『Wii U』 Nintendo Land篇
1. 開発はWii Uとほぼ同時にはじまった
2. 機能からのデザイン
3. クリアしてからが「本番」
4. 「チームスポーツのように」
5. 「生きている人がいる」
1. 開発はWii Uとほぼ同時にはじまった
『Nintendo Land』紹介映像を見る
- 岩田
- 今回はWii Uと同時発売される
『Nintendo Land』のお話をお訊きします。
みなさんが何を担当したのかを含めて、
まずは自己紹介をお願いします。 - 江口
- 情報開発本部制作部の江口です。
今作のプロデューサーを担当しました。
- 嶋村
- 同じく情報開発本部制作部の嶋村です。
山下さんとともにディレクターを担当しました。
あと「メトロイド ブラスト」という、
チームアトラクションも担当しました。
- 山下
- 情報開発本部制作部の山下です。
ディレクターを担当して、
「ピクミン アドベンチャー」と、
『Miiverse』()関連も担当しました。(※1)
『Miiverse』=Miiを通じて世界中の人たちがつながる、Wii Uにシステムレベルで統合された、ゲームをもっと楽しむためのネットワークサービス。好きなゲームソフトの広場で感想を述べあったり、手描きの絵やコメントを書き込んだりしながら交流できる。
- 岩田
- 嶋村さん・山下さんコンビのディレクションは
『Wiiスポーツ』()、
『Wiiスポーツ リゾート』(※3)以来ですね。(※2)
『Wiiスポーツ』=『Wii Sports』。「テニス」「ゴルフ」「ボウリング」「ベースボール」「ボクシング」の5種目を収録したスポーツゲーム。2006年12月、Wii本体と同時発売。
『Wiiスポーツ リゾート』=『Wii Sports Resort』。2009年6月にWii用ソフトとして発売されたスポーツゲーム。「ウェイクボード」や「マリンバイク」「チャンバラ」「アーチェリー」など、バラエティー豊かな12種類のスポーツを南国のリゾートを舞台に楽しめる。
- 嶋村・山下
- はい。
- 阪口
- 情報開発本部制作部の阪口です。
アートディレクターとして、
全体の絵づくりや、雰囲気づくりを担当しました。
- 岩田
- はい。ありがとうございます。
じつは『Nintendo Land』の開発は
Wii Uとほぼ同時期にはじまっているので、
ある意味、Wii Uの開発物語と
かぶるところがありますよね。
まず江口さんは、嶋村さんや山下さんに
どんなことをリクエストしたんですか? - 江口
- わたしの記憶では、
「Wii Uがどんなゲーム機になるのか?」
という話とはまったく別に、
「手元の小さな画面と
テレビ画面の両方を使った遊び」について、
自分たちのチームでいろいろな実験を
していたことを覚えています。 - 岩田
- まだ、具体的なWii Uの構想が
決まっていなかった時期に、
いろいろな実験をしていたのですが、
そのなかで、「テレビゲーム機に
もうひとつ専用の画面があったらどうなるか」
という取り組みをしていましたよね。 - 江口
- そうです。
- 嶋村
- あの、多分、その話になると思って・・・
今日はこんな小道具を持ってきました。
- 江口
- これが「2画面ある遊び」
としてスタートしたものです。 - 岩田
- そうでしたね。
これ、わたしもやりました。
じつはこのWiiザッパー()を使った実験が、
当時、開発の終盤をむかえていたニンテンドー3DSに
ジャイロセンサー(※5)を搭載する
キッカケをつくったんですよね。(※4)
Wiiザッパー=銃器の形をしたWii専用のコントローラー。Wiiリモコンとヌンチャクをセットして遊ぶ。
ジャイロセンサー=角度や回転速度を検知するセンサー。ちなみにジャイロ(gyro)は「輪」や「回転」の意味。
- 嶋村
- はい。ちょうど山下さんと
『Wii Sports Resort』の開発が終わったあと、
Wiiモーションプラス()のノウハウを活かした
新しいものを考えていたときに、
「Wiiザッパーを動かすと、Wiiから出力された
映像が手元のモニターに同期して動く」
という遊びを試作したんです。
そしたら、けっこう評判がよくて・・・。(※6)
Wiiモーションプラス=ジャイロセンサーを内蔵した周辺機器で、Wiiリモコンに接続して使用する。現在では、WiiリモコンにWiiモーションプラスの機能を内蔵した「Wiiリモコンプラス」を発売中。Wii本体セットに含まれるWiiリモコンも「Wiiリモコンプラス」へと切り替わっている。
