『ゼルダの伝説 風のタクト HD』
1. “ネコ目リンク”はいかに生まれたか
2. ゼルダ・サイクル
3. 「序盤は神。だけど後半は・・・」
4. 考古学
5. オーバースペック
6. まっすぐなエンターテインメント
5. オーバースペック
- 岩田
- 今回は「しくみで画を一新する」という
ちょっと変わった取り組みによって
『風のタクト HD』が生まれたことがわかりました。
かなり異例とは思いますけれど、
そういうつくりかたをすることで
いつもとちがうことが見えてきますよね。 - 堂田
- 今回のやりかたですと、
データをつくっていたデザイナーさんですら、
初見の想像ができないんですね。
しくみのほうで画をごっそり入れ替えるわけで
デザイナーさんがはじめてその画を見て
「おお!?」ということが、
けっこうあったんじゃないかと。
(有本さんに向かって)ありました? - 有本
- そうですね。
「いつの間にかできてるぞ」みたいな・・・。 - 一同
- (笑)
- 有本
- つくった覚えがないのに現れてくるのは、
ちょっと新鮮な感じでしたね。 - 滝澤
- 堂田さんがなかなかいじわるで
「これは気づくまい」っていう、
ブラッシュアップを
誰にも言わずに仕込んでくるんですよ。
で、誰かがそれに気づいて
つっこんでくるまで黙ってるんですけど、
デザイナーとしては
目が節穴だと思われるのは悔しいですから(笑)、
堂田さんに種明かしされる前に
「ああ、この間入ったアレ、ええなあ」と指摘したい!
という、静かな戦いを楽しんだりもしてましたね。 - 堂田
- 見破られたらそれはそれで
ちょっとうれしくなりますね(笑)。 - 滝澤
- 開発後半、
クオリティーの上がっていきかたが、
尋常じゃなかったんですよ。
半日単位で変わっていく勢いといいますか。 - 岩本
- 最初は心配でしたもんね。大丈夫かなあ、と。
- 青沼
- 当然「そんな短い期間じゃできないんじゃないか」
ってことを、言われるわけですよ(笑)。
フタを開けてみたらいろいろ出てきたわけで。 - 岩本
- でもさきほどの堂田さんの話にもあったとおり、
今回のやりかただと僕らでは完成型がわからなくて
信じるしかないんですよね。
「これでどう変わるんだろう?」っていうのを
ふたりで見守る感じで・・・。 - 青沼
- そうそう。
「ここまでできてるのに、
何がそんなにまずいの?」って。 - 岩本
- 「いや、ぜんぜんダメなんです」とか言われて。
- 堂田
- だって、滝が逆に流れていたらダメでしょう?
- 一同
- (笑)
- 岩田
- まさか、お客さんとして楽しんだゲームを
その11年後に自分がデータを解析して
つくり直すなんて、堂田さんは
想像もしていなかったことですよね。 - 堂田
- そうですね(笑)。
- 岩田
- 遊ぶほうとつくるほう、両方を経験したことで、
何か感じたことはありました?
