『XenobladeX(ゼノブレイドクロス)』
1. 「星をひとつ、丸ごとつくる」]
2. 小説のようなプロット
3. ゆるくつながるネットワーク
4. 声もかれるほどに
5. 車を買うような感覚でドールを
6. タイトルに込められた想い
7. “豊かなゲーム”
1. 「星をひとつ、丸ごとつくる」
- 岩田
- 長い時間をかけて、
ようやくここまできましたね。 - 高橋
- はい。ずいぶんお待たせしました。
- 岩田
- 前作の『ゼノブレイド』(※1)で、
あれだけのことをやりきったわけですから、
次作への期待はどうしても高まりますからね。
ただ、時間と予算は無限にあるわけではありませんし、
そんな制約があるなかで、お客さんたちに
「なるほど」と言われるものを
つくろうとするチャレンジだったわけですよね。
前作の『ゼノブレイド』=2010年6月に、Wii用ソフトとして発売されたRPG。2015年4月2日には、Newニンテンドー3DS専用ソフトとして発売された(ニンテンドー3DS/3DS LLでは、遊ぶことができません)。
- 高橋
- そうですね。
- 岩田
- 前作のときは、「背水の陣でつくった」(※2)
という話をされていましたけど、
今回の『ゼノブレイドクロス』(※3)では
ゲームをまとめるうえで、何を大事にしていたのか、
どうやって密度の濃い、豊かな世界ができていったのか、
というお話を、お訊きできればと思います。
「背水の陣でつくった」=「社長が訊く Newニンテンドー3DS専用『ゼノブレイド』」より。『ゼノブレイド』を制作した経緯を、高橋哲哉さんから「背水の陣」と語られている。
『ゼノブレイドクロス』=『XenobladeX(ゼノブレイドクロス)』。2015年4月29日にWii U用ソフトとして発売される、モノリスソフトの最新作RPG。
- 高橋
- はい。
- 岩田
- まず最初に、みなさんから自己紹介をお願いします。
- 高橋
- 『ゼノブレイドクロス』の総監督をやりました、
モノリスソフト(※4)の高橋です。
モノリスソフト=株式会社モノリスソフト。1999年に設立されたゲームソフト制作会社。『ゼノサーガ』シリーズや『バテン・カイトス』シリーズ(ニンテンドー ゲームキューブ)のほか、『ディザスター デイ オブ クライシス』(Wii)や『ソーマブリンガー』(ニンテンドーDS)なども開発。本社は東京・目黒区。
- 竹田
- シナリオライターの竹田裕一郎(※5)です。
前作の『ゼノブレイド』でも、脚本を担当しました。
竹田裕一郎さん=『勇者王ガオガイガー』シリーズをはじめ、『星界の戦旗』『ジパング』『F-ZERO ファルコン伝説』『SDガンダムフォース』など、多数のアニメーション作品を手がける脚本家。ゲームでは『XenobladeX(ゼノブレイドクロス)』の前作にあたる『ゼノブレイド』(Wii/ニンテンドー3DS)や『ゼノサーガ I・II』(ニンテンドーDS)の脚本も担当。過去、社長が訊く『ゼノブレイド』シナリオ 篇に登場。
- 兵頭
- わたしは「はじめまして」、
ということになるんですけど、
脚本を担当しました兵頭一歩(※6)と申します。
兵頭一歩さん=『機動戦士ガンダムSEED DESTINY』『機動戦士ガンダムAGE』『THE UNLIMITED 兵部京介』『ロボットガールズZ』など、多数のアニメーション作品を手がける脚本家。また、『這いよれ! ニャル子さん』『とある飛空士への恋歌』などのライトノベル原作のアニメ脚本も手がける。
- 岩田
- 兵頭さんは竹田さんとは以前から・・・?
- 兵頭
- はい。かなり昔からの知り合いで、
今回は竹田さんに誘っていただいて
脚本のお手伝いをしました。 - 岩田
- 竹田さんがこの仕事に巻き込んだんですね(笑)。
- 竹田
- はい、そうです(笑)。
- 小島
- モノリスソフトのディレクターの小島です。
- 岩田
- 小島さんとは5年ぶりくらいですか?
