『ゼルダの伝説 風のタクト HD』
1. “ネコ目リンク”はいかに生まれたか
2. ゼルダ・サイクル
3. 「序盤は神。だけど後半は・・・」
4. 考古学
5. オーバースペック
6. まっすぐなエンターテインメント
2. ゼルダ・サイクル
- 岩田
- 大々的に発表されたネコ目リンクに対して、
ファンの間では賛否両論の議論が
発売まで続いていた印象があるのですが、
発売されたあとの反応としては、
つくり手としてどんな印象を持っていましたか? - 青沼
- 当時はいまのようにネットの反響が
直接見られる環境があまりなかったんですが、
発売後もやっぱりあの画のタッチの
好き嫌いがまずありきで、そこを超えて
自分たちの届けたい『ゼルダ』が
ちゃんと届けられたかというと、
そこまで到達できなかった印象がありました。
これは、いろんな人から話を聞いたうえで、
僕がなんとなく思っているところではありますが。 - 岩田
- まず「画の好き嫌い」で分かれてしまった印象ですか?
- 青沼
- そうですね。これは数年前の話なんですけど
ある日うちの妻から
「友達から、ゲームキューブの『風のタクト』が
すごく画がきれいって聞いたんだけど、
家にあったらやってみたい」
って言われたんです。 - 岩田
- へえ、ちょっと出来過ぎた話ですけど(笑)、
青沼さんが『風のタクト』をつくっていたことを
奥さんは知ってたんですか? - 青沼
- 僕がつくったことは知っていましたけど、
『風のタクト』を発売した当時は、
あまり興味はなかったみたいなんですね。 - 岩田
- 奥さんは普段からゲームをする方だったんですか?
- 青沼
- 『トワイライトプリンセス』(※11)あたりから
僕のつくったゲームは遊ぶようになりましたが、
その前は子供が小さかったこともあって、
あまりゲームは遊んでなかったんです。
『トワイライトプリンセス』=『ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス』。Wiiおよびゲームキューブ用ソフトとして、2006年12月に発売。『時のオカリナ』から引き継がれて進化した頭身の高いリアルな3Dグラフィックが特徴。Wii版ではWiiリモコンを使った直感的な操作が可能。
- 岩田
- 滝澤さんは、どんな印象でした?
- 滝澤
- 僕も青沼さんと似た話になっちゃうんですけど、
うちの妻はまったくゲームをしない人なんですね。
その妻が、当時流れたCMを見て「おもしろそう」って
言ってくれたんですよ。そして、
「でもわたしはゲームができないから、残念」
っていうことを、はじめて言ったんですね。 - 岩田
- あぁ、あの画から
伝わるものがあったんですね。 - 滝澤
- そうだと思います。普段ゲームをしない人に
「遊びたい」と思われる画づくりが
できたわけで、そこは素直にうれしかったです。 - 青沼
- たぶん当時はまだ「ゲームはむずかしい」という
イメージがあったんですよね。
コントローラーにどんどんボタンが増えていったし。 - 岩田
- あの頃が、いちばんそのイメージが
高まった時期だったかもしれませんね。
より豪華に、よりリアルに、という路線に
多くの人が興奮していた時代でしたから、
どうやったらゲームを遊ぶ人たちの
人口を拡げていけるのか、
ゲーム業界としてまだ提案がなかった時代でした。
『風のタクト』はそんな時代に
発売された商品でしたから。
- 青沼・滝澤
- そうですね。
- 岩田
- わたしもやっぱり、あの頃を思い出すと、
「こんなにキャラクターが表情ゆたかに動いて
アニメを自分で操作しているみたいですごい」
と言って喜んでくださる方と、
「キャラクターをこんなにかわいくしたら
子供向けになってしまうじゃないか」
という抵抗感を持たれた方との
真っ二つに割れていた気がしているんです。 - 青沼
- そうですね。ある意味きれいに分かれていました。
- 岩田
- ところがその後、年月が経っていくと、
「ネコ目リンク=子供っぽい」という見方が薄れ、
「わたしはネコ目リンクが好き」という人が
市民権を得てきた感じがするんですね。
ちょっと、言い過ぎですか?(笑) - 青沼
- いや、それはありますね。
- 岩田
- 実際『風のタクト』の世界の表現をつぶさに見ると、
「よくぞここまで・・・!」とおどろくほど
アニメ調の世界ならではのリアリティーが追求されて
多くの発明が盛り込まれていますよね。
でもそれは、わたしが任天堂の社長で、
「魅力をわかろう」として見ているから
それに気づくわけで(笑)。 - 青沼
- まず「さわるのに抵抗がある」というところで
はっきり分かれていたんですよね。 - 岩田
- でもそこが最近は、変わってきたと思うんです。
- 青沼
- “ゼルダ・サイクル”というのがあるんですよね。
- 岩田
- はい。ゼルダ・サイクルというのは、
『ゼルダ』の海外版移植で毎回活躍される
NOAのビル・トリネン(※12)さんが
言っている言葉なんですけれど。
