『スーパーマリオ 3Dワールド』
1. 「全部入れよう」
2. 「機能が先」
3. 「生理的に心地いい」
4. 時間が解決したこと
5. マルチプレイの原点
6. 「『3Dワールド』でないと意味がない」
7. 3Dマリオの集大成
2. 「機能が先」
- 岩田
- それにしても、今回新たに登場した
ネコマリオって、ちょっと反則じゃないですか?
壁を登り、ひっかき攻撃もできて、
ゴールのポールまで自分で登れるっていう。
あそこまで何でもありだと
『マリオ』のゲームバランスが
崩壊してしまうんじゃないかと心配なんですが、
そのあたりはどうなんでしょう。 - 宮本
- 『3Dランド』をつくってるときからの
テーマなんですけど、わりと
「楽しいからいいか」ということを
最優先にしていろんなものをつくってるんです。 - 林田・元倉
- そうですね。
- 宮本
- 競争をテーマに本気でバランスをとるなら、
性能のエディットのような、
こっちを伸ばしたらあっちを落とすというような
パラメーター調整が入ってくるんですけど、
そうすると結局種類はちがっても、
トータルの能力は平均的に
つくらなければいけなくなるんです。 - 岩田
- まあ、バランスをしっかりとろうとすると
急にかしこまって、きゅうくつな感じは
出てきてしまいますよね。 - 宮本
- そうですね。
でもそういうことはつくり手が押しつけずに、
遊ぶ人が自由に決めてくれればいいと思うんです。
「どれだけ楽しいことを矛盾がなく、
たくさんつくって詰め込めるか」
というのを楽しみながら考えて
つくったところはあります。 - 岩田
- あの、素朴な疑問なんですけど、
毎回マリオは新しいものに
変身しますけれど、ずっと考え続けていて
ネタ切れにはならないんですか? - 元倉
- うーん・・・。
あと1000個くらいは、あると思います。 - 一同
- (笑)
- 林田
- 1000個というのは冗談ですが、
みんなで「変身マリオのアイデア会」をやるので、
ネタはそれこそ山のようにあるんです。 - 岩田
- ああ、山のように出た中から
選ばれてるんですね。
じゃあ、ネタ切れの心配は
しばらくしなくても大丈夫ですね。 - 林田
- そうですね。実際に最後まで残るのは
50個のうち1個くらいなんですけど、
それでもネタが切れるということは、まだないです。 - 元倉
- 今回はもともと「走る」「ジャンプする」といった
気持ちよさを求めた検証を先にしていて、
その過程で通常のマリオにはない
「4本の脚で駆けるアクション」と
「壁を登るアクション」のネタが、
きっかけになっているんです。
- 岩田
- ということは、もともと別だった2つのネタを、
くっつけてひとつにしたんですね。
それで「これが当てはまるのはネコだ」になったんですか? - 元倉
- そういうことですね。
- 岩田
- ああ・・・「機能が先」なんですね!
そうだ、忘れてましたよ、
ここはそういうチームでした。
ネコという表現自体は、
機能が決まったあとで決まるんですね。 - 小泉
- わたしはネコに決まる前の検証から
見せてもらっていたんですけど、
検証段階では、あのキャラクターたちがそのまま、
4本の脚で走りまわってるわけです。
それを見てものすごく不安になってしまって。
ピーチ姫も、あらぬ格好で・・・(笑)。 - 岩田
- ピーチ姫があの格好のまま、ですか?
- 宮本
- サササーッていう具合に、動いてました。
- 一同
- (笑)
- 小泉
- まるでホラーでしたね、あの時は。
でもネコに決まってからは、
本当にしっくりと、いろんなピースがはまって。 - 林田
- そうですね。最終的には、
「まねきネコマリオ」まで、行き着きました。 - 岩田
- えっ、「まねきネコ」ってあの招きネコですか?
