『Splatoon(スプラトゥーン)』
1. はじめは豆腐
2. もがいてウサギ
3. やっぱりイカ
4. “強いちから”を手に入れて
5. 「深みの底にたどり着けない」
6. 「白黒ハッキリさせる」
1. はじめは豆腐
- 岩田
- 今日はみなさん、
おそろいのTシャツを着てますね。 - 野上
- あ、はい(笑)。
- 阪口
- たまたま、なんです(笑)。
- 岩田
- どう見ても「たまたま」じゃない感じですが(笑)。
- 一同
- (笑)
- 野上
- じつは、これと同じデザインのTシャツが、
『スプラトゥーン』のなかにも出てくるんです。
なので、今日はみんなで着てきました。
野上恒=情報開発本部 制作部所属。本作『Splatoon(スプラトゥーン)』では、プロデューサーを担当。過去、社長が訊く Wiiプロジェクト Vol.3 Wiiチャンネル編、社長が訊く『街へいこうよ どうぶつの森』、社長が訊く ゲームセミナー2008~『どうぶつの森』ができるまで~に登場。
- 岩田
- ああ、そうだったんですね。
さて、その『スプラトゥーン』は
昨年のE3(※2)で初めてお披露目したわけですが、
その時の反響をどのように受け止めましたか?
E3=Electronic Entertainment Expo(エレクトロニック エンターテインメント エキスポ)の略で、毎年6月に、米国のロサンゼルスで開催されるコンピューターゲーム関連の見本市のこと。『Splatoon(スプラトゥーン)』は2014年のE3に初出展された。
- 野上
- 僕らとしては「絶対におもしろい」と
手ごたえを感じながら出したんですけど、
予想以上の反響をいただきまして、
うれしかったです。 - 岩田
- なぜ評価していただけたと思いましたか?
- 野上
- 遊べばすぐに理解できる
ゲームのわかりやすさがよかったのだと思いますが、
もうひとつは映像でゲームを紹介したことが
よかったんだと思います。
天野さんは大学で映像制作を学んでいて、
彼がE3用のPV(プロモーションビデオ)を
つくったんです、監督として。 - 岩田
- 開発者がPVをつくるのって珍しいですよね。
普段は外部の専門家にお任せすることが多いですから。 - 天野
- 今回は、お客さんに対して
「ここを伝えたい」「こう見せたい」
ということがハッキリしていたので、
自分たちでつくることにしたんです。
あのPVを見ていただくだけで、
実際に触らなくてもどういうゲームなのかを
わかっていただけると思いますし、
何より新キャラクターの「イカ」を
象徴的に伝えたいと思っていました。
天野裕介=情報開発本部 制作部所属。本作『Splatoon(スプラトゥーン)』では、阪口と共にディレクターを担当。過去、社長が訊く スーパーマリオ25周年 『スーパーマリオ』シリーズ開発経験者篇その2、社長が訊く『スターフォックス64 3D』、社長が訊く『New スーパーマリオブラザーズ 2』</a>に登場。
- 阪口
- ちなみに僕はE3会場にいたんですけど、
「なんでイカにしたんですか?」と
メディアの方から何度も聞かれました(笑)。
阪口翼=情報開発本部 制作部所属。本作『Splatoon(スプラトゥーン)』では、天野と共にディレクターを担当。過去、社長が訊く『Wii U』 Nintendo Land 篇に登場。
- 野上
- そこは本当に何回も聞かれましたね(笑)。
- 岩田
- たぶん、ここを読んでおられる方も
「なんでイカにしたんですか?」
という話から聞きたいでしょうね。 - 野上
- ええ(笑)。
- 岩田
- このプロジェクトは、それなりに長い間、
いろんな試行錯誤があって、
最終的にイカにたどり着いているんですけど、
まずはその話から訊きましょうか。 - 野上
- はい。このプロジェクトは
Wii Uの立ち上げが終わったころから
スタートしました。その時に・・・。 - 岩田
- 野上さんは、
Wii Uのメニューをつくっていましたよね。 - 野上
- はい。で、阪口さんは、
『ニンテンドーランド』(※5)の開発に携わっていましたし、
佐藤さんは・・・。
『ニンテンドーランド』=『Nintendo Land』。2012年12月に、Wii U用ソフトとして発売されたテーマパークアトラクションゲーム。
- 佐藤
- 『New スーパーマリオブラザーズ U』(※6)の
開発をしていました。
『New スーパーマリオブラザーズ U』=2012年12月に、Wii U用ソフトとして発売されたアクションゲーム。
佐藤慎太郎=情報開発本部 制作部所属。本作『Splatoon(スプラトゥーン)』では、プログラムディレクターを担当。
- 野上
- なので、メンバーそれぞれが
Wii Uのローンチにかかわっていたんですけど、
それらの開発が一段落したあとに集まってもらって、
「既存のゲームの枠にとらわれずに
新しいゲームをつくろう」
というプロジェクトを立ち上げたんです。
井上さんもWii U メニューの開発をしてたんですが、
一緒にプロジェクトに参加してもらいました。 - 井上
- そうですね。
井上精太=情報開発本部 制作部所属。本作『Splatoon(スプラトゥーン)』では、アートディレクターを担当。
- 岩田
- 『マリオ』でも『ゼルダ』でもない、
まったく新しいゲームをつくろうということで、
みんなが集まったんですね。 - 野上
- はい。もちろん、ここにいる以外にも
メンバーがいたんですけど、
毎日のようにみんなで集まって、
新しいゲームのアイデアを出しあっていました。
数で言うと50以上は・・・。 - 井上
- 70個はありましたね。
- 岩田
- 70個も、ですか?
