The Wonderful 101
1. 集まることで生まれる力
2. 「変えないとダメだ」
3. つくってはつぶす
4. 「入ったほうがプラスになる」
5. ワンダ・ディレクター
6. 「怖がらないで、飛び込んで」
2. 「変えないとダメだ」
- 岩田
- 任天堂に2度目の企画持ち込みをするにあたって、
プラチナゲームズさんの社内では
どんなことがあったんですか?
おそらくですけど、
すんなりとつくり直されたはずがないって思うのですが。 - 稲葉
- そうですね。プラチナゲームズとしても
「キャラクターありき」の企画でしたから、
その許可が下りない以上
難しいだろうということで、
企画自体は一度ストップしています。
神谷も一時、別の企画にとりかかっていたんです。 - 岩田
- そうだったんですか。
- 稲葉
- ところが、結果的に
その新しい企画もいろんな事情が重なって、
お蔵入りしてしまって。
それで「次はどうしようか」って
神谷と話をしたときに、
「こないだの企画がやっぱりやりたい」
とゴネられたわけです。 - 神谷
- いや、だって、そんなに次から次へと
僕から新しい企画は出ませんよ。 - 一同
- (笑)
- 稲葉
- そこで、いろいろ検討したすえに、
当初提案した遊びはそのままに、
既存キャラクターをヒーローに置き換えたデモを
PC上で試作して、
あらためて任天堂さんに持ち込んだんです。 - 岩田
- その段階で、いまの
ヒーローたちを主人公とする
キャラクター像ができたんですか? - 神谷
- いや、イメージはだいぶちがいましたね。
- 山上
- 企画がスタートした当初は
『ビューティフルジョー』(※11)のような雰囲気で
アメコミ調のダークヒーローっぽい
イメージだったんですよ。
僕はその画がけっこう好きだったので、
「これでいける」と思っていたんですが。
『ビューティフルジョー』=2003年6月にカプコンよりゲームキューブ用ソフトとして発売された横スクロールアクションゲーム。デフォルメされたアメコミ調のグラフィックや、VFXアクションと呼ばれる時間や空間を操るアクションが特徴で、シリーズ化およびテレビアニメ化もされている。
- 岩田
- はい。
- 山上
- アクションゲームが好きな松下さんに
「この企画、おもしろいからやらない?」
って言って見せたんです。そしたら松下さんが
「これは画が暗いから、小中学生にはウケない」
みたいなことを、いきなり言ってきたんです。 - 岩田
- 松下さん、いきなりそんなことを言ったんですか?
- 松下
- 言いました(笑)。「変えないとダメだ」という
強い確信があったんですね。
でも「ダークなアメコミ調はやめてください」とは
つくったご本人にいきなりお伝えしにくいわけで・・・。
- 岩田
- たしかに、はじめてお付き合いするのに、
いきなりつくったご本人にそれでは
いくらなんでも失礼すぎますよね(笑)。 - 松下
- プラチナゲームズさんはすごく
こだわりの強い人たちだと聞いていたんで、
そこはどのように伝えたらいいのか、
もしくはこのままプラチナゲームズさんのコンセプトを
優先して進めるべきなのか、
社内でもかなり議論をしたんです。 - 岩田
- でも最終的にいろんな人に
広く届けるためには、
ビジュアルを変えてもらうことが
必要不可欠だと考えたわけですね。 - 松下
- そうですね。そこはストレートに
お願いするしかないだろう、と。 - 岩田
- 神谷さんはその時、
どんな反応をされたんですか? - 神谷
- その話がきたときには、正直
「やっぱりそこにきたか」と思いました。
自分でも「このままだとちょっとニッチだな」
という思いはあったんです。
でも、それをどうすればよくなるのかが、
自分の中ではっきりつかめてなかったんですね。
そんな時に、任天堂さんからの指摘を
稲葉経由でうかがいまして・・・。
- 稲葉
- (神谷さんに向かって)あたかも自分が
素直に話を聞き入れたかのように言ってますけど、
相当もめたよね? - 神谷
- まあ、稲葉には子供のように抵抗しましたね。
- 一同
- (笑)
- 岩田
- 長い付き合いの稲葉さんは、
それを見て「痛いところ突かれたんだな」って、
わかるわけですね。 - 稲葉
- いや、神谷のたちが悪いのは、
本当にこだわって抵抗しているときとの差が、
あんまり変わらないんですよ。 - 岩田
- 区別がつきにくい人なんですか?
