The Wonderful 101
1. 集まることで生まれる力
2. 「変えないとダメだ」
3. つくってはつぶす
4. 「入ったほうがプラスになる」
5. ワンダ・ディレクター
6. 「怖がらないで、飛び込んで」
4. 「入ったほうがプラスになる」
- 岩田
- 最初の段階でいろんなことが決まって、
一見順調に進むかに見えた今回の企画も、
やっぱり開発終盤になると
いろんなことが起きているんですね。 - 神谷
- 僕の中では、山上さんが
『パネポン』(※16)をつくった人だと
知ったのがこの頃だったので、
それがある意味事件ではありました(笑)。
『パネポン』=『パネルでポン』。1995年10月に、任天堂がスーパーファミコン用ソフトとして発売したアクションパズルゲーム。山上がディレクターを担当した。
- 岩田
- 事件でしたか?(笑)
- 神谷
- それはもう、驚きましたね!
僕は本当にずっと『パネポン』好きで、
いろんな節目の時、つねに『パネポン』を遊んでたんです。
それがまさか、それをつくった方と一緒に
仕事をする時がくるなんて、夢みたいなことなんです。 - 山上
- ははは(笑)。
- 神谷
- それを知ってからは、
ちょっと山上さんに対しての態度も変わって。
もっと先に言ってくれてたら・・・。 - 一同
- (笑)
- 松下
- あの、マルチ ユナイト・モーフの仕様を
入れたのが、本当に最後ギリギリの
タイミングでしたよね。 - 神谷
- はい・・・! そうでしたね。
- 松下
- あれは、たしか5月でした。
- 岩田
- えっ、5月!?
- 稲葉
- はい、今年の5月です。
マルチ ユナイト・モーフは、ひさしぶりに
「きたなコレ!」っていう出来事でした。
知った時はさすがにスタッフに「ふざけんな!」と
声を荒げてしまいました。 - 松下
- 開発の終盤も終盤ですから、
僕もはじめ聞いた時は
「すぐに止めるべきか」と思いました。 - 岩田
- 8月発売予定の商品の5月といえば、
「もう仕上げよう」と
最終段階のたたみに入ってる時期ですよね。 - 稲葉
- たたみかけたものをまた、
がばっと広げてしまったんです。 - 岩田
- その、マルチ ユナイト・モーフというのは、
どういうものか説明してもらえますか? - 松下
- 文字どおり、ユナイト・モーフを
いくつも同時につくれるようにして、
波状攻撃をしかけられるっていうものです。
たしかに、それまでは一人ひとつの
ユナイト・モーフしかつくれなくて、
その間、残りの隊員が増えたぶんだけ、
けっこう余ってたんですね。 - 岩田
- はい。
- 松下
- そういった状況をふまえると、
どう考えても、これは入っていたほうが
ゲームにとってプラスなわけです。
それで「これは、付き合うしかない」と。 - 稲葉
- ・・・申し訳ございません。
- 岩田
- それは一体、いつごろ動いた話なんですか?
- 松下
- 定例のデバッグのミーティングで、
「神谷からじつはこういうオーダーがあって、
すでに実装されてます」と。
それで「えっ? いま何と?」と
なってしまって。 - 山上
- 聞いた時には、もう入っていたんです。
- 岩田
- ますます無茶な話ですね(笑)。
- 稲葉
- 客観的にいうと、幸か不幸か、
実装の難易度自体は、さほど高くなかったんです。
というのは、もともとマルチプレイ用で
同時に複数のユナイト・モーフをつくる要素が
実装されていたので、それを応用できたんですよ。
ただ、副次的な問題がどれだけになるか、
考えるだけで頭がクラクラするくらいの・・・。
- 岩田
- いや、ぞっとしますよね。
- 神谷
- あの仕様を入れた日、
プラチナゲームズにミーティングに来られた松下さんと、
お昼にたまたま、ビルの下の
エレベーターのところでお会いしてますよね。 - 松下
- ええ、覚えてます。
「マルチ ユナイト・モーフ、入りましたね」
っていう話をしたら、神谷さんが
「入れちゃいました」ってひとこと言われて。 - 神谷
- はい・・・(笑)。
松下さんに声をかけられて、
僕、一瞬でいやな汗が噴き出しました。 - 岩田
- 「悪いことをした」という、自覚はあったんですね。
- 一同
- (笑)
- 神谷
- だってあれは
「この段階で入れるもんじゃない」
って言われたらまったくの正論ですし、
反論の術(すべ)はゼロですから。
それはわかっていました。 - 稲葉
- だいたいそういう大きな変更のときって、
ふだんなら僕のところに見せに来るんですよ。
「これ入れるんだけど、いい?」みたいな。
マルチ ユナイト・モーフに関しては、
一切なかったですからね。
僕のところに別ルートで事後報告がきたので、
もう、ひさびさにキレましたね。
「この時期に何やってるんだ!」って。 - 岩田
- その気持ちはわかります(笑)。
- 松下
- でも仮に、事前に相談をもらっていても、
たぶん僕はOKしてたと思いますよ。 - 稲葉
- 僕は、うーん・・・。
立場的に、微妙ですけどね。 - 神谷
- そこは、ゲームの磨きですからね。
ぜんぜんおもしろくない時期から、
任天堂さんには本当にあたたかく
見守っていただいたので、
ギリギリ精一杯、応えたかったんです。
- 稲葉
- ・・・ほう。
- 一同
- (笑)
- 山上
- でもたしかに、事前に相談をもらっていたら、
任天堂はおそらく、賛同していたとは思います。
その場合は発売日をもう少し後ろに調整しますし、
ここまで苦しい思いは、しなくて済んだわけです。
「急にやられると予定が組めない」
というところに、いちばん困ったんですよ。 - 岩田
- でも、その仕様を入れることで
確実におもしろくなることが
明白なわけですからね。 - 山上
- はい。実際、とてもよくなりました。
自分ができることがぐっと広がりました。
- 松下
- 「使いこなしたらこれほど楽しいことはない」
っていうくらい、変わりましたね。
ひとつしか使えなかったときは、
結果的に気に入ったやつだけで戦って、
単調になってしまう感がありましたから。 - 岩田
- まあ、自分の気に入った
パターンみたいなものができてしまうと、
よくも悪くも最初にあった興奮がうすれて、
冷めていきますからね。 - 松下
- そうなんです。
自分なりの戦略を立てて
臨機応変に戦えるようになったんです。 - 岩田
- たぶん、本当におもしろくないと
ずっと遊び続けられなかったところが、
最後にやったその“無茶”のおかげで、
ゲームの遊びの深さがまして、
ゲーム性を一変させることに成功したわけですね。 - 神谷
- 本当にご迷惑をおかけしてしまったんですが、
その甲斐あって、そこに対しては、
一気に新たな深みが、生まれたとは思います。
より自分だけのプレイスタイルがつくれるし、
魅せるトリッキーなプレイにこだわって
「自分の美学に酔いたい」みたいなところまで
対応できる懐の深さがそこでできた、
ということは意味があったかなと思っています。