『ゼノブレイド』
開発スタッフ篇
- 岩田
- 小島さんと横田さんからも、訊かせてほしいのですが、
今作のシステム面に関する特徴はどんなところにあるのですか? - 横田
- まずは、シームレスバトルを採用したことです。
RPGのバトルシステムと言うと
一般的にターン制(※9)のバトルを採用したほうが
ルールがわかりやすいですし、取っつきやすいと思うんです。
ターン制=敵と戦うときに、交互に攻撃などを行うシステム。
- 岩田
- 日本のお客さんはとくにそう感じられるかもしれませんね。
- 小島
- はい。でも、今回の『ゼノブレイド』は
マップがシームレス構造になっていて、
見えるところにはどこにも行けるのに、
バトルに入ったときにシーンが切り換わるような
ターン制バトルにすると、
その世界になかなか没入できないんです。 - 横田
- 今作では“巨神”と“機神”の世界への没入感を
とても重視していたんです。
そこで、シームレスバトルを取り入れることにしました。 - 岩田
- シームレスというのは継ぎ目のないという意味ですから、
シームレスバトルというのは
フィールドでの行動からバトルへの切り換えがなく、
スムーズに戦闘に入るということなんですよね。 - 横田
- はい。シームレスで戦闘に入っていくようにすることで、
リアルタイムに戦える
より自然なかたちでのバトルが楽しめると思いました。
しかも今回は、新しい要素を加えたいと思いましたので
「未来視」をバトルシステムに組み入れることにしたんです。 - 岩田
- そもそも「未来視」とは、
どのようなシステムなんですか? - 横田
- 簡単に言うと、自分や仲間の未来の危険が見える能力です。
たとえば仲間が危険に陥るとわかったとき、
それを絶対に回避したいと思いますよね。
その能力は仲間に未来を教えることで未来を変えられるようにしました。 - 岩田
- つまり、バトルの最中に
ほんの少し先に起こりそうなことが映像として見えるので、
パーティーを有利に導くことができるんですね。 - 横田
- はい。たとえば仲間の防御力を上げたりとか、
敵を転倒させたり、体力のある仲間を盾に使ったりして、
危険を回避することが可能なんですね。
なので、バトルの緊張感と、
危険を回避したときの爽快感の両方が楽しめる、
たぶんいままで誰も見たことのないようなものになったと思います。
- 岩田
- 高橋さん、このように仕上がったバトルシステムの
手ごたえはどうですか? - 高橋
- 手ごたえはとてもいいです。
刻一刻と状況が変化して、自分ひとりでは解決できない問題も
仲間の力を借りて解決できるような、
そんな遊びもできるバトルシステムになったと思います。
しかも、仲間同士で声を掛け合うので、
生身のプレイヤーといっしょに冒険しているような
雰囲気を感じていただけるんじゃないかと思います。 - 小島
- たとえば、自分が敵の攻撃を受けて転んだりすると、
仲間が手をさしのべて、助け起こしてくれることもあるんです。
すると「ありがとう」と感謝の言葉を言って、
仲間とのキズナが高まることになります。 - 岩田
- 仲間との「キズナ」がゲームに反映されるんですか?
