『Splatoon(スプラトゥーン)』
1. はじめは豆腐
2. もがいてウサギ
3. やっぱりイカ
4. “強いちから”を手に入れて
5. 「深みの底にたどり着けない」
6. 「白黒ハッキリさせる」
2. もがいてウサギ
- 岩田
- 70個ものアイデアのなかから
豆腐のゲームが選ばれる決め手になったのは、
なんだったんですか? - 天野
- やっぱり、実際に遊べる試作があった、
というのがすごく大きかったと思います。 - 野上
- 試作の時点で4人対4人のネット対戦が
できるようになっていたんです。 - 岩田
- 最初から4人対4人ができたんですか・・・。
プログラマーはやっぱり強いですね(笑)。 - 佐藤
- (うれしそうにうなずく)
- 岩田
- 新しい構造のものをつくるときは、
“プログラマー最強説”というのがあるんですよね。 - 佐藤
- そうですよね(笑)。
- 岩田
- わたしもプログラマー出身ですから
この手をよく使いました(笑)。 - 一同
- (笑)
- 野上
- しかも、佐藤さんのつくった試作には
遊びの基本構造がしっかり入っていたんです。
その時のものは、いまとは逆で、
マップをテレビ画面に、豆腐を動かす3D画面を
Wii U GamePadに表示していたんですけど、
ときどきマップを見て相手の行動を読みながら
豆腐からインクを放出し、
自分のナワバリを広げていく遊びが
とてもおもしろくて、
「これは遊びの核になるだろう」と思いました。 - 岩田
- ちなみに、豆腐からは
どんなふうにインクが出ていたんですか? - 佐藤
- 豆腐に鼻をちょこんとつけていたんです。
そうしないと、どっちが前なのか
わかりませんので(笑)。 - 岩田
- たしかに豆腐には
前も後ろもありませんからね(笑)。 - 佐藤
- で、その鼻のあたりから
インクがドバーッと(笑)。
- 一同
- (笑)
- 岩田
- 佐藤さんは、この企画を考えたとき
どんなことがキモになると思いましたか? - 佐藤
- ひとつは“隠れる”ということです。
この時のマップ画面は、同じ3D空間を
真上から見ただけのものだったんですが、
自分が塗ったインクの上に豆腐が乗ると、
色がピッタリ重なって、見えなくなるという・・・。 - 岩田
- 保護色で見えなくなるんですね。
- 佐藤
- そうなんです。
ただ、3D画面で見ると居場所が見えてしまうので、
“伏せる”という操作をあとから追加しました。 - 岩田
- 最終的には、イカになって
インクのなかに“潜る”ようになりましたけど、
最初は“隠れる”という発想がはじまりだったんですね。 - 佐藤
- はい。
それに、いくらなんでも豆腐だと
商品にはなりにくいですから、キャラクターを
ヒト型に替えることにしました。 - 井上
- その時は、とりあえず手足のついた
キャラクターをデザインしたのですが、
そうしたことで、このゲームが持つ
本来のおもしろさが損なわれるような
ところも出てきました。 - 阪口
- たとえば、
豆腐だったときは、自分のインクの上にいると
真上から見たマップではまったく見えなかったのが、
ヒト型になるとキャラクターがいるのが
うっすら見えるようになったりとか・・・。 - 岩田
- そうなると“隠れる”意味が
なくなってしまいますね。 - 阪口
- そうなんです。
そもそも、インクのなかに隠れたときに、
まったく見えなくなるのと、
うっすらと見えてるのとでは、
このゲームの意味がまったく違ってくるんです。 - 野上
- 敵からまったく見えなくなることで、
“待ち伏せ”や“隠密行動”ができるんですね。
すると、敵のインクが塗られている場所に向かうとき、
「このあたりに敵が隠れているかもしれない」
と、警戒する必要がでてきて
ゲームとしての緊張感がすごく高まるんです。 - 阪口
- なので、このゲームは全部消えないとダメなんです。
あと、地形もリッチにしようと
立体にしたのはよかったんですが、
そのことで、ほころびがちょっとずつ
生まれるようになりまして・・・。 - 野上
- このゲームはマップを上から見て
インクを塗った面積の広さで
勝敗を決めるというルールですので、
地形を立体にしたことで
「壁を塗る意味は?」となってしまったんです。 - 岩田
- なるほど。
壁を塗っても、真上からは見えないので、
ゲームのなかで「壁を塗る」という行為が
無駄なことになってしまったんですね。 - 佐藤
- ですから、がんばって壁を塗っても
勝敗には関係がないということで
壁を塗れないようにした時期もありました。 - 阪口
- でも、そうすると、
遊びの手ごたえがなくなってしまったんです。
だから、あの当時は、
「壁は塗るべきだ」「塗るべきじゃない」
という議論をずっと繰り返していましたよね。
- 野上
- そうでしたね。
キャラクターをヒト型にし、地形を立体にすることで、
ほころびが、いろいろ出はじめて、
「これらをどう解決したらいいんだろう」と・・・。 - 天野
- その時は、それらを解決する、しない
という以前に、単純にもがいていたと思います。 - 野上
- 豆腐に戻そうか
とかも話していたのですが・・・。 - 天野
- でも「豆腐で何万本売れるの?」と考えると・・・。
- 岩田
- さすがに、豆腐のままでは・・・。
- 一同
- (笑)
- 野上
- ちなみに、キャラクターをマリオにすることも
選択肢のひとつとしてはあったんです。 - 岩田
- 10年以上も前に
『マリオサンシャイン』(※11)というゲームがあって、
ポンプを使って水を放射するアクションが
あのゲームの特徴になっていましたけど、
そのことが念頭にあったからなんですか?
『マリオサンシャイン』=『スーパーマリオサンシャイン』。2002年7月に、ニンテンドー ゲームキューブ用ソフトとして発売された3Dアクションゲーム。背負った「ポンプ」で放水するなどの、水を駆使したアクションがゲームの中心になっている。
- 野上
- それ、よく言われるんですけど・・・。
- 岩田
- まったく関係ないんですか?
- 野上
- 忘れてました・・・。
- 一同
- (笑)
- 野上
- 「ああ、そういえば、
『マリオサンシャイン』は水鉄砲だった・・・」
と、あとになってから思い出したくらいです。
任天堂の社員としては情けない話なんですけど(笑)。 - 岩田
- でも、まあ、ゲームの構造がまったく違うわけですし、
そもそもこれは『マリオサンシャイン』の延長で生まれる
アイデアではないですよね。 - 野上
- はい。ゼロから遊びの構造を考えて、
それに適したデザインをしようとしていましたので、
既存のキャラクターを借りてこようという考えは
あまりなかったんです。 - 岩田
- それで、みんなでもがいた結果、
どんな活路を見いだせたのですか? - 野上
- ヒト型からウサギに
キャラクターを替えてみました。
- 岩田
- どうしてウサギにしたんですか?
- 井上
- もともとウサギは白いので、
インクを塗られたときに、わかりやすいですし、
長い耳がなびきますので
アクションも映えるようになり、
真上から見たときも、耳の方向で
どっちを向いているのかがわかりやすかったりと
デザイン上の利点がいっぱいあったんです。 - 野上
- それに、
「新しいゲームのキャラを
ウサギと豆腐のどっちを選びますか?」
となったときに・・・。 - 岩田
- 間違いなくウサギでしょう(笑)。
- 野上
- ですよね(笑)。
- 一同
- (笑)