『Wii U』 Nintendo TVii篇
1. 「どこからがウェブ?」
2. 手元で見るリッチな番組表
3. レコメンドエンジン
4. 人生が豊かになるきっかけに
3. レコメンドエンジン
- 岩田
- ウェブベースのつくりにすることで、
今までとつくりかたも変わりましたよね?
どのような開発体制でつくってきたのか
説明してもらえますか? - 織田
- 当初、さまざまな開発会社さんを探していましたが、
最終的にはウェブ・サービスに強く、
番組表サービスの実積があり、
検索や「レコメンドエンジン」()を
独自開発していらっしゃった
チームラボ(※11)さんに出会えました。
昨今はクリエイティブのトップランナーとして有名な会社さんで、
大の任天堂好きということから、すぐに意気投合しました。(※10)
「レコメンドエンジン」=レコメンド(推薦)するための情報を取得・分析し、予測・提供するエンジン。一般的にはウェブサイトの閲覧者に商品やページなどを推薦する機能を追加するシステムを指し、今回はその概念をテレビ番組に転用したもの。
チームラボ=チームラボ株式会社。インターネット・ソフトウェア開発を中心に幅広く手がける。設立は2000年、本社は東京。
- 神川
- 当時は、社内からもチームラボさんを推す声があり、
『Nintendo TVii』のウェブ開発部分をお願いすることになりました。
Wii U で動作するクライアントプログラムの開発と
ウェブ側の仕様を含めた全体的なディレクションは任天堂で担当し、
サーバー開発とウェブ側の開発を
チームラボさんに担当していただきました。 - 岩田
- この体制で、『Nintendo TVii』が
「日本でのサービスで大事にしよう」
と考えたことはなんですか? - 織田
- まず大前提として、
番組表をながめたり、検索したりするとき、
「誰でもわかりやすく」というのはありますが、
特化したサービスとしては、
日本の視聴者は番組を探すことに対して
受け身の方が多いのではないかと考えて、
その方が興味のありそうな番組を
こちらから提案する機能を付けてはどうかと考えました。 - 岩田
- これは、日本のお客様向けの機能なわけですね。
- 織田
- はい。そこで、チームラボさんの技術である
「レコメンドエンジン」を
うまく活かすことができたんです。 - 岩田
- 「レコメンドエンジン」というのは、
もともとチームラボさんが
以前から研究をされていて、
自社の看板のひとつとされているものですよね。
『Nintendo TVii』におけるオススメ機能について、
もう少し教えてもらえますか。 - 織田
- 簡単に言うと、番組表を見ながら
興味のある番組をお気に入り登録にすると、
その内容をレコメンドエンジンが分析して、
関連した番組をオススメとして
紹介してくれる機能です。
- 岩田
- たとえば、好きなタレントさんでチェックしたり、
同じテーマの番組をいつもチェックしていると、
相関性のある番組をレコメンドエンジンが
オススメしてくれるわけですね。 - 織田
- そうです。『Nintendo TVii』の場合は、
本人の傾向だけでなく、他のユーザーのデータも分析され、
加味したものが、オススメとして紹介されるシステムです。 - 岩田
- Wii Uはユーザーごとに
アカウント管理する仕組みになっていますけど、
この場合、家族一人ひとりへのオススメも変わるんですか? - 織田
- 最初はその仕様で考えていたのですが、
先ほど例に挙げた、日本のテレビ文化の分析から
個人視聴を前提とした設計ではなく、
「家族みんなが共有で使えるものにしよう」
ということになりました。
どのご家族のアカウントで使用いただいても
ある程度エンジンの中で趣味嗜好のカテゴリー分けがされますので、
家族の一人ひとりへのオススメもたしかに含まれますが、
レコメンドとしての要素はまざるため、
それぞれのご家庭にあったオススメがされることになります。
また逆の意味で言うと、
家族のお気に入りやオススメをお互い知ることで、
それを会話の材料にしてもらえたりするのが
理想ではありますね。 - 岩田
- 実際に、ある程度動き出してみて、
レコメンドエンジンがオススメしてくる番組で
「おっ!?」と思った時はありますか? - 織田
- ありますね。
たとえば、「ラーメン」というワードを登録しただけでも、
普段は気づかないさまざまな番組をオススメしてくれます。
ただ、まだ開発上の運用なので、
精度はまだそれほど高くないんです。
サービスがはじまって、
より多くの方にさわっていただけると、
より精度が上がる仕組みになっています。 - 岩田
- ああ、原理上、そうなりますね。
「レコメンドエンジン」は、みなさんの集合知が
サーバーに残っていって、精度が上がるんですね。 - 織田
- はい。蓄積されたデータの傾向から、
好みをエンジンが考えて提案してきてくれます。 - 岩田
- これから、このオススメによって、
どんな番組との出会いが生まれるか楽しみですね。
ところで、開発途中で印象的だったことがあれば
話してもらえませんか? - 織田
- テレビ放送の業界は、さまざまな会社さんが関与されていて、
いろいろな権利や立場への気遣いが必要な世界です。
番組表データを提供してくださっているIPGさんは、
いわば日本のテレビのEPG()の
パイオニアであり、トップランナーですから、
今回のサービスを実現するのに、
たくさんの前例のないことをご相談し、
パートナーとして導いていただきました。
IPG社の田路社長に初めてお会いした時も、
「人口減少や若者のテレビ視聴離れが進むなか、
より多くの方々にテレビをもっと楽しんでいただける
新しい仕組みを一緒につくりたい」
と熱いメッセージをいただきました。
IPGさんの持つ豊富なテレビ番組情報ネットワーク資産と、
遊びづくりを得意とする任天堂との異業種のコラボレーションは
新しいものを生み出すチャンスでしたが、同時に、
業界や文化だけでなく、データの仕組みもまったく異なるため、
開発中はいろんな面白い現象も生まれていました。(※12)
EPG=Electronic Program Guide(エレクトロニック・プログラム・ガイド)。電子番組表のこと。
- 神川
- そうですね、サービスの仕組みを開発中に
問題としてよく挙がったのが情報の誤ヒットです。
たとえば、とある番組で、
出演していないはずの演歌歌手のジェロさんが
リストアップされてしまうことがありました。
番組情報の文章に含まれていた「パジェロ」という単語に
ヒットしてしまったんです(笑)。
そのほかにも「スローライフ」という単語で
ローラさんがヒットしたり、
「ローマの休日」にお笑いコンビのオードリーさんが
出演したことになってしまうことがありました(笑)。
- 一同
- (笑)
- 織田
- これは、IPGさんのデータベース内の検索プログラムと
こちらの用意した仕組みの違いから、
誤りを完全に防ぐことは難しいのですが、
今回IPGさんとの協力体制を築くことができましたので、
今後もこうした問題を一つひとつ改善していく予定です。 - 岩田
- こういう時、サービスの実態がサーバーにあると
順次改善ができるのがいいですね。