NOAのビル・トリネン=Nintendo of America(任天堂のアメリカ現地法人)のプロダクト・マーケティングディレクター。
- 青沼
- 「『ゼルダ』は時が経つほど、
ネガティブな意見がポジティブに変わる」と。
僕も最初は「ほんとかな?」って
思っていたんですけれども
『風のタクト HD』の反響を見ていると
「合っているのかもしれない」と思いましたね。
- 岩田
- しかも『風のタクト』に限らないんですよね。
『ゼルダ』は新作が発売されるたびに
ネガティブな意見も少なくないのですが、
1、2年経つとその意見を見直す声が増えて、
評価が高まっていくというのが、
ビルさんの分析なんだそうです。 - 青沼
- 北米のファンの『風のタクト』の反応が
まさにそうみたいなんですよね。
2001年のオリジナル版の発表当初は
反対意見が大多数を占めていたはずなんですが、
はじめてWii U版の情報を公開した
1月のニンテンドーダイレクト(※13)での反応はすごくよかったですし、
今年のE3(※14)と同時に行われたベスト・バイの体験会(※15)では、
1台しかない『風のタクト HD』の試遊台を
「どうしても遊びたい」と言って
並んでくださった方が多かった、と聞いています。
1月のニンテンドーダイレクト=2013年1月23日に放映された「Wii U Direct Nintendo Games 2013.1.23」のこと。この時はじめて『ゼルダの伝説 風のタクト HD』の情報が公開された。
E3=Electronic Entertainment Expo(エレクトロニック エンターテインメント エキスポ)の略で、年に1度、米国のロサンゼルスで開催されるコンピューターゲーム関連の見本市。2013年のE3は6月11日から13日までの3日間開催。2013年は、任天堂は通例となっていたプレスカンファレンスを取りやめ、各地域向けの「ニンテンドーダイレクト」や、ショウ開幕直前の「ソフトウェアショウケース」などに重点を置いて展開した。
ベスト・バイの体験会=E3と同じ期間中、アメリカ・カナダのショップ「Best Buy」の110店舗の店頭で開催された試遊会。『ゼルダの伝説 風のタクト HD』をはじめ、『マリオカート8』などのWii Uの未発売新作ソフトを体験プレイすることができた。
- 岩田
- そこに、あえて呪縛のように言いますけど、
ゲームキューブはハードを
最大限に普及させることができなかった。
だから「おもしろそう」とは思ってもらえても、
ハードを買わずに様子見していた方も
かなりいらっしゃったと思うんです。 - 青沼
- あと言えるのは、『ゼルダ』は
『風のタクト』でいろんなものを
ひっくり返してるわけですけど、
じつはこのあともまた
ひっくり返し続けているわけですよね。
『風のタクト』から『トワイライトプリンセス』で
シリアスで写実的な路線になったあと、
『スカイウォードソード』では
ハーフ・トゥーンの絵画調にしましたし。
新作が出るたび、変わり続けているんです。 - 岩田
- そういう意味では、わたしは最近『風のタクト』を
評価いただける論調が高まってきた背景には、
『トワイライトプリンセス』も
『スカイウォードソード』も見たうえで、
「『風のタクト』ならではの魅力がたしかにあった」と
実感されている方が増えたのではないかと思っています。 - 青沼
- そうかもしれません。
- 岩田
- ネコ目リンク自体もその後
携帯機で定着しているわけですから、
あのキャラクターをいとおしく思う人も、
だんだん増えているわけで。 - 岩本
- 僕が『夢幻の砂時計』をつくったときは、
「なんだ、ネコ目リンクか」という声も
たしかにあったんですけど、『大地の汽笛』(※16)では
それがすっかりなくなった感はありますね。
『大地の汽笛』=『ゼルダの伝説 大地の汽笛』。2009年12月に、ニンテンドーDS用ソフトとして発売。『ゼルダの伝説 夢幻の砂時計』に引き続き、ネコ目リンクが採用されている。
- 青沼
- DSで『ゼルダ』をつくっていく過程で、
「見た目は変わっても、やっぱり『ゼルダ』だ」
というのがわかってもらえたところが
あると思うんですね。 - 岩田
- あとさすがに11年も経つと、
あらためて新鮮な感覚で受け止めてもらえる
十分すぎる期間ではありますよね。
2年前の長編ゲームを「リメイクしました」と言われても
いくらおもしろくてもよほどのことがない限り
また遊ぶ気にはなれないと思うんですが、
11年経っていると、0とは言わないまでも
新たな気持ちで楽しめるわけで。 - 青沼
- そうですね、そういう意味では、
ゲームをあらためてプレイすると、
つくった僕らもけっこう忘れてるんです。
「あれ、こんなだったっけ?」って言いながら、
遊ぶ側のような感覚になるというか。 - 岩田
- 謎解きでつまったりするんですよね。
自分でつくったゲームなのに(笑)。 - 滝澤
- そうなんです。だからいつもそばに
攻略本が置いてありましたね。
開発者が攻略本を見ながら、
つくったゲームをプレイするという・・・。 - 一同
- (笑)