- 小島
- はい、5年ぶり(※7)です。
5年ぶり=小島幸さんは、前作『ゼノブレイド』から引き続きディレクターを担当し、「社長が訊く」では、2010年5月に掲載された社長が訊く『ゼノブレイド』開発スタッフ 篇以来の登場となる。
- 横田
- 任天堂側のディレクターを担当しました
企画開発部の横田です。
- 岩田
- さて、前作が出たとき、
「最近のJRPG(※8)のなかでは突出した存在だ」
という高い評価をいただきつつも、
とても多くの人たちに遊んでいただけたとは
まだまだ言えないようなところもあったのですが、
それでも、多くの人から気になる存在として
認めてもらえるようなものになったと思うんです。
そうなると、次作への期待のハードルが
いやでも上がるわけですが、
その期待にどう応えるか、というところで、
長い間、奮闘されてきたんだと思います。
JRPG=日本産のRPG(ロールプレイングゲーム)のこと。コマンド式の戦闘スタイルなどが特徴で、主に海外でゲームジャンルの呼称として使われている。
- 高橋
- そうですね。
- 岩田
- まず、『ゼノブレイドクロス』をつくるにあたって
最初に何を決めようとしたのですか? - 高橋
- そもそもロールプレイングで大事なのは
舞台装置だと、ずっと思っているんです。 - 岩田
- 前作の『ゼノブレイド』のときは
“巨神(きょしん)”と“機神(きしん)”の
フィールド(※9)を舞台にする、ということを、
まず最初に決めて、つくりはじめたわけですよね。
“巨神(きょしん)”と“機神(きしん)”のフィールド=前作『ゼノブレイド』の冒険の舞台。巨神と機神の巨大な二柱の神がすべてをかけて戦い、その骸(むくろ)が広大な冒険フィールドを形成している。前作『ゼノブレイド』についてくわしくは、社長が訊く『ゼノブレイド』シナリオ 篇を参照。
- 高橋
- はい。
で、そのときは、巨神と機神のフィールドを
一本につなげたかったんです、本当は。 - 岩田
- 遊んでいると、つながっているように感じましたけど、
実際にはつながっていなかったんですよね。 - 高橋
- ええ。マップのつながりかたなどを工夫して、
一見つながってるように見えていただけなんです。
そこで今回は、その舞台装置を
「さらにもう一段階、上に進めなきゃいけない」
という気持ちがありましたので、
まずはそこですね、いちばん最初に決めたのは。
そこで、完全なかたちでオープンワールド(※10)の
舞台装置をつくって、そのなかで遊んでもらう、
ということを最初の柱として決めました。
オープンワールド=英語におけるコンピューターゲーム用語で、舞台となる広大な世界を自由に動き回って探索・攻略できるように設計されたゲームデザインを指し、数kmから数十km四方の広さを、マップの切り替えやデータロードに伴う画面の停止や暗転をさせずにシームレスに表現できるのが特徴。
- 岩田
- 今度は、完全なかたちでの
オープンワールドになるんですね。 - 高橋
- そうです。
- 岩田
- それにしても、映像を見ただけでも
とてつもなく広いですよね(笑)。 - 高橋
- はい。とてつもなく広いです(笑)。
そもそも、このプロジェクトをはじめたときは
「星をひとつ、丸ごとつくろう」
と、みんなで話していたくらいですから。 - 岩田
- 「星をひとつ、丸ごと」ですか・・・?
時間が長くかかるわけですよね(笑)。 - 高橋
- そうですね(笑)。
実際は、現実的な工数でつくれる
約400km²の5大陸に絞って制作しました。 - 岩田
- そのように、
オープンワールドの舞台装置をつくるという柱が
まず最初に決まって、
それをどのように実現するのかは、
ディレクターの小島さんの役割になるんですよね。 - 小島
- はい。
- 岩田
- そもそも、オープンワールドをつくることは、
そうじゃない普通のロールプレイングをつくるのと比べて
どのような違いがあるんですか?
