『Wii U』 本体篇
1. テレビが変わった
2. ハードは“黒子”
3. “マジック”]
4. テレビに寄生しないゲーム機
3. “マジック”
- 岩田
- 今回、横置きと縦置きの話は議論されたんですか?
- 北野
- その議論は、当初からありました。
われわれ機構チームがWii Uの設計をスタートしたのが
2009年4月頃でしたが、
当初はWiiタイプのほかに横長タイプとか、
ゲームキューブのような四角いタイプとか、
いろいろ検討していました。
でもわりと早い段階でWiiタイプに落ち着きました。
- 岩田
- 最初に発表した2011年のE3()で、
「縦には置けないんですか?」とずいぶん聞かれました。
やっぱり“Wiiは縦に置くもの”と
考えておられる方がたくさんいるようでした。(※16)
E3=Electronic Entertainment Expo(エレクトロニック エンターテインメント エキスポ)の略で、米国のロサンゼルスで開催されるコンピューターゲーム関連の見本市のこと。
- 北野
- Wiiが縦置きメインのデザインで世に出たので、
差別化をするために、Wii Uは横置きメインの
デザインにした、という経緯があります。
でも縦置きもできるよう、スタンドも用意しています。 - 岩田
- 今回、Wiiと比べて
ずっとパワフルなWii Uがこのサイズを保てたのは、
熱源がひとつになったことが大きかったわけですよね。
竹田さんが「MCMにしよう」と言っていたのは、
ずいぶん早かったと記憶しています。
しかも、複数の半導体メーカーさんがバラバラにつくったチップを
ひとつのパッケージに収めるという
前例のないつくりかたをするということで、
「完成したMCMをどうやって検査をするのか?」
という問題について、活躍されたのが赤木さんですね。 - 赤木
- はい。でも、わたしだけ、というわけではなくて、
検査チームのみなさんにご協力をいただいて、
その成果を最終的な検査イメージにまとめるのが、
わたしの仕事でした。 - 岩田
- 完璧に検査を期すには、
時間をかけてあれもこれも調べればいいわけですが、
そうすると検査設備代と検査にかかる時間は
全部、コストに跳ね返ってしまいます。
ですから、漏れなく、かつ効率よく検査をするという、
一見、矛盾したことをやらなければいけないんですよね。 - 赤木
- はい。実際、初期の検査時間はかなり膨大で、
コストに見合うものではなかったんです。
でも、検査をする中で不良が出てきた場合、
各担当者に不良の内容を解析してもらって、
それをメーカーさんにフィードバックすることで、
検査時間を徐々に短縮していくことができました。 - 岩田
- どういうところを入念にチェックすればいいか、
ノウハウとしてたまっていった、ということですか? - 赤木
- はい、そうです。
「ここは不良が出ないよね」
「ここは注意したほうがいい」と、
“検査の不良率”というかたちで明確にあらわれます。
- 岩田
- 統計上、安全度の高いところは検査パターンを減らして、
逆に高い頻度で問題が出る部分は
検査をしっかり維持するという、
検査のしかたにメリハリをつけることが大事なんですね。 - 赤木
- ただ、メリハリをつけたのに、
ちょっと時期が経つと、検査を減らした部分に
不良が出てくるという問題も起こりました。 - 塩田
- LSI開発を担当するハードチームと
赤木さんのソフトチームとの間で、
LSIメーカーさんと協力しながら
不良解析をしてフィードバックする、
というループを数えきれないくらい、
何度も何度も行って時間を短くしていったんです。
やはり、CPUとGPUがひとつになったことで、
最適なものにしていくのに
いままで以上に時間がかかりました。 - 赤木
- 不良の原因がわからなければ、
担当者が何社もLSIメーカーさんを行脚しながら、
各メーカーさんのLSIチップとの相性を見て検査に反映して、
ということをくり返したんです。 - 岩田
- 不良解析をして
「なぜ不良が起こるのか」を想像し、
プログラムをつくって試して、
実際にどうなるかを確認して・・・というくり返しを、
何百回もやりつづけていったんですね。 - 赤木
- はい。しかもすぐに不良が出ればいいんですけど、
1日、Wii Uの電源を入れたまま放置したら不良が出る、
という場合もありまして・・・。 - 岩田
- いわゆるエージング試験()を行うんですね。(※17)
エージング試験=検査する機器に、長時間負荷を加えながら、その後の動作を確認する試験のこと。
- 赤木
- はい。こういったことをつぶしておかないと、
最終的にお客さんの手元で不良が発生してしまいます。
とくに製品の終盤になってくると
時間がかかる検査が残っていきますので、
余計に1個1個の不良解析に時間がかかってしまいました。 - 塩田
- でも今回、おつき合いいただいたパートナーさんに、
前向きに解析にご協力いただけたんです。
本当に助かりました。 - 竹田
- これはゲーム機が持っている“マジック”だと思うんです。
いろんな会社さんと開発をいっしょに進めるわけですけど、
IBMさん、AMDさん、ルネサスさん、
それぞれの会社の社員・エンジニアというよりも、
“チーム任天堂”のメンバーになってしまうのです。
それが、なぜできたのかというと、
「これはお父さんがつくった商品なんだ」
と、子どもや孫や奥さんなど、
家族のみんなに話せるからみたいなんですね。
そういう意味で、参加者としてチーム全体で
モチベーションを上げられるところが、
ゲーム機ならではの、ひとつのよさだと思うんです。
- 岩田
- 単に「GPUを設計しました」ではなく、
「ゲーム機をつくっている」ということなんですね。
「別の会社なのに、ひとつのチームになれる」
というのは、ちょっと面白いところです。
だから、不良が発生した場合、自分の原因でなくても、
自分ごととして協力してくださる方々に、
我々は恵まれたんですね。 - 塩田
- じつは今回のCPU、GPUの設計者の中には、
Wiiの時代からご協力いただいている人もたくさんいて、
そういう方々とごいっしょできたこともプラスに働いています。
本当に我々の商品を好きでいてくれたので。 - 岩田
- 今回は、Wiiとの互換性も
持たせなければいけないですからね。 - 塩田
- はい。もともと設計の方が
Wiiのことをすごく知っておられたので、
WiiとWii Uはまったく違う構造にもかかわらず、
我々が思いつかないようなアイデアも出してくれました。
普通なら、Wii UとWiiというふたつの回路が、
“1+1”で組み込まれるかたちになりそうなところを、
足し算ではなく、Wii Uで新たに追加した部分を
Wiiでも使えるように調整してくれたんです。 - 岩田
- そのぶん、半導体が小さくなったんですね。
- 塩田
- はい。そのうえ、電力も下げられました。
これはWiiを知ってくださっている
設計の方々だからこそ、出せるアイデアでした。
こういう知恵がたくさん出てきたからこそ、
ここまで小さな半導体をつくることができたんです。