内のチームで制作してきましたし、
それらは、すべて宮本さんがプロデュースしたソフトでした。
いわば、Wiiというハードのためにつくられた
年齢・性別・ゲーム経験の有無に関わらず、
どなたにも遊んでいただけることを目指してつくった
任天堂の看板ソフト群が「Wiiシリーズ」なんです。 - 佐藤
- そもそも1年前の段階では
タイトルが正式に決まっていない状態だったんです。
もし、仮に新しいチャレンジができなければ、
「Wiiシリーズ」の『Wii Party』ではなく、
『Mii Party』として発売することになっていました。 - 岩田
- はい、「Wiiシリーズ」の名に恥じないレベルに届かなければ、
『Wii Party』の名前はつけられないと明言していました。
だからこそ、乗り越えるものも大きかったんですよね。 - 西谷
- はい。ですから、『Wii Party』と呼べるくらいの
エネルギーと時間をたっぷりかける必要があったんです。 - 岩田
- そのために、どのようなことをしたのですか?
- 佐藤
- まず、「パーティゲームとは何か?」という
根本の部分をもう一度、じっくり考えることにしました。 - 池田
- ホームパーティのパーティなのか、誕生日のパーティなのか、
いろんなパーティのことを考えに考えては深みにはまり・・・。
当時、すごく悩みました。 - 岩田
- それはいつ頃のことですか?
- 池田
- 2009年の夏頃です。
本来のスケジュールであれば、
仕上げに入らないといけない時期だったのですが・・・。 - 岩田
- 仕上げに入らないといけない時期に、
みなさんは「パーティって何?」ということを
日本でもっとも考えた人たちになっていた、
ということなんですね(笑)。 - 池田
- はい(笑)。
- 佐藤
- そもそも『マリオパーティ』は
NINTENDO64で出すときに、『マリオボード』という仮称だったんです。
最終的に『マリオパーティ』として発売されましたが、
その名前からわかるように、
ボードゲームでミニゲームを遊ぶようにつくられたんです。 - 岩田
- つまり“パーティゲーム”というよりは
“ボードゲーム”を意識してつくられたわけですね。 - 佐藤
- そうなんです。
もともとの出発点がそうだったので、テレビ画面のなかで
ボードゲームやミニゲームを遊んだりすることばかり考えていたんです。
そこで、もう一度「パーティって何だろう?」と考えた結果、
人といっしょに遊ぶことをとにかく考え続けて、
世界のほかの商品、どんな商品を見ても、
やっていないレベルまで思いついたものを入れようとしました。
そこで最後の最後に思いついたのが、
Wiiリモコンを使った遊びだったんです。
- 西谷
- ・・・Wiiリモコンのストラップをはずして遊ぶのはどうだろうと。
- 佐藤
- テレビ画面のなかで遊ぶのではなく、
テレビのこちら側、つまり遊ぶ部屋自体を
遊び場にすることはできないか、という話になったんです。 - 西谷
- 実はスタッフのひとりに、ふだんはゲームの中身については
あまり話をしないタイプの人間がいまして、
彼がぽつりと「Wiiリモコンを隠して遊ぶのはどうだろう」と言ったんです。
そのひとことで、アイデアがバーッと拡がっていったんです。 - 岩田
- ふつう「Wiiリモコンは操作するものだ」と思いこんでいますから、
その「Wiiリモコンを隠す」という提案によって、
発想の大転換が起こったわけですね。 - 佐藤
- はい。そのアイデアが出たのは、
たまたま主要スタッフ全員が集まっているときだったんですけど、
それで一気に盛り上がりまして。 - 廣瀬
- それで最初に考えたのが
「リモコンかくれんぼ」です。 - 西谷
- でも、Wiiリモコンを部屋のどこかに隠すだけでは
なかなか見つけられないと思ったんです。そこで、
「やっぱりヒントが必要」という話になりまして、
スピーカーから音を出すことにしたんです。
試しに音を鳴らしてみると、
その音自体がとても楽しかったんです。
そこから次に思いついたのが「わんわんカルタ」です。 - 廣瀬
- 試しに動物の鳴き声を鳴らして
「どのWiiリモコンが鳴ってるのか当ててみよう」とやってみたら、
すごく面白かったんです。 - 岩田
- 最初に思いついたアイデアが
連鎖的に拡がっていったんですね。 - 西谷
- はい。Wiiリモコンを操作するときは
ストラップをつけるのが前提になっていますけど、
