ゲーム&ワリオ
1. 「もっと乱れろ」
2. 便利でズルい入れ物
3. エネルギーをかけた16種類のゲーム
4. “オールスター応援状態”
5. 『ゲーマー』
6. 『メイドインワリオ』シリーズの集大成
1. 「もっと乱れろ」
- 岩田
- 目の前に並んだ3人の顔を見ると、
「わたしは今日、何をさせられるんだろう?」って、
不安に思ってしまうんですが(笑)。 - 一同
- (笑)
- 阿部
- 『うつすメイドインワリオ』(※1)の時の
アレ(※2)のことですね(笑)。
『うつすメイドインワリオ』=2008年12月にニンテンドーDSiウェアとして配信がはじまった、うつす瞬間アトラクション。
アレ=『うつすメイドインワリオ』には、ゲームプレイ中のプレイヤーの表情が動画で録画される仕組みがあり、岩田のプレイ中の動画が「アレ」として公開された。くわしくは、社長が訊く『うつすメイドインワリオ』を参照。
- 岩田
- 今回は、何もさせられずにすむんですよね?
- 坂本
- そうですね、はい(笑)。
- 岩田
- 今日は『ゲーム&ワリオ』が完成し、
開発にかかわったみなさんから話をお訊きしますが、
それぞれ何を担当されたのかを教えてください。 - 坂本
- 企画開発部の坂本です。
『メイドインワリオ』シリーズ(※3)では
僕はご意見番的な感じでかかわることが多いんですけど、
今回も同じように、阿部さんの相談にのったり、
自分の意見を述べたりしていました。
『メイドインワリオ』シリーズ=シリーズ1作目は、ゲームボーイアドバンス用ソフトとして2003年3月に発売された、瞬間アクションゲームのシリーズ。これまでWiiウェアなども含めて8作が発売、配信されている。
- 阿部
- 企画開発部の阿部です。
僕は、ディレクション担当ということで、
全体の仕様を考えたり、
決めていったりしたのですが、
実際につくる部分のところでは、
横にいる森さんにお願いしながら、
開発を進めてきました。
- 森
- インテリジェントシステムズ(※4)の森です。
わたしはイズ(※5)側のディレクションを担当しました。
まず、阿部さんから「こんなゲームをつくりたい」
というお話を受けてから、それをイズで細かく詰めて、
実装していくようなことを主にしていました。
インテリジェントシステムズ=『ファイアーエムブレム』シリーズや『ペーパーマリオ』シリーズなどの任天堂ソフト、歴代ハードの開発支援ツールの開発をしている会社。
イズ=株式会社インテリジェントシステムズの通称。
- 岩田
- さて、ずいぶん前のことになりますが、
いちばん最初に阿部さんが
このプロジェクトを担当することになったとき、
どんな状態で引き受けることになったんですか? - 阿部
- 最初は「Wii U本体にゲームアプリを載せよう」
ということで動きはじめたプロジェクトだったんです。
途中から僕が担当になって、
Wii U GamePadを使って、どんな遊びができるのかを
まず自分ひとりで考えることになりました。 - 岩田
- 最初はひとりではじめて、
途中からイズさんといっしょに
開発を進めるようになったんですね。 - 阿部
- はい。なんとなく方向性が見えてきた段階で、
実際にものをつくって、自分で触ってみないと
おもしろさがわかりませんので、
開発をイズさんにお願いすることにしました。 - 岩田
- これまで『メイドインワリオ』シリーズで
勝手知ったるチームだから、ですよね? - 阿部
- そうですね(笑)。
- 岩田
- 森さんが最初に話を聞いたのは
いつくらいだったんですか? - 森
- 2年前の1月です。その時、
「Wii Uという新しいゲーム機には
こういう機能があります」
ということをはじめて教えていただいて、
そこからがスタートになりました。 - 岩田
- つまり、そこから2年くらい
つくりつづけていた、ということですよね。 - 森
- そうですね、はい。
- 岩田
- そもそも、開発のはじまりからいきなり
いまのかたちをめざしていたわけではありませんでしたね? - 阿部
- そうですね。もともとWii U本体の
本体内蔵ソフトとして企画がはじまりましたので、
『メイドインワリオ』シリーズとして考えていたわけではなかったんです。
時期的には、E3が控えていましたので、
「ショーに出して、みんなが手軽に遊べるものを」
ということでつくりはじめました。 - 岩田
- 2011年6月のE3(※6)ですね。
2011年6月のE3=Electronic Entertainment Expo(エレクトロニック エンターテインメント エキスポ)の略で、年に1度、米国のロサンゼルスで開催されるコンピューターゲーム関連の見本市のこと。2011年のE3では、世界ではじめてWii Uが公開された。
- 阿部
- はい。今回の『ゲーム&ワリオ』には
16種類のゲームが入っていますけど、
そのひとつ『パイレーツ』の原型になるものを、
『SHIELD POSE』というタイトルで出展しました。
「Wii U GamePadを盾のように構えて、
テレビ画面から飛んでくる矢を受ける」
というゲームです。 - 岩田
- その当時は、
どんなことを考えてつくっていたんですか?
