『ゼノブレイド』
シナリオ 篇
- 岩田
- 濃いキャッチボールを1年間続けることによって
今作のシナリオがほぼ完成したということですけど、
ふだんは映像作品の脚本を書いている竹田さんが
ゲームのシナリオを書くにあたって、
とくに気をつけたのはどんなことでしたか? - 竹田
- ふだん映像作品をつくる上で、
シナリオのいちばんの武器になるのは“意外感”なんです。 - 岩田
- 確かに意外なことが起こるから、お客さんの心は動くわけで、
お客さんが予想している通りのことが目の前で起こっても、
通常、感動はしないわけですよね。 - 竹田
- そうです。ですから、ある意味30分番組ですと
“裏切り”や“意外感”の積み重ねでつくっているところもありまして。 - 岩田
- “裏切り”や“意外感”の積み重ねというのは面白いですね(笑)。
- 竹田
- はい。でもゲームの場合は、
自分で実際にプレイして感じていたことなんですけど、
自分がプレイヤーとして、こうしたいと思っていたのに、
ゲーム中の主人公が、それに反するようなことを言ったり、
裏切るような行動をとったりすると
「オレ、そんなことしたくないよ」と思ってしまうんです。 - 岩田
- さっきまで主人公は自分だったのに、
突然、自分じゃなくなるような瞬間があるということですね。 - 竹田
- そうなんです。
いままで僕が十数年、ゲーマーとしてプレイをしてきたなかで、
そういうことを感じたことが多々ありましたので、
“裏切り”をそういう方向には使わないようにしようと思いました。
“裏切り”や“意外性”は、主人公の行動やセリフといった
主人公が内面から発するものには使わず、
あくまで主人公の外からもたらされる
状況の変化といったもので表現しようと。 - とくに今回は、これほど深く
1本の作品に関わらせていただくのは初めてでしたので、
とくにそのことを意識してストーリーづくりをしました。 - 岩田
- そういった話は高橋さんとの間でもされていたんですか?
- 竹田
- いや、この話はしていなかったと思います。
自分が初めて、ここまで深く関わらせていただくにあたって、
自分が自分に課したルールだったんです。 - 岩田
- そんなルールがあったということに
高橋さんは気づかれていましたか? - 高橋
- 直接はしていないんですけど、
それに近い話は最初にしていました。
今作にはシュルクという主人公が登場しますが、
「嫌われない主人公にしよう」ということを
テーマの1つにしたんです。
- 岩田
- 具体的にそれはどういったことなんですか?
- 高橋
- 僕がこれまで手がけてきたゲームはもちろん、
他の方々がつくったゲームを触っても感じることなんですけど、
RPGは、主人公やヒロインが嫌われるケースが多いんです。
もちろん好かれるキャラクターもなかにはいるんですけど、
大抵は、嫌われてしまう。
それだけ主人公やヒロインというのは、プレイヤーにとって
すごく思い入れの強いキャラクターなのだと思います。 - 岩田
- それは、愛情の裏返しでもあるんでしょうね。
好きだからこそ、憎しみに変化してしまうということですよね。
でも、今回はそうならないようなチャレンジをしたわけですね。 - 高橋
- はい。そこはすごく気を使いました。
実は、このインタビューの前に、マリオクラブ(※8)の人たちが
主人公に対してどんな印象を持っているか聞いてもらったんです。
そうしたら、まったく嫌われていないと言うんですね。
しかも仲間のキャラクターも含めて、
みんなが愛着を持って使ってくれていると言うんです。
それを聞いて、すごくうれしかったですね。
マリオクラブ=マリオクラブ株式会社。任天堂の開発中ソフトのデバッグやテストプレイを行う。
- 岩田
- それはきっと、プレイヤーにも“共感”できる
主人公や仲間になったからなんでしょうね。
この席で『マリオ』の話を出すのも変なんですけど、
先日、「社長が訊く『スーパーマリオギャラクシー 2』」のときに
宮本さんから、これまで手がけてきたものづくりは
“共感のものづくり”だったという話がありました。
その“共感”という言葉と、
高橋さんがおっしゃった
「嫌われない主人公にしよう」というのは、
相通ずるところがありますよね。 - 高橋
- そうですね。
プレイヤーキャラクターというのは