振り回したりする操作をするわけではありませんので
ストラップをつけなくてもいいという話になりまして、
これらのゲームを「リビングパーティ」と呼ぶことにしました。 - 岩田
- その「リビングパーティ」には、
Wiiリモコンを順番に渡す「びんかんバクダン」もありますね。 - 西谷
- バクダンを順番に渡していく遊びは
どちらかというとベタなんですけど、
Wiiリモコンには加速度センサーがついていて
傾きがわかるようになっていますから、
傾けたら爆発させるようにすれば面白いだろう、
ということで生まれたゲームです。
ところが試しにつくってみると
みんな慎重にまわして、なかなか爆発しなかったんです(笑)。
そこで、時間制限を設けてプレイヤーを焦らせたり、
画面に表示されたボタンも押してもらうようにしました。
さらにテレビ画面でも振動のグラフを表示させると
すごくわかりやすくなって、一気に面白くなりました。 - 岩田
- もともと、コントローラを激しく操作するというのが
これまでのパーティゲームのパターンだったので、
静と動のコントラストがハッキリするという意味でも、
「リビングパーティ」のような遊びが入ってくると
テンポが変化して面白いですよね。
- 池田
- そうなんです。
- 岩田
- これまでのように、
テレビとテレビの前だけが遊び場じゃなくなり、
部屋全部が遊び場になりますし、わたしも
とても新しいチャレンジだと感じました。 - 池田
- ありがとうございます。
でも、大きな関門がもうひとつあったんです。 - 佐藤
- Wiiシリーズで出すからには
『Wii Sports Resort』(※10)や
『Wii Fit Plus』(※11)の開発チームの人たちに
ひととおり触ってもらって、
感じたことを率直にコメントしてもらうことにしたんです。
『Wii Sports Resort』=2009年6月に、Wii用ソフトとして発売されたスポーツゲーム。Wiiモーションプラス対応ソフト。
『Wii Fit Plus』=2009年10月に、Wii用ソフトとして発売されたフィットネスソフト。『Wii Fit』のディスクの内容が新しくなり、色々な要素がプラスされた。
- 岩田
- ああ、それはけっこうキツいコメントが
戻ってきたんじゃないですか?(笑) - 池田
- はい・・・「そこまで言わなくても」みたいな(笑)、
厳しいコメントも正直いただきました。
でも、『Wii Party』というタイトルで行くことが決まりまして、
現場的にはモチベーションがかなり上がっていました。
「Wiiシリーズ」として認めてもらえたうれしさがあったんです。
ですから、厳しいコメントをいただきながらも、
現場的には「指摘されたことは全部直すぞ!」という雰囲気でした。 - 岩田
- これを読んでいただいている人には、
どんなことかさっぱりわからないと思うので、
たとえばどんなことを指摘されたんですか? - 西谷
- いちばん大きく指摘されたのはテンポです。
たとえばレースゲームだったら、
ゲームをはじめる前に、コース全体を5秒くらい見せて、
それからスタートするような演出を入れていたんです。
でも、何度もプレイするお客さんにとっては・・・。 - 岩田
- 「早くやらせてよ」と言いたくなっちゃうんですね。
- 西谷
- そうなんです。
それはほんの一例なんですけど、あらゆるところに
テンポよく遊べないところがありまして、
そこを『Wii Sports Resort』の開発チームの人たちに
ズバッと指摘されたんです。 - 岩田
- たぶん“間”に関しては、
『Wii Sports Resort』の開発チームの人たちは
任天堂のなかでもすごく敏感な人たちの集合だと思います。
そのような人たちが、「Wiiシリーズ」として出すためには
「ここは直したほうがいい」というのを、
徹底してチェックして、指摘してくれたんですね。 - 西谷
- はい。だからすごくありがたかったです。
- 佐藤
- テンポよく遊べるようにすることも大事だったんですが、
僕がすごく印象に残っているのは、
「品質が低いミニゲームがあります」と言われたことなんです。 - 岩田
- あー、すごいですね、その表現は(笑)。
- 佐藤
- 事実、品質にばらつきがありました。
「二度と遊ぶ気にならないものも混ざっています」
とまで言われましたので、メニューなどを考え直す
きっかけになりましたから(笑)。 - 岩田
- それは厳しすぎる・・・。
- 一同
- (笑)