- 元倉
- はい。
地蔵マリオ(※7)と対になった変身で、
特定の条件で変身したネコマリオは、
ヒップドロップでボーナスコインを
出してくれるんです。
地蔵マリオ=『スーパーマリオブラザーズ3』や『スーパーマリオ 3Dランド』に登場した変身マリオのひとつで、敵に存在を気づかれず、ダメージを受けない。また、ふだん踏めない敵を踏みつけることができる。
- 岩田
- ははは(笑)。
でも、海外で招きネコってわかるんですかね? - 元倉
- ローカライズ(※8)チームに聞いたんですけど、
一応、アメリカでもLUCKY CAT(ラッキーキャット) という
言葉があるそうです。
ローカライズ=特定の国を対象につくられたものを、別の国でも利用できるように言語などを対応させること。
- 岩田
- へえ、海外にも似た由来はあるんですね。
ところで、変身ではないんですけど、
ダブルマリオもこれまでありそうで
なかった発想ですよね。 - 宮本
- あれができる前にも、
「1人で複数のマリオを動かす」という構想は
ずっとあったんですけど、
実際1本のスティックで
複数キャラクターを同時に動かすのは、
「操作的にけっこうしんどいだろう」
ということで、試してはいなかったんですよね。 - 岩田
- そうですよね。わたしもはじめて見たとき、
「えっ、これは自分で操作できるの?」って
思ってしまいましたから。 - 宮本
- 複数操作といっても、
ユニゾン(※9)のような動きで、
昔あったシューティングゲーム(※10)のように、
本体がそのままもうひとつくっついた状態を、
操作するようなスタイルなんです。
ユニゾン=音楽で同じ高さの音を示す。転じてここでは、プレイヤーの動きと寸分違わぬまったく同じ行動を取ることを指している。
昔あったシューティングゲーム=ここではナムコ(現バンダイナムコゲームス)が1981年にリリースした『ギャラガ』を指す。敵に捕獲された自機を取り戻すと、自機の横に並び、自機の動きに同期して通常の2倍の攻撃ができる。
- 岩田
- 自機が2機になって「おれ強い!」感が
味わえたやつですね。 - 宮本
- あれが予想外に3Dでも有効で、
操作する感覚もけっこうわかりやすいんです。
動かすことによって起きる結果は複雑なんだけど、
プレイヤーがすること自体は単純なので、
直感的に工夫しやすいんですね。
- 岩田
- そのダブルマリオも、山のようなネタ出しから
生まれたものなんですか? - 元倉
- それがじつは・・・、
配置ツールでスタッフがまちがえて
プレイヤーのマリオを2人置いてしまって
みつけたものなんです。 - 岩田
- えっ・・・
まちがえて置いたのに、動いてしまった? - 元倉
- はい。それを見て、
「これ、おもしろいんじゃないか!」
ということで、
そのままゲームに入れてしまいました。 - 岩田
- そんなことが、あるんですね(笑)。
その配置ツールが、マリオを2人置いても動くように
組んであったというところも
じつはすごいことですよね。 - 宮本
- まあ、よく動きましたよね。
- 一同
- (笑)
- 元倉
- 本当に偶然なんですけど。
- 岩田
- 偶然というより、担当者の設定ミスから
生まれたというのが、また何とも・・・。 - 林田
- ある意味
『マリオ』らしいですよね、すごく。 - 宮本
- そうなんです。いわゆる
“ウラ技”みたいな感覚ですよね。
もし担当者が「まちがったから直しとけ」って
事務的に処理してたら、
いま世に出てないわけです。 - 岩田
- いや・・・、本当にそうですね。
- 元倉
- ダブルマリオは、
ファイア、ブーメラン、タヌキなど
以前からある変身と組み合わせて動かせるので、
またそれが不思議な感じを受けるんですよ。 - 小泉
- やたら、意味なく
ファイアボールを投げたくなりますね(笑)。 - 岩田
- 見ているとうれしくなるんですね。
- 元倉
- それと、コインがものすごく取りやすいですね。
たくさんのコインをがばっと取る気持ちよさもあるし。 - 林田
- これまでの『マリオ』だと、
どんなにハードの性能が上がって、
たくさんのものや敵が表示できても、
マリオは1人なので、基本的には
単体で対処するしかなかったんですよね。 - 岩田
- じゃあ、「増やしちゃえ」と(笑)。
- 元倉
- そうですね、
味方が増えれば、遊びかたが広がるわけで。
マルチプレイで4人乗って動かすパネルといったネタも
ダブルマリオを増やせば対応できますし、
ミスから生まれたネタを活かして、
おもしろいものができたと思います。