『スーパーマリオ 3Dワールド』
1. 「全部入れよう」
2. 「機能が先」
3. 「生理的に心地いい」
4. 時間が解決したこと
5. マルチプレイの原点
6. 「『3Dワールド』でないと意味がない」
7. 3Dマリオの集大成
3. 「生理的に心地いい」
- 岩田
- 先ほどの密度の話に戻るんですが、
今回はコースをじっくり遊びこむことに対して、
かなりエネルギーが注がれている感があります。
そこはやっぱり、だいぶ意識されているんですか? - 元倉
- そうですね。今回の『3Dワールド』は、
4人のキャラクターを選んで遊べる
マルチプレイが大きな柱のひとつではありますが、
「1人で遊んでしっかりおもしろい」
ということがまず第一のコンセプトでした。
もちろんマルチプレイで、
お客さん同士のかけあいから生まれる
おもしろさというのは確実にあるんですが、
「1人プレイだとちょっとつまらないね」
というものにはしたくなかったんです。 - 林田
- そこはスタッフ全員、かなり意識していますね。
わたしもテストプレイでは
かたくなに1人プレイを固持して、
エンディングまで6周か7周しているんですが、
まだぜんぜん、飽きる気がしないです。 - 岩田
- 「密度もボリュームもたっぷり」なところに、
「再挑戦性バツグン」という構造を
合わせ持っていることって、
けっこうめずらしいことなんじゃないですか。 - 林田
- NOA(Nintendo of America)で評価してくれた方も、
「リプレイバリュー(再挑戦性)が高い」という
評価をしてくれています。 - 岩田
- コースひとつ攻略するにしても
能力の異なる4人のキャラクター(※11)がいるので
それぞれでゲーム性も変わってきますし、
プレイヤーの遊びかたによって
本当に攻略のポイントがたくさんありそうです。
4人のキャラクター=マリオのほかに、それぞれアクション能力の異なるルイージ、キノピオ、ピーチの中からプレイヤーキャラクターを選べる。
- 宮本
- 今回マルチプレイにすると決めた段階で、
そのためにばっさり切り捨てた仕様というのも、
実際いくつかあるんですね。
「マルチプレイを優先するから
このカメラはあきらめよう」とか、
それらを比較的早い時期に決めています。
とくに3Dマリオの歴史はカメラの歴史でもあるので
「カメラをどう使うか」ということについては
熟練したチームでもあるわけです。
そのおかげで、できるネタとできないネタが
早くから明確になった感はありますね。 - 岩田
- ああ、なるほど。
だから最終的にはムダがなくて、
「ちゃぶ台返し」もない。
つくった分だけ、全部入ったわけですね。 - 宮本
- はい。そのように収まっていったのは、
やっぱり早く仕組みがつくれるチームだからこそ、
という気はしていますね。 - 岩田
- そう言われると、「社長が訊く」の歴史の中で
「3Dマリオ=カメラの歴史」という話は、
いままであまり出てないんじゃないですか。 - 宮本
- まあ『ゼルダ』(※12)も同じことが言えるんですが(笑)。
3Dアクションゲームは、
つねにカメラとの戦いの歴史ですから。
『ゼルダ』=ここではNINTENDO64用ソフトとして1998年11月に発売された『ゼルダの伝説 時のオカリナ』以降の据置機向け3Dポリゴンのアクションアドベンチャーシリーズを指す。
- 岩田
- 小泉さんも宮本さんと一緒に
NINTENDO64の『マリオ64』(※13)や
『時のオカリナ』の頃からずっと、
カメラと戦い続けてきているわけですね。
『マリオ64』=『スーパーマリオ64』。NINTENDO64と同時に発売された、マリオ初の3Dアクションゲーム。1996年6月発売。
- 小泉
- そうですね。毎回新作をつくるたび
「こんなカメラがあれば遊びやすいだろう」と
いろんなトライをしていったんですけども、
前回の『3Dランド』からは、
けっこう明確な割り切りをして、
マリオの位置から一定方向に一定距離を保って移動する
並行カメラにしぼっているんです。
- 岩田
- カメラが一定方向からの固定になって
回り込まなくなると、
コース内で迷うことがぐっと減りますよね。 - 小泉
- その設計を一度通ったチームなので、
それがマルチになったときに
どういうカメラをつくったらいいか、
わりとすぐにピンときたみたいなんですね。
まず「分割画面はありえない」からはじまって、
