『ゼルダの伝説 風のタクト HD』
1. “ネコ目リンク”はいかに生まれたか
2. ゼルダ・サイクル
3. 「序盤は神。だけど後半は・・・」
4. 考古学
5. オーバースペック
6. まっすぐなエンターテインメント
3. 「序盤は神。だけど後半は・・・」
- 岩田
- ゲームの中身についてお訊きしたいんですが、
あの個性ゆたかなキャラクターや
海を舞台にした世界というのは、
どのように生まれていったんですか? - 青沼
- まず「海を舞台にしよう」という話は、
わりと早い段階で、ほぼ迷いなく決まりました。
ゲームのシステム的に海の構造を使った
世界の仕掛けができることと、
何よりあの画のタッチで海を表現すれば
おもしろいものができると考えたんですね。
「じゃあ、そこに浮かぶ島々はどんなもので、
そこに暮らしている人たちはどんな人たちか」
と、みんなが想像をどんどんふくらませていく
流れがうまくできていた気がします。 - 岩田
- 『風のタクト』は『ゼルダ』の中でもとくに
見たことがない
個性的な人たちが
たくさん出てきますよね。
- 滝澤
- あれは当時、プランニングスタッフと、
春花さんをはじめとするキャラクター制作チームとの
“かぶせ合い”がすごかった記憶はありますね。
- 青沼
- 春花さんは『時のオカリナ』の時から、
ちょっとアクの強いキャラクターを、
どんどん提案してくる感じだったんですけど、
『風のタクト』ではよりパワーアップして、
リミッターが外れたかのような感じで(笑)。 - 岩田
- なんか、そのアクの成分が煮詰まって、
濃密になったものが『風のタクト』の世界全体を構築し、
醸し出している気がするんです。 - 有本
- それはやっぱり、あの画の力ですよね。
アニメ的なデフォルメになったことで、
どんなに頭がでかくても、足が短くても
違和感が出るどころか「印象的でいいよね」って
許せてしまう力があるというか。 - 青沼
- そうですね。
キャラクターが本当に表情ゆたかで。 - 岩田
- そう、表情がとにかく豊富で印象的なんです。
実際のところリアルを目指すほどに、
表情を見せるということに関しては
現実との違和感が出てしまうものなんですけど、
あの画なら、それを気にせずに、
いろんな表情やしぐさが表現できますしね。 - 青沼
- そうですね。『時のオカリナ』までは、
たとえば口の動きひとつにしても
表現としてむずかしい部分があったので、
そこは『風のタクト』ではかなりこだわっています。 - 滝澤
- せっかくあそこまで目が大きくなったんだから、
目や口の動きのパターンを増やして
表情ゆたかに見せたかったんですよね。
途中「目からビームを出したら?」なんて
話までありましたけれど(笑)。 - 岩田
- えっ、「目からビーム」ですか!?
- 滝澤
- 宮本(茂)さんや手塚(卓志)(※17)さんに、
「だからこんなに目が大きかったのか、と
ゲームの中で納得する要素がほしい」
と言われたんですね。
さすがにビームはないと思いますけれど。
手塚卓志=情報開発本部 制作部 統括。『スーパーマリオ』シリーズや『ヨッシー』シリーズ、『どうぶつの森』シリーズなど、数多くのゲーム開発にかかわる。過去、社長が訊く『New スーパールイージ U』、社長が訊く「スーパーマリオ25周年」『スーパーマリオ』生みの親たち 篇、社長が訊く『ゼルダの伝説 大地の汽笛』携帯機ゼルダの歴史 篇、社長が訊く『New スーパーマリオブラザーズ Wii』その2、社長が訊く『スーパーマリオ 3Dランド』プロデューサー 篇、E3 2012 特別 篇 社長が訊く『New スーパーマリオブラザーズ U』、E3 2012 特別 篇 社長が訊く『New スーパーマリオブラザーズ 2』に登場。
- 有本
- それで、止まっていると
キョロキョロあちこち見るようにして
目を動かすようにして。 - 青沼
- そう、そう。
「リンクの目線がヒントになる」というのは、
そこから生まれたアイデアなんです。
あとから『時のオカリナ 3D』などでも採用していますが、
最初に入ったのは『風のタクト』からなんです。 - 岩田
- あれは、そんなきっかけがあったんですね。
- 青沼
- それまでの『ゼルダ』では、
自分がリンクになりきって遊んでもらおうと