- 阿部
- 本体に内蔵するゲームでしたから、
特定の人にウケるような
個性的なものにするのではなく、
あらゆる層の人たちに楽しんでもらうことが
前提になりました。
ただ自分はこれまで、『メイドインワリオ』のチームで
はっちゃけたことをずっとしてきましたけど、
今回はそれを抑え込まなきゃいけなくて・・・。 - 岩田
- 心のなかで、
ブレーキを踏まなきゃいけなかったんですね。 - 阿部
- はい。Wii Uに内蔵するゲームなので、
「新しい機能がわかりやすく伝わるようなものを
いかにきれいにまとめようか」と、
そんなことばかり考えてつくっていました。 - 岩田
- 森さん、行儀良くすることを求められているようで
窮屈ではありませんでしたか? - 森
- そうですね。だから・・・
「ちょっとマジメにやらなあかんかな」と(笑)。 - 岩田
- いつものテイストは抑えて、
「今回はマジメにやらないと」
ということですね(笑)。 - 坂本
- でも、これまでの『メイドインワリオ』も
じつはマジメにつくってきたんですけどね。 - 岩田
- そうですよね。『メイドインワリオ』シリーズは、
大マジメにヘンなことを、やっているんですよね。 - 森
- そうです、そうです(笑)。
でも、あの時はそれではたぶん、
ダメだったんです。 - 阿部
- そうですね。
だから、マニアックなネタとか、おもしろいネタでも、
特定の人にしかウケないようなことは
できるだけ排除しながらつくっていました。 - 岩田
- このプロジェクトの最初の構造が
やはりこのチームには
窮屈だったのかもしれませんね。 - 阿部
- そうですね。
- 岩田
- 坂本さん、傍(はた)から見ていて、
どう見えましたか? - 坂本
- 「この人たちにそんなソフトは向いてるのかなあ」と(笑)。
- 岩田
- 坂本さんが言うと説得力がありますねぇ(笑)。
- 坂本
- だから、自分としても気になっていましたし、
「困ってるんやろうな」と思っていたんですけど、
そのような枠組みのソフトに対しては、
自分も調子にのって
意見を言えないところもありまして。 - 岩田
- だから、心配しつつも、
ちょっと距離を置いて見ていたんですね。 - 坂本
- そうです。
その当時は、深くかかわっていなかったです。
阿部さんから「こういうゲームを考えています」
という話を聞いて、
「それはおもしろいんじゃないの」
という感想を述べたりはしていましたけど、
じつは心のなかでは、
「これ本当に、マジメにつくるのかなあ」と。 - 岩田
- ははは(笑)。
まるで他人事のように。 - 坂本
- 実際、そうだったんです。
- 森
- でも、坂本さんに
最初に『パイレーツ』の原型を触ってもらったとき、
「もっと乱れろ」と言っていましたよね? - 坂本
- え、そんなこと言った?
- 森
- はい(笑)。
- 一同
- (笑)
- 岩田
- やっぱり言っちゃうんだ(笑)。
- 坂本
- ・・・言ってたみたいですね(笑)。
古い話なので忘れてましたけど。 - 森
- でも、「ありがたいな」と思いました。
- 岩田
- 「待ってました!」みたいな感じですか?
- 森
- そうです、そうです。
「もうちょっとはっちゃけていいんだ」って(笑)。
- 岩田
- その時、「誰か、自分の背中を押してくれ」
と、みんなが思っていたのかもしれませんね。