ひとつの画面で遊ぶ理想的な形が
すぐにできたので「これはいける」と思いました。 - 元倉
- ちなみに補足すると、
1人プレイの場合はジャイロカメラ(※14)を使って
プレイすることもできます。
ジャイロカメラ=Wii U GamePadに内蔵されているジャイロセンサーで動きや傾きを感知し、自由にカメラを動かすことができる。
- 小泉
- 臨場感を味わいたい、
上級者向けのカメラ操作です。 - 岩田
- 基本的にはカメラを駆使しなくても
コースはクリアできるけれど、
それがけっしてぬるいというわけではなくて、
もっと奥深いチャレンジングな遊びも、
用意していますよ、ということですね。 - 元倉
- はい。
- 岩田
- そういう意味でいうと、
毎回出てくる悩みだと思うんですが、
「誰でも遊べるようにしたい」ということと、
「上手な人から『ぬるい』と言われたくない」部分は
今回どうやってつくられているんですか? - 林田
- そこは『3Dランド』の時に
ある程度仕組みを確立したつもりなんですが、
ゴールにたどり着くのがひとつの目標だけれども、
そこからさらに遊びこめるように、
『3Dランド』でいうところのスターメダル(※15)を
探索して集めるというのが、
上級者への遊びになっていくんですね。
スターメダル=コースのどこかに隠されて配置されているアイテム。
- 岩田
- はい。
- 林田
- 今回はそのスターメダルを、
グリーンスターに置き換えました。
これはなぜかというと、グリーンスターというのは
『マリオ64』からやってきた
スターを集める遊びと一緒で、
何かのチャレンジをして、
それをクリアすることでもらえるような、
一歩進めた遊びにしてるんですね。
上級者の人の中でも
よりいろんな遊びかたが楽しめるというか、
より3Dマリオに近い感覚で
楽しめるものになったのではと思っています。 - 岩田
- たしかに、E3でさわった方々もみんな、
とてもいい反応ではあったんですけど、
つくった側から見て
「ここをいちばん大事にしている」
というところはあるんですか? - 元倉
- そういう意味ではやっぱり、
最初に宮本さんと小泉さんから、
『マリオギャラクシー2』での共感という話を・・・。 - 岩田
- してましたね、盛んに。宮本さんが
「やっとマリオらしいキャラクターの定義が言葉になった」
と言っていた時期ですね。 - 元倉
- その“共感”をキーワードにして、
チーム全体で共有していったんですが、
自分的には今回“カワイイ”という
共感にこだわっていたので、
もう、みんなが聞き飽きるくらい、
「“カワイイ”とはどういうものか」を追求しました。 - 岩田
- 「“カワイイ”の共感」ですか。
- 元倉
- はい。単純にデザインというよりは、
そこから受ける気持ちを整理して考えたほうが、
より共感につながると思ったんですね。 - 林田
- 元倉さんの「カワイイ話」は、
わたしは横でもう、何十回も聞きました(笑)。 - 元倉
- チームに入る人には、
一人ひとり全員にゲームのコンセプトと、
「カワイイってどういうことなんだろう?」
という話をするんです。
「カワイイ」とひとことで言っても、
人によって感じていることは
ぜんぜんちがうことだったりするので。 - 岩田
- まあ、日本文化における「カワイイ」は
概念としてすごくいろんな意味を
合わせ持った特別な言葉なわけですからね。 - 元倉
- そういう感覚をつなげて、
すりあわせていく感じです。 - 岩田
- ああ、そうか。「密度がすごい」という
言いかたをしましたけれど、
その一つひとつに共感して心が動かないと、
密度を感じられないわけですよね。 - 宮本
- ちょっと言いかたを変えると、
流行とか情報に左右されない、
「生理的に心地よい」ことを軸にしてるんですね。
それが世界中に『マリオ』が通じる原点ですから。 - 岩田
- たしかに『マリオ』のアクションそのものは、
ローカライズ不要でできてますからね。 - 宮本
- そうですね。
「さわったらダメなものは、
とんがってるか燃えてるかにしてくれ。
そしたらもうどんな画でもいい」って
言っていますから(笑)。 - 岩田
- さわったら「痛そう」「熱そう」って
生理的に感じるわけですね。
- 宮本
- そういう定義をわりと初期の段階で
デザイナーと共有してみんなが理解できたので、
そういう意味で、NGは少なかったんです。