意識して抑えていた部分があったんですね。
そこが『風のタクト』では、
リンクというキャラクターを自分で操作しつつも、
客観的に見て、インタラクティブに楽しむ感覚に
変わっているところはありますね。
感情移入のしかたがそれまでの『ゼルダ』とは
ちょっとちがっていて、じわじわと
一緒に過ごすほど愛着がわいてくるんです。 - 岩田
- まさに、当時のキャッチコピーにあった
「さわれるアニメーション」ですよね。
開発がはじまってからは、迷いなく
最後まで一直線に走りきった感じでしたか? - 青沼
- 「まったく新しい『ゼルダ』をつくりたい」
という思いに、迷いはありませんでした。
ただもちろん、発表した際の
ネガティブな反応も認識していましたし、
不安に思うことはありました。
でも発表したからには、中途半端に恐れながら
やることがいちばんよくないわけで、
「とことんやって、認めてもらおう」と
覚悟して突き進んでいった気がします。 - 岩田
- 岩本さんは『風のタクト』の開発当時、
その様子を外からどんなふうに見ていました? - 岩本
- 僕はそれほど間近で見てはいないんですが、
実際にゲームを買ってプレイして、
アニメーションがすごく生き生きしていて、
本当におどろきました。
ただ画以外のところでは、
気になるところがいくつかあったので・・・。 - 青沼
- 岩本さんからはけっこう
厳しい意見を言われましたね。
でも、そんなふうにちゃんと見てくれる人なので、
今回ディレクターをお願いしたんです。 - 岩田
- そこに関してちょっと踏み込んで言うと、
当時『風のタクト』は
「序盤は神。だけど後半は根気がないとしんどい」
というような話を言われていましたよね。
もちろん、あの世界はすごく居心地がいいし、
「最後まで楽しめました」と言ってくださる方も
多くいらっしゃいますが、
あの言葉は当時『風のタクト』を遊んだ方の
代表的な評価を言い表していると思うんです。 - 岩本
- 自分は完全にお客さん目線なので、
さわっていて「惜しいなぁ~」と思ったり、
「これができればもっといいのに」という点が
気がつきやすかったんですね。
それに今回、あらためてゲームをプレイし直して
「いま風にするならここは変えるべきだ」
というところもいくつかあって。
- 岩田
- まあ、時代が変わっているという
ところもありますよね。 - 岩本
- そうですね。ですから今回は
そういった点をリストアップしたり、
つくったスタッフたちの意見を聞いて、
最終的に調整する項目を決めていきました。 - 青沼
- そうやって直してみると、
やっぱり劇的によくなるわけです。
「なんであの時、こうしなかったんだ?」
と思うくらい変わるところもあって。 - 岩田
- 宮本さんがよく
「ゲームは2度つくるとよくなる」って
言っていますけど、その言葉を
かみしめるような話ですね。
まあ「普通は2度つくれないんですよ」って
わたしは言うんですけど(笑)。 - 青沼
- 本当にそうです。
- 岩本
- 2度つくるところまで行かなくても、
最後ゴールにかけこむときに、
振り返る余裕があれば、
気がついたこともあると思うんですけどね。 - 青沼
- わかります・・・!
いや、それはそのとおりなんだけど、
走っている状態で振り返ることって
ある意味で絶対不可能だとも、思うんです。 - 岩本
- それもわかります(笑)。
- 岩田
- もちろん、あのときベストを
尽くしてないとはまったく思っていませんし、
実際、スタッフの情念ともいえる
おびただしいエネルギーとアイデアが
注ぎ込まれている作品だとやっぱり思いますよ。
そうでなければ今回HDに
リメイクしようという話も出ないわけで。 - 青沼
- そこはやっぱり、
11年経ったからはじめて
振り返れることでもあるんですよね。 - 滝澤
- こんなふうに冷静な目で
もう一回つくり直せる機会って、
普通はないですからね。 - 一同
- (声をそろえて)ないですね。
- 岩田
- 今回は「それができた」っていうことですね。
- 青沼
- その「前半が神で、後半が・・・」っていうことも、
ずーっと「痛いなぁ」と思いながら、
生きてきてるじゃないですか。
だからたとえば5年前だったら、機会があっても
まだやる気にはなれなかったかもしれないです。