どのくらいの期間、考えたんですか? - 野上
- 半年くらいです。
- 岩田
- けっこう数が出るものなんですね。
- 野上
- みんなで競争意識を持ちながら、
アイデアを出しあっていましたので・・・。 - 天野
- あと、誰かのアイデアにインスパイアされて、
「自分だったらこうする」
みたいなこともありました。 - 岩田
- 「そう来るなら、自分はこうする」みたいな?
- 阪口
- はい。アイデアがどんどん
枝分かれしていったんです。 - 野上
- そうやって、みんなでアイデアを出しあって、
数回のプレゼンを経て、最後に生き残ったのが
今回の『スプラトゥーン』の元になった
アイデアでした。 - 岩田
- あえて訊きますけど・・・
みなさんが所属する情報開発本部(※9)は、
任天堂の看板キャラクターをたくさん抱えているので、
そのシリーズをつくり続けることに
多くの力がとられていたりしますよね。
すると、新しいものをつくるチャンスが、
生まれにくいという構造にもなっていて・・・。
情報開発本部=任天堂の開発本部のひとつ。宮本茂が本部長を務め、『スーパーマリオ』や『ゼルダ』『どうぶつの森』『ピクミン』など、多くの任天堂キャラクターのシリーズタイトルを開発している。
- 野上
- そうとも言えますね。
- 岩田
- もちろんWiiの時にも、
いくつかの新しい構造のゲームはつくりましたけど、
新しいキャラクターという意味では
『ピクミン』(※10)以来、
14年ぶりになるんですよね。
『ピクミン』=2001年10月に、ニンテンドー ゲームキューブ用ソフトとして、シリーズ第1作が発売されたAIアクションゲーム。その後、2004年4月に同じくニンテンドー ゲームキューブ用ソフトとして『ピクミン2』が発売され、2013年7月にWii U用ソフトとして『ピクミン3』が発売されている。
- 野上
- そうなんです。
情報開発本部としては
14年ぶりくらいに生まれた
新しいキャラクターになります。 - 天野
- でも、はじめは、
新しいキャラクターというより
新しい構造をつくろうとしていたんです。 - 野上
- そうですね。
新しいキャラクターをつくることには
必ずしもこだわっていなくって、
まずは新しい構造のゲームをつくろうと。 - 岩田
- そこ、けっこう大事だと思うんです。
情報開発本部のものづくり、
つまり宮本(茂)さんのものづくりというのは、
デザインからではなく、機能から派生して、
そのあとにデザインに行き着くじゃないですか。
- 野上
- そうですね。
- 岩田
- だから、必ずしも、
「このキャラクターを出したいから
ゲームをつくっている」
ということではないんですよね。 - 野上
- はい。
- 岩田
- それで、『スプラトゥーン』の元になったのは
どんなアイデアだったのですか? - 野上
- プログラムディレクターの
佐藤さんがつくった試作が元になっていて、
最初は真っ白けの迷路のなかに
四角い立方体の・・・。
- 岩田
- 豆腐・・・?
- 野上
- はい(笑)。豆腐のような形をした
白いのと黒いのがインクを発射しあって、
陣地を取りあう、という遊びでした。 - 岩田
- 最初はイカではなく
白と黒の豆腐が
インクを塗りあってたんですね(笑)。 - 野上
- はい(笑)。
- 岩田
- でも豆腐は普通、白いものですけど。
- 阪口
- 黒いほうは、ごま豆腐です(笑)。
- 佐藤
- なので、『スプラトゥーン』の元は
ごま豆腐ともめん豆腐の争いだったんです。 - 一同
- (笑)