- 岩田
- その実験を見た宮本(茂)さんが、
「3DSには絶対にジャイロを入れたい」と
出口に向かっていた3DSの船を呼び戻した()んですよね。
その前に、ハード部門の人たちは、
「これで仕様はフィックスです」と
宣言していましたからね(笑)。(※7)
出口に向かっていた3DSの船を呼び戻した=ニンテンドー3DSにジャイロセンサーが搭載されたくわしい経緯、社長が訊く『ニンテンドー3DS』 本体コンセプト 篇はこちら。
- 山下
- はい(笑)。
当時、われわれはWii Uの企画として
プレゼンするつもりだったので、
あの日は3DSに武器を取られてしまったような、
でもうれしいような、悲しいような、
そんな気持ちでした。 - 嶋村
- でもこの試作をつくったからこそ、
「手元に画面がある」という
Wii Uの構造を説明できるようになりましたし、
「説得力も生まれたんだ」と思います。 - 岩田
- 任天堂のハードのつくりかたは、
何かアイデアが浮かんだら、
「とりあえず、あり合わせのものでつくって
実際に動かして試してみよう」
となるんですよね。 - 嶋村
- はい。その次にWii U GamePadの構想のため、
あり合わせのものでつくった
試作品の第2弾が、これです。
- 岩田
- みなさん、これがWii U GamePadの原型です(笑)。
- 嶋村
- 両面テープで、
リモコンとただのモニターをくっつけるという
ハイテクノロジーでつくっています(笑)。 - 岩田
- たしか、これでそうとうな数の
試作ソフトをつくっていましたよね。 - 嶋村
- そうですね。
リストにしたら・・・30はあったと思います。 - 江口
- この試作品と、Wii2台を使って、
当時からWii Uの疑似体験をしていました。
情報開発本部はハードの部署ではないんですが、
ハードの心得のある「工作隊」が
つくってくれるんです。 - 岩田
- ここでの試作品づくりが
『Nintendo Land』につながるんですよね。
そういう意味では、『Nintendo Land』は
開発期間がかなり長いゲームですよね。 - 嶋村
- はい。長いですね・・・。
- 岩田
- ただ、今年(2012年)のE3()で発表した
「非対称の多人数ゲーム」(※9)という
『Nintendo Land』の構造、つまり
「多人数ゲームの中で、ひとりだけ別の役をする」
といった面白さは、この取り組みで
わりと早期に発見されていましたよね。(※8)
E3=Electronic Entertainment Expo(エレクトロニック エンターテインメント エキスポ)の略で、米国のロサンゼルスで開催されるコンピューターゲーム関連の見本市のこと。
「非対称の多人数ゲーム」=E3 2012のプレゼンテーション第2部で発表された『Nintendo Land』のコンセプト。
- 嶋村
- そうです。でも、いざ
「Wii Uに向けてどんな商品をつくろうか?」
と考えたとき、1本のソフトとしてまとめる方向性を決めるのに、
とても時間がかかってしまいました。 - 山下
- たとえばWiiのときは
「テニス」を中心に『Wiiスポーツ』をまとめたんですが、
今回は、面白い試作ソフトはたくさんあっても、
『Wiiスポーツ』と同じ方法では
1本のソフトにまとめるのが難しかったんです。 - 岩田
- ということは、『Nintendo Land』を1個の箱に収めるには、
新たな「パッケージングの発明」が必要だったんですね。 - 江口
- はい。それで悩んでいたとき、スタッフのひとりが、
「任天堂のフランチャイズを1か所に集めて、
相互に作用する遊びがしたい」という、
かなり壮大な構想を語っていたことがあったんです。
でも僕らは最初、
「それ、どうやってまとめるの?」って感じで、
あまり真面目に取り合っていなかったんです。 - 岩田
- はい(笑)。
- 江口
- でも、たくさんの試作品を前に悩んだとき、
ふと、「その話に乗ったら、いけるかもしれない・・・」
と思い直して、恐る恐る、踏み込んでいきました(笑)。 - 嶋村
- そこをキッカケに、
「もし任天堂がテーマパークをつくったら」
というキーワードで考えていきました。
試しに「『Nintendo Land』リビングにオープン!」
というキャッチの下にMiiをたくさん並べて、
テーマパークの駅貼りポスターのようなものを
つくってみたら、なかなかいい手ごたえだったんです。