ドラゴンクエストX 目覚めし五つの種族 オンライン
1. 「寝っ転がってレベルアップ」
2. 世代を超えて
3. 「人とちがったことがしたい」
4. 「その向こう側に意思がある」
5. 「大型アップデートは最大のお祭りである」
6. 遊びの環境の幅
2. 世代を超えて
- 岩田
- これまでのMMORPG(※9)というと
長い時間遊んでいる人がとにかく有利で、
短い時間しか遊べない人は
居心地が悪いイメージを
持っている方が多かったじゃないですか。
MMORPG=Massively Multiplayer Online RPG(マッシブリー・マルチプレイヤー・オンラインRPG)。多人数同時参加型のオンラインRPG。
- 齊藤
- そうですね。
- 岩田
- だから当初、お客さんの中には、
「オンラインの『ドラゴンクエストX』に
素人の自分が飛び込んでいったら、
相手にされないんじゃないか」と、
ちょっと怖いイメージを持たれていた方も
多かったと思うんですね。 - 齊藤
- でも実際は、
ぜんぜんそんなことないんです(笑)。 - 岩田
- そう、まったく逆なんですよね。
「みんな初心者にやさしいなぁ」って
すごく感じていたんです。
どうしてあそこまでみんな、
初心者にやさしくしてくれるんでしょう?
ちょっと変な質問かもしれませんが(笑)。 - 藤澤
- ゲームデザイン的な視点でいうと、
いまはプレイヤー同士が明確に競い合ったり、
極端に競争心をむき出しに励む遊びがない点が、
要因のひとつではあるとは思います。
- 岩田
- 競争的な要素をあえておさえている、
ということですか? - 藤澤
- はい、だから、そういったところで
長く遊んでいる方たちが、
あとから入ってきた初心者の方に対して
ゆとりある気持ちで
接することができる構造に
なっているんじゃないでしょうか。 - 齊藤
- まあ、デザイン的にいうとそうだけど、
わたしは、もともとの
『ドラゴンクエスト』の画作りが
いちばんの理由なんじゃないかと思いますね。
あの独特の色味が、そこにいる人の心を
やわらげているんじゃないかと。 - 藤澤
- それは昔からよく言われていますね。
ファンシー系なファンタジーの
ゲームの中にいる人は、
実際少し性格もファンシーになるんです。
だから『ドラゴンクエスト』の世界観自体が、
ある意味、いまのお客さんのマインドを
つくっている気がします。 - 岩田
- 「そこにいると、やさしくなれるゲーム」
なんですね。 - 齊藤
- 前回のこの場でも、
藤澤が“愛”という言葉で、
それを間接的に表現していたと思うんですけど、
そこにいる人はみんな
『ドラゴンクエスト』が好きだから、
必ず味方になってくれるはずなんです。 - 岩田
- はい。
- 齊藤
- これがオリジナルタイトルだと、
それこそいろいろな人がいて、
声の大きい人が思うようにふるまう世界に
なってしまうと思うんですけど、
『ドラゴンクエスト』が好きで、
大事にしたい気持ちでつながっているから、
きっとそこはやさしくなれるんでしょうね。 - 岩田
- それが『ドラゴンクエスト』の
いちばんの武器なわけですからね。 - 藤澤
- 将来的には競争的な遊びも
いくつか投入していくとは思いますが、
たぶんそうなっても、
いまのやさしい雰囲気はさほど変わらず
残って受け継がれる気がしますね。 - 齊藤
- わたしはきのう、Wii版をプレイしていて、
偶然、小学校1年生だっていう子と一緒に
魔法の迷宮(※10)に入ったんです。
魔法の迷宮=プレイヤーのレベルに応じて構造や難易度が変わるダンジョン。ランダムにほかのプレイヤーとマッチングされ、パーティプレイで挑む。
- 藤澤
- 迷宮ってなんだか
小学生によく会いますよね。 - 齊藤
- 会います(笑)。
- 藤澤
- たぶん、こんなに年代の幅が広く
一緒に遊べるオンラインゲームは、
ほかにないんじゃないでしょうか。
本当に小学生からおじいちゃんまでが、
ひとつの世界で遊んでいるという。 - 齊藤
- そうなんです。
- 岩田
- その世代の差の話って、
とてもおもしろいんですよね。
わたしは先日Miiverseの
『バルーンファイト』(※11)のコミュニティで、
その世代の差を超えたおもしろさを
感じたことがあったんです。
少し話がそれるんですが、いいですか?
