『Splatoon(スプラトゥーン)』
1. はじめは豆腐
2. もがいてウサギ
3. やっぱりイカ
4. “強いちから”を手に入れて
5. 「深みの底にたどり着けない」
6. 「白黒ハッキリさせる」
4. “強いちから”を手に入れて
- 岩田
- キャラクターをウサギからイカに変更すると決めて、
開発はスムーズに進むようになったんですか? - 野上
- それが、そうでもありませんでした(笑)。
- 阪口
- イカは墨を吐く生き物なので
インクを塗るのにピッタリなキャラですし、
「イカはマップ上で矢印の形に見えるのでいいですよね」
と井上さんが言っていたので、自分も
「UI(※13)で、イカの形をしたカーソルがあるといいね」
というような話で、最初は盛り上がっていたんです。
UI=ユーザー・インターフェイスの略称。コンピューターを操作するときの画面表示や、ウィンドウ、メニューなどの表現や操作感を指す。
- 井上
- でも、ウサギに比べて、
親近感がわきにくいんですよね、イカは。
それに、キャラクター化しづらいところもありましたし。 - 阪口
- なので、最初に考えていたキャラクターは
“イカっぽいヒト”みたいなやつでした。
- 野上
- 正確に言うと、“ヒトっぽいイカ”なんです。
イカがヒトになったという設定でしたからね。 - 天野
- イカを擬人化したようなデザインだったので、
キャッチーではなかったですし、
“インク生命体”と“ヒューマン体”の違いも
ハッキリしていなかったんです。 - 阪口
- そこで、スタッフの間から
「クリオネとかウミウシのように
ほかの海洋生物はどうなんだろう」
という意見も出るようになったんです。
でも、僕としては、矢印の話もありましたので、
イカに光明を見いだしていたのですが、
ある時に、天野さんがボソッと言ったんです。
「イカとヒトを切り替えるんやから、
イカはイカっぽく、ヒトはヒトっぽくしても
いいんじゃない」と。 - 岩田
- “ヒトっぽいイカ”ではなく
“ヒトっぽいヒト”でいいと・・・。 - 天野
- 僕、そんなことを言ったなんて
ぜんぜん覚えてないんですけど(笑)。 - 一同
- (笑)
- 阪口
- 僕はその時
「天野さん、すごい」と思いましたから(笑)。
「そうか、“ヒトっぽいヒト”でもいいんだ」と。
“インク生命体”はイカ、“ヒューマン体”はヒトと
性能を整理したように、
デザインも整理すれば良いんだと気づきました。 - 岩田
- ヒトはイカっぽくしなければならないと
思い込んでいたんですね、ずっと。 - 阪口
- そうなんです。思い込みがありました。
でも、イカとヒトをハッキリ分けることで、
アイデアがまとまって、
開発のスピード感がグッと上がったんです。 - 井上
- キャラクターのデザインも
最終の形態とほとんど
変わらないものになりましたし。
- 阪口
- それに、それまでは
「インクのなかに“隠れる”」と言ってたんですが、
“潜る”という表現にしようと思いました。 - 岩田
- “インク生命体”ではなくなり、
完全なるイカとして潜れるようになったんですね。 - 阪口
- そうです。そこで、スタッフに
「イカはインクのなかに“隠れる”のではなく、
“潜る”んだ」と説明したら、
“潜る”感じを出すために、
プログラマーはカメラを揺らしてくれて、
エフェクトデザイナーは水しぶきをつくり、
効果音の担当の人は「チャポン」という音だけでなく、
インクのなかに潜ったときに、BGMが
こもった感じで聴こえるようにしてくれたり・・・。 - 天野
- その時、自分たちは
“強いちから”を手に入れたように思いました。
このゲームには大きな柱が立ったので、
もうそこに何を入れても大丈夫だろうと。 - 野上
- すると、ゲームのなかに
いろんな人のセンスがどんどん入るようになったんです。
井上さんが、アートディレクターとして
まとめてくれましたので
ひとつのものにまとまってるように見えるんですけど。 - 岩田
- たとえばどんなことですか?
- 野上
- ヒトのキャラクターを
いろんな衣装でカスタマイズできますけど、
それがストリート系のファッションになってるのは、
そういうのがすごく好きなスタッフがいたからなんです。 - 岩田
- 大きな柱が立ったからこそ
自分たちの好きな世界で埋められたんですね。 - 野上
- そうです。あと、音楽もそうで、
インクを使ったナワバリ争いは、
あの世界ではスケボーのような
“やんちゃ”な遊びというイメージなのですが、
それに合うようなロック調の曲をつけたりして、
自分たちがいいと思うものを
ひたすら詰め込んだ、という感じでしたね。
それはある意味、
“悪ノリ”に近かったんですけど(笑)。 - 天野
- そのような“悪ノリ”をしても
イカとヒトを切り替えて遊ぶアクションゲームという
基本コンセプトはまったく壊れなかったんです。 - 岩田
- それだけ“強いちから”だったんですね。
- 天野
- はい。いろんなものを載せても、
揺るがないほどの強度があった、
ということなんだと思います。 - 野上
- そのようなことができたのは、
いちばん最初に、みんなで70個もの
アイデアを出し合ったことが大きかったと思います。
その時に提案されたアイデアが
全部なくなったかというと、
そうではなくって、70個のなかから、
たとえば天野さんが考えていたネタが、
最終的にこのゲームのなかに入っていたりします。 - 天野
- 僕はネットワークゲームが大好きで、
「チーム戦で何かをする」
というアイデアを考えていたんです。
ですから、敵を倒して遊ぶというよりも
チームで協力して何かをするということを
遊びの構造として入れたかったんです。 - 岩田
- 天野さんが最初に考えたネタは
『スプラトゥーン』に実現されていると。 - 野上
- はい。それに、
みんなで企画を出し合ったことは、
たとえそれが採用されなくても
チーム力を向上させるのに
とても役に立っているんです。 - 阪口
- 今回のスタッフはみんな
自分で一生懸命、いちから企画を考えて、
関係者の前でプレゼンをして、
「それ、ホンマにおもろいんか?」
と、即座に否定されるような経験を
少なくとも一度はしているんですが、
みんながそういう試練に
一度はさらされているからこそ、
人の意見に対しても真剣に耳を傾けるし、
自分の意見を問われたときも
「こういう理由で、こうするべきだ」と
ちゃんと言えるような関係性が生まれて、
その結果、それぞれのアイデアを
ロジカルに考えて積み上げることができたんです。
- 岩田
- 企画を考えて、それが実現しなくても
無駄ではなかったんですね。 - 野上
- はい。それに今回は、
物事を深く考えることができる人が
チームにたくさんいたこともラッキーでした。
開発の途中でもがくような状況になっても、
誰かがひとつのアイデアを出すことによって、
ポコッと天井を突き抜け、
ほかのみんながそろってそこまでググッと上がっていく、
という感じでアイデアを発展していけました。 - 岩田
- ひとつのアイデアが突破口になり、
全体がレベルアップしていったんですね。 - 野上
- そうです。で、また問題が起こると、
また別の人がアイデアを出して、
ということを繰り返していって・・・。
ちょっと手前味噌になりますけど、
今回はすごく高みに
持っていけたように思います。 - 岩田
- それ、すごくよくわかります。
深く考えている人が何人もいたからこそ、
この世に似たものがないゲームを
生み出すことができたんですね。
「あの○○を、任天堂がつくるとこうなった」
というものではない、まったく新しいものを。 - 野上
- はい。スタッフみんなのおかげで
それができたように思っています。