- 堂田
- そういう意味では、
「もともと『風のタクト』がやりたかったことは
SD解像度(※20)の枠では収まりきらなかったのかな」
ということを感じました。
HDにすることで色数が増え解像度が上がり、
アニメーションの繊細さとか、
それこそキャラクターの目の動きとか、
そういったところがより生き生きしてくることが
つくりながら対比としてわかったんです。
SD解像度=HD画質のテレビが普及する以前のアナログテレビ放送の画質。
- 岩田
- ああ、前はきっと、
容れ物に収まりきらないものを詰め込んでいて、
その時のデータとプログラムを、
いまの容れ物に移し替える作業をしたことで
「あっ、本当はこうしたかったんだ」
と、見えてきたわけですね。 - 堂田
- そうですね。それはすごく、ありました。
- 青沼
- 僕も、今回の『風のタクト HD』を見て思うのは、
「オリジナルの『風のタクト』で自分たちは、
当時のゲームキューブの表現力を超えるものを
つくろうとしていたんじゃないか」
ということなんです。 - 岩田
- 新しい容れ物に入れ替えたことで、
それが前よりずっと魅力的に見える手ごたえがあるとしたら、
その時に注ぎ込んだものは、
きっとオーバースペックだったんですよ。 - 青沼・滝澤
- そうですね。
- 岩田
- 当時の容れ物ではアウトプットしきれなかった
エネルギーとクリエイティブが、
入っていたっていうことですよね。 - 青沼
- だから、僕がバッファも考えずに、
「短期間で仕上げるからつくらせてくれ」と強く推したのは、
滝澤さんから見せられたテスト映像の中に
昔、本当につくりたかった世界が、
まぎれもなく広がっていたからなんですね。
「これだ!」ってものを見たからには、
つくり手として「やらない」という
選択肢はないじゃないですか。 - 岩田
- しかも、時代もそれを受け入れてくれる
環境になっているわけで。 - 青沼
- そうです。
- 滝澤
- あの、僕は沖縄や南の島がすごく好きで
よく行くんですけど・・・。 - 岩田
- その日焼けを見ればわかりますよ(笑)。
- 一同
- (笑)
- 滝澤
- 南の島にいるときの
自分の気持ちいい感覚を思い描いて
最初のテスト映像をつくったところに、
世界の説得力が出せたのかなと思っています。 - 岩田
- 「感覚としての居心地のよさ」なんですよね。
それはけっして写真の風景を
切り出したようなものではない。 - 堂田
- 青沼さんが以前言ってたと思うんですけど、
「リアルじゃなくてリアリティーだ」っていう。
単に海や空を写実的に描くだけでは伝わらない、
気持ちよさみたいなものを、
『風のタクト HD』は表現できたと思うんです。 - 岩田
- 目に見えない、光や風も含めてですよね。
もちろん実際にはまぶしくもないし、
潮風が吹いてくるわけでもないけれど、
そういうものが感じられる世界なんですよね。
いまの時代、実写さながらの映像が描かれる
最新ゲームはたくさんあるけれど、
今回は11年前のクリエイティブから
つくられたゲームが、それをしのぐリアリティーを
感じさせることが、おもしろいんですよね。 - 青沼
- そう、そこが本当におもしろいです。
実写とは対局にある
100%つくられた世界なのに、
自然で、居心地がいい世界なんですよね。
それがなぜなのか、
うまく言い表せないんですけれど。 - 有本
- それはきっと
「心地よさがデフォルメされてる」
からじゃないですかね。 - 青沼・滝澤
- ああー。
- 岩田
- 心地よさの、デフォルメね。
- 有本
- いい光といい風がデフォルメされて
いい感じに表現されて
余分なものは抑えられて
いいものしか残ってないから、
心地いいんだと思いますよ。
- 滝澤
- 最近、自分の中で
「温度やにおいが感じられるような画づくり」を
したいなあと思ってて、大切にしてるんです。
『風のタクト HD』をつくるにあたっても、
ライトの加減だったり、色味みたいなものは
最後までねばって、
とても大事に調整したというのはありますね。 - 岩田
- 「あそこのひだまり、あったかそう」とか
「木陰に行くと涼しい風が吹いてる」
みたいなことが、感じられる世界。 - 青沼
- 木陰、本当に涼しそうだよね。
なんとなく行きたくなるもんね(笑)。 - 滝澤
- ああいう表現も、Wii Uになったならではの
ところで、できているんですね。
技術的にいえば
「レンジ(※21)の広い輝度差を出せる」みたいな、
味気ない表現になっちゃうんですけど(笑)
今後新しい『ゼルダ』をつくるにあたっても、
表現の最重要ポイントのひとつだと思っています。
レンジ=範囲、距離、幅などの意味。ここでは光を認識できる加減を指す。