『バルーンファイト』=ファミコン生誕30周年を記念し、Wii U バーチャルコンソール体験キャンペーンとして2013年1月24日から2月22日まで、30日間限定特別価格30円(税込)で配信されたアクションゲーム。『バルーンファイト』は、岩田がハル研究所のプログラマー時代に開発を手がけ、1984年にアーケード版が登場し、1985年にはファミコン版が発売された。
- 藤澤
- はい、もちろん(笑)。
- 岩田
- わたしの同世代のお客さんで
「20年以上前、やりこんでました!」という方と
その日はじめてこのゲームを遊んだ現役小学生が、
いままさに同じテーマで語り合っている様子を見て
「何かすごいことが起きてるんじゃないか!?」
って気がしていて。
同じゲームを一緒に遊んでいる、ということが
そうさせるのだと思うのですが、
世代も経験も時間軸もまるでちがう他人同士が、
ごく自然に交流してつながっていくという
こんなネットサービスは、
かつてなかったと思うんです。
- 藤澤
- その気持ちは、なんとなくわかります。
僕はきのう家でひとりで、サポート仲間(※12)として
フレンド(※13)のキャラクターを借りて
冒険していたんです。
そこで連れていた3人のサポート仲間というのが、
ひとりは昔学生だった時の友達で、
ひとりはいまの仕事仲間、
そしてもうひとりはゲームの中で知り合った
顔を知らないフレンドなんですね。
サポート仲間=ほかのプレイヤーが育成しているキャラクターをゴールドで雇い、NPC(ノンプレイヤーキャラクター)として自分のパーティに組み込んで一緒に冒険できる仕組み。
フレンド=ゲーム内で仲良くなって「フレンド」に登録した、ほかのプレイヤーが育成しているキャラクターのこと。離れた場所にいてもチャットで話しかけることができたり、相手の現在地がわかるようになるなど、コミュニケーションが取りやすくなる。またフレンドは、ゴールドを必要とせずに雇うことができる。
- 岩田
- なんだかダイナミックですね。
でもたしかに近い感覚かもしれません。 - 藤澤
- それぞれ場所も時間軸も、
つきあいの深さもまったくバラバラな3人が
そろって仲間になって一緒に冒険している。
そして僕はひとりで遊んでるっていうこの状況が、
「なんとも不思議な状況だなあ」と
しみじみ思いました。 - 岩田
- そういう意味でいうと、
『ドラゴンクエストX』の世界の中では
実際にたくさんの人と人が
やりとりしているわけで、
そこにはもっといろんなドラマが
生まれているんでしょうね。 - 藤澤
- きっとそうなんだろうと思います。
僕も齊藤もツイッターをやっているので、
ときどきプレイヤーさんから直接
遊んでいる声をいただくことがあるんです。
その中で、
「20年くらい疎遠だった兄と、
いま子供の頃のように毎日一緒に遊んでいて、
『ドラクエ』の世界を走っていると、
兄弟で走っていた子供の頃を思い出します」
というお話を伺えて、とてもうれしかったですね。 - 岩田
- いいお話ですね。
- 齊藤
- 上京した娘さんと、実家にいるお父さんとで
ふたりでプレイされている方とか、
親子で遊ばれている方のお話も聞きますね。
家族で離れて暮らしているけれど、
『ドラゴンクエストX』を通じてコミュニケーションを
とられているようなんです。 - 岩田
- それは『どうぶつの森』でも
同じようなことが起きていますね。
でも『ドラゴンクエストX』の場合は
また独特ですよね。
誰もが共通で知っている
歴史があってこその現象だと思いますよ。
ほかのオンラインゲームが
簡単になし得る現象ではありませんから。 - 齊藤
- そう思います。
『ドラクエ』ってそれこそ
新作が出るたびに社会現象になって、
日本中の家庭でドラマがあったと思うんです。
第1作からもう25年以上経って、
家族のつながりも当時とは変わっているなかで、
オンラインになった『ドラクエ』が、
その家族をまたつなぐきっかけになれることは、
とてもすばらしいことだと思います。
- 藤澤
- 自分が親としていまお子さんと一緒に
遊ばれている方も多いですよね。
僕も家で娘と一緒に遊んでいますけど、
これが『ドラクエ』でなければ
子供と一緒に同じ世界を冒険することが
なかったかもしれないと思うと、
「本当に新鮮な体験だなぁ」と思います。 - 岩田
- そんなふうに「世代を超えて」ということは、
当初から意識をされて
つくられていたんですか? - 藤澤
- 明確にはなかったと思いますが、
いつもの『ドラクエ』のコンセプトとして、
「誰にでもわかりやすく」ということが
キーワードとしてありましたから、
それが結果、つながっている気がします。 - 岩田
- 「誰でもわかるし、楽しめる」という
普遍性をつねに意識しているから、
遊ぶ人の世代を問わないわけですよね。 - 藤澤
- そうですね、本当に。
それが結果的に多くの世代に
受け入れられているものに
なっているんだと思います。