- 小島
- つくるものが、とにかく多いんです。
- 岩田
- オープンワールドというのは
広大なフィールドを自由に行き来できるわけですから、
あらゆる場所にいろんなものをつくる必要があるわけですね。 - 小島
- そうなんです。
一般的にロールプレイングをつくるときは
時間やメモリーなどのリソースが限られてますから、
お客さんの意識が向くほうに・・・悪く言えば誘導して、
そこの場所だけをつくり込むというのが王道なんです。 - 岩田
- つまり、悪い言いかたをすると・・・
ある場所だけをしっかりつくり込みをして、
そこにお客さんを誘導するようにすれば、
その世界全体が、ものすごい密度があるように
感じてもらえるわけですね。 - 小島
- そうなんです。でも今回は
愚直に世界を全部つくったという感じなんです。
じつは『ゼノブレイド』をつくったときも
画面に映った、すべての場所に
行けるようにしたかったのですが、
どうしても行けない場所もありました。 - 岩田
- 遠くのほうを眺めたときに
「あそこには何があるんだろう」と思っても、
行けない場所があったんですね。 - 小島
- はい。でも、今回の『ゼノブレイドクロス』では、
そういうことは一切ないんです。 - 岩田
- 画面に映っていれば
どこでも行けるようになっていると。 - 小島
- はい。なおかつ、せっかく行ったのに
その場所の熱量が薄いとがっかりするので、
あらゆるところに濃いものを入れてあります。 - 岩田
- つまり、行くだけの価値のある場所を
この世界のすべてにつくったんですね。 - 小島
- そうです。そこは本当に愚直につくり込んであるので
お客さんには楽しんでいただけると思うんですけど、
つくる側の立場から言うと、
すごくたくさんの試行錯誤がありました。 - 岩田
- “遊ぶは天国、つくるは地獄”だったんですね。
- 小島
- そのとおりです。はい。
- 高橋
- それに、いくら愚直につくり込んでも、
たとえば、ストーリーで
A地点からB地点に行く必要が生じたとき、
プレイヤーがその間にある世界を素通りしてしまえば、
つくったものがまったくの無駄になってしまうんです。 - 岩田
- 地獄の苦しみを味わいながらつくったのに、
そこに寄り道をして、見てもらえないのは、
すごく残念ですよね。 - 高橋
- ええ。でも、最初にオープンワールドの
舞台装置をつくると決めたときから、
その問題は避けて通れないと思いました。
そこで、まず最初に考えたのは、
A地点からB地点に行く途中に
“開拓”の要素を入れようと。
そこで情報や資源を得られるようにしまして・・・。 - 岩田
- 今回の舞台は、未知の惑星ですから、
まさに“開拓”するのがふさわしいですね。 - 高橋
- はい。そういう“開拓”の要素を入れることで、
目的地のB地点に行く間に、いろんなものに
自然に触れられるようになると思いました。 - 岩田
- いまの話を聞くと、
「ああ、なるほど」で終わるんですけど、
そういう命題は簡単に解けるものなんですか? - 高橋
- キッカケは些細なことだったと思います。
あるとき小島が、「広いエリアをどうしますか?」
と聞いてきたんです。 - 小島
- オープンワールドにすると
目的の場所がわかりにくくなりますので
「どうしましょうか?」と聞いたんです。 - 高橋
- そこで僕は、
「フィールドを六角形で分けちゃえば?」と。 - 小島
- そうでしたね。
- 高橋
- その六角形のエリアは蜂の巣状になっていて、
「セグメント」(※11)と呼んでいるんですけど、
「それぞれのセグメントにさまざまなものを置いて
プレイヤーがアクセスするようにすれば、
目的の場所とかがわかるでしょう」
という話を小島にしたんです。
たぶん、それがキッカケだったと思います。
「セグメント」=『XenobladeX』で探索するフィールドは「セグメント」と呼ばれる六角形の地域で仕切られWii U GamePadに表示される。各「セグメント」に表示されたアイコンからその地域に設けられた任務を確認でき、任務を達成していくことで広大なフィールドをくまなく探索することができる。「セグメント」についてくわしくは、公式サイトを参照。
- 岩田
- もともと人間はマスを埋めるのが好きですから、
すごく理にかなった仕組みになりましたね。 - 高橋
- そうですね。
- 岩田
- でも、小島さんに聞かれたことを、
高橋さんが条件反射的に
パッと答えたことがキッカケになって、
その先の道がパーッと開けていったんですか? - 高橋
- そうだったと思います。
そこで、それぞれのセグメントに
クエストなどのそれぞれの遊びを積み上げていって
いまのかたちになりました。 - 岩田
- 簡単に「積み上げて」と言いましたけど、
実際につくる側の小島さんは
大変だったんでしょうね。 - 小島
- はい、大変でした(笑)。
- 岩田
- わたしは、これまでに公開された
『ゼノブレイドクロス』の映像を見ただけでも
「なんだ、この密度は!」という驚きがあって、
その“豊かさ”に圧倒されてしまったんですけど、
スタッフみんなが最後まで走りきることができたのは、
何がポイントだったんですか? - 小島
- そこはもう、
スタッフそれぞれの気力だけです。 - 岩田
- ああ・・・。
- 小島
- スタッフみんなが最後まで
倒れないでやれた、というだけです。 - 岩田
- 気合いと根性で、あの“豊かさ”を
つくりあげたんですね。 - 小島
- そうです。もう気合いと根性の世界です。
もともとモノリスソフトには
「やると決めたら、やりきる」
というタイプのスタッフが多いんです。
なおかつすごくマジメで、
たとえ一か所でもウソをつくことが許せません。 - 岩田
- ごまかしたり、手抜きすることを
すごく嫌うんですね。 - 小島
- 「やるんだったら、全部やる」、
「はじめたからには、やりきる」と、
そのように考えるスタッフが多いんです。 - 岩田
- それって、わたしの想像以上に正攻法なんですね。
でも、そのようにつくられたものだから、
直接見えないところでも
人に伝わる部分が何かありそうな気がしますね。 - 小島
- そうですね。
何か伝わるものがあると思います。
ゲームを触っていただくと、
きっとそれがわかっていただけると思います。