やっぱり自分の分身ですし、自分の分身である以上、
自分が思ってもいないようなことを考えたり、
行動をしてはいけないと思うんです。
ただ、RPGの場合は、嫌われないようにする方法が1つあって、
それは主人公にいっさいしゃべらせないようにすることなんです。 - 岩田
- 何もしゃべらなければ、違和感は感じにくいですしね。
- 高橋
- そうなんです。
でも、しゃべらせないようにするのは簡単なんですけど、
今回はあえてしゃべらせた上で、
ちゃんと“共感”を得られる方法を模索して、
あるところまでは到達できたんじゃないかと思っています。
- 岩田
- それがマリオクラブの人たちの
「みんなが愛着を持っている」という声にもなっているわけですね。 - 高橋
- だから手ごたえをすごく感じています。
というのも、そういうふうに言っていただけたのは初めてなんです。 - 岩田
- 高橋さんが何年もゲームをつくってきて、
主人公やその仲間が嫌われていないというのは初めてなんですか。 - 高橋
- 実はそうなんです。
- 岩田
- それは意外ですね。
竹田さんはどうですか? - 竹田
- 話がちょっと脱線しちゃうかもしれないんですけど、
しゃべらないという話の流れで言いますと、
高橋さんがいままでにつくられてきたゲームでは
パーティーキャラに1人や2人、
無口なキャラクターが必ずいるんですよね。
今回、シナリオを書いて初めてわかったんですけど、
パーティーの全員がちゃんとしゃべるキャラクターだと、
会話シーンを書くだけでもすごく大変だったりするんです。
そういうことにシナリオを書く作業に入ってから・・・。 - 岩田
- つくりはじめてからわかったんですか。
- 竹田
- そうなんです(笑)。
無口なキャラクターをつくっておかないと、
会話シーンがとんでもないことになるなと。
そういうことに、作業に入ってから初めて気づきまして。 - 高橋
- 先ほど、ゲームとアニメの違いの話がありましたけど、
実はいちばん大きい文法の違いはそこかなと
僕は思っているんです。
ゲームの場合、たとえば主人公が1人だけで、
周りがそれに対してアプローチしてくるようなゲームであれば
とくに問題がないんですけど、RPGの場合は・・・。 - 岩田
- パーティーがありますからね。
- 高橋
- そうすると、お客さんが
どのキャラクターに感情移入するかはわかりませんので、
たとえば5人のパーティーであれば、
その5人を同じ場面に出さないと、基本的にいけないんですね。 - 岩田
- 1人として無視はできないんですよね。
いないことにするわけにはいきませんし。
- 高橋
- ドラマのような映像作品であれば、
5人それぞれを別々の場所に置いて
いろんなシチュエーションを見せてあげることで、
展開を複雑にしたりとか
緩急をつけることはできるんですけど、
ゲーム、とくにRPGの場合は、
基本的にはパーティーの5人が同じ場所にいなければいけないわけで、
これはちょっと特殊なんですよね。 - 竹田
- ですから、1つの事件に遭遇したときに、
5人それぞれがリアクションをしなければならないんです。 - 高橋
- しかも個々には当然それぞれの人格があるわけで、
その人格を保ったままで感情移入をさせつつ、
描き分けと、緩急をつけるというのは、
アニメとゲームのいちばん違うところじゃないかと思います。 - 竹田
- そのことは本当に作業に入るまで気がつかなかったので、
「しまった、1人や2人、無口なキャラクターをつくっておけば
もっと楽できたのに・・・」と、ちょっぴり後悔しました。
振り返ってみると高橋さんの過去の作品では、
ちゃんとそのへんを考えられているので、
「ああ、あのキャラクターとあのキャラクターには
そういう意味があったのか」と気づいたりとか、
そういうことがありましたね。 - 岩田
- で、竹田さんはそれをどうやって解決したんですか?
ちょっと興味があるので訊いちゃうんですが(笑)。 - 竹田
- いや、もう、単純にちからワザです(笑)。
とにかくたくさんセリフを書くしかありませんでした。 - 岩田
- なるほど(笑)。
ということは、今回の『ゼノブレイド』では
無口なキャラクターは登場しないんですね。 - 竹田
- はい。なので、最後の最後まで
会話も存分に楽しんでほしいと思っています。