- 小島
- 「キズナ」とは、
文字どおり、人と人との「キズナ」で、
仲間との親密度を表すものです。
仲間を助けたりすると高まるポイントで、
そうすると戦いが有利になったりします。 - 高橋
- キズナに関しては仲間だけでなく、
街で出会う住人とも深めることもできます。
たとえば、頼まれたクエストを達成して
ある住人とのキズナを深めることで、
その人の壮大な生き様が明らかになったりします。 - 小島
- なので、ストーリーをどんどん先に進めるだけでなく、
冒険の合間に街に戻って、
何度も住人に話しかけてほしいです。
そうすると、キズナがどんどん深まっていきますから。 - 高橋
- 街の住人とのキズナを深めることで、
『ゼノブレイド』の世界で生きているのは自分たちだけでなく、
さまざまな人たちが同じ世界に生きているということを
感じてほしいと考えました。
そもそもRPGというのは
モチベーションがとても大事なゲームだと思っています。
個性的なさまざまな人たちが住む世界を守るために
自分たちが戦っているんだと、
プレイヤーのみなさんに感じてほしいと思ったんですね。 - 岩田
- そうやって、もともと広かった世界に
住人をたくさん住まわせることになって、
その上、どんどん密度を濃くするということが求められて、
現場でディレクターを担当していた小島さんは
すごく大変だったんじゃないですか? - 小島
- 確かにそうでした。
でも、今回はとにかく「やりきりたい」一心でした。
逃げ道も完全にふさがれてしまいましたし(笑)。
その「やりきりたい」という気持ちは
とくに高橋に強くて、その姿を見ていて
自分もどこか引っ張られたようなところもありました。
たとえば、高橋は今回、開発中のソフトをずっと触っていたんです。
もちろん開発中のソフトを触るのは当然なんですが、
いつ見ても「まだ触ってるよ」という感じで、
そんな姿を見たのは初めてのことだったんです。
- 岩田
- まさに「誰か止めて」状態だったということですね。
- 小島
- はい(笑)。
今回はマリオクラブ(※10)でも見つけられなかった
クリティカルなバグを高橋は見つけたりしたんです。 - 岩田
- へぇ、それはすごいですね。
マリオクラブ=マリオクラブ株式会社。任天堂の開発中ソフトのデバッグやテストプレイを行う。
- 小島
- 「ここはこうなってるけど仕様だったか?」と聞かれて、
自分で再現してみると、確かにバグだと。 - 岩田
- やりこまないと見つからないバグなんですね。
- 小島
- そうなんです。
もともと高橋は、普段ブースのなかで仕事をしていて、
直接現場に顔を出さずに、メールで考えを伝えたり、
チームのリーダーだけに指示を出すことが多いんです。 - 高橋
- 僕は現場のスタッフに対しては
なるべく直接言わないようにしているんです。
僕の言葉が重いらしくて・・・。 - 小島
- ところが、今回は違っていて
現場で作業をしているスタッフのところにやってきて
直しの指示をダイレクトにしていたんです。
そんな光景はほとんど見たことがありませんでしたので、
僕たちは「おお、高橋さんが下界に降りてきている」とか言ってました。 - 岩田
- あははは(笑)。
- 小島
- それくらい高橋は
「やりきりたい」という想いが強かったんでしょうし、
それに引っ張られて、僕たちも頑張れたように思います。 - 岩田
- それほど今回の高橋さんが
「やりきりたい」と思ったのはどうしてなんですか? - 高橋
- 若い頃の僕は自分を表現することに精一杯でした。
自分が楽しければいい、自分の好みの先鋭的な作品をプレイヤーに伝えるんだ、
わかる人だけわかればいい、それがRPGの楽しさなんだ、という想いに
取り憑かれていたんです。 - 岩田
- 若いがゆえにとんがっていて
遊んでくれるお客さんの側から考える余裕がなかったんでしょうね(笑)。 - 高橋
- はい(笑)。でも、それはある意味とてもいいことだと思うんです。
やっぱり若いからこそ生み出されるパワーがあって、
それは誰もが必ず通る道であるように思います。
いまでも、かつての自分がそうであったように、
若い世代のクリエイターたちが、
わかる人だけがわかればいいと、
そういう想いでつくられるゲームは少なくありませんし、
そのような作品はゲーム業界にとって必要だと思いますから。
でも、いまの自分に当時のパワー、
ある意味、猪突猛進な無鉄砲さがあるか?というと、
さすがにそれはないと思います。
反面、物事をある程度は俯瞰(ふかん)から見られるようになったことで、
ものづくりの幅が広がったように感じているんです。
最近は、というか二児の父親になってからはとくに、
どうしたらより大勢のお客さんに楽しんでもらえるか、
ゲームとして共感してもらえるか、
ということを考えるようになったんです。
- 岩田
- だから今回の高橋さんは
「やりきりたい」ということにこだわったんですね。 - 高橋
- はい。