- 稲葉
- はい。
「わかったよ、プロデューサー様が
言ってるんだからしょうがないな」
みたいな感じで動き出すわけです。 - 一同
- (笑)
- 山上
- でも結果的に「変えてください」と
投げたボールに対して返ってきたビジュアルは
我々の思っていたものと
ひと味ちがうものだったんですけど、
「言われたとおり直しました」じゃないところが
さすがに神谷さんだなと思いました。 - 神谷
- あの時に「リアルフィギュア・リアルおもちゃ」
というコンセプトが生まれたんですよね。
ポップでもあり、写実的でもあるという。 - 岩田
- たしかに、あの表現はあまり見たことがない
ユニークさを持っているうえに、
明るくてポップという条件も備えてますよね。 - 稲葉
- 神谷独特のアクは残っているんですけど、
余分だったダークさがほどよくそぎ落とされて、
すごくいいバランスになったと思います。 - 岩田
- そうなると、あとはつくるだけですね?
もともとのゲームの骨子自体は
企画書の段階でほぼ見えていますので。 - 山上
- そうですね。さきほど話が出たとおり、
ユナイト・モーフを軸にしたゲームの構造は、
最初からほぼそのまま、活かされています。
プレイヤーがたくさんの隊員を引き連れて
行動していくわけですけど、
彼らをユナイト・モーフで変形させ、
大きな1キャラクターとしての能力を使って
マップ上の問題を解決し進んでいくんです。
ユナイト・モーフにはさまざまな種類があるので、
目の前にある問題にどう立ち向かうのか、
考えながら遊ぶわけですね。
武器もいろいろつくり出せますし、選べます。 - 岩田
- そこまで決まっていたわけですからね。
- 山上
- はい。それで任天堂としてはまずその
ゲーム性を先に詰めていきたかったんですが、
当初はなかなか見せてもらえなくて。
どうも神谷さんの興味が、
世界観の構築のほうに向かってしまって
「あれもやりたい、これもやりたい」と
規模ばかりがふくらんでいった感じなんですね。
- 岩田
- ああー。当時、山上さんとの面談でわたしも
「さわり心地はどうなってますか?」って、
よく言ってましたよね。 - 山上
- そうですね。画の雰囲気や遊びかたはわかるけれど
世界ばっかりが先にできていって、
そこで具体的にどんなふうに楽しめるのか、
肝心の部分がわからなくて、
だんだん不安になっていくという。
そういう状況が、ちょっと長くありました。 - 神谷
- そういう意味でいえば、
いまのゲーム性がちゃんと確立できたのは、
今年に入ってからじゃないですか? - 松下
- 去年のE3(※12)の段階で、
一応、普通に遊べる形にはなっていたんですが、
細かく仕様を詰めて整ったのが
今年に入ってからですね。
E3=Electronic Entertainment Expo(エレクトロニック エンターテインメント エキスポ)の略で、年に1度、米国のロサンゼルスで開催されるコンピューターゲーム関連の見本市のこと。昨年2012年のE3は、2012年6月5日から7日までの3日間開催された。
- 神谷
- そうでしたね。
何かの締め切りが近づくたびに、
「このままではいけない」と、
少しずつ変えていったような気はします。 - 岩田
- やっぱり神谷さんにとって、
締め切りはエネルギーの源ですか? - 神谷
- そうですね。「やばいぞ」って
本当に奥歯がカチカチ鳴りはじめたところで、
やっと真剣に考えられるというか。 - 岩田
- ははは(笑)。
- 稲葉
- (神谷さんに向かって)奥歯、抜いてやろうか。
- 一同
- (笑)
- 神谷
- いま思えば、去年のE3の頃はまだ、
あまり自分では満足いってなくて、
本当におもしろくなっていなかったんです。
画はしっかりできたし、キャラクターが大勢いる
ユニークさがあったとはいえ、
肝心のゲーム性が、いまひとつでした。