『Wii U』 Wii Street U powered by Google篇
1. 「空を見上げたくなるんです」
2. 風景をまるごとデータベースに
3. 「みんなに伝えるために」
4. 迷うのが楽しい
5. シンクロ率
6. 「いろんなところに行きたい」
3. 「みんなに伝えるために」
- 岩田
- ストリートビューは、道を調べる目的のほかに、
遠く離れてすぐには行けないところや
知っているところを見るという
楽しさもありますよね。 - 河合
- そうですね。そういう意味では、
みなさんだいたい最初に自分の家を見られます。
次に、前に住んでいたところや知人の家、
母校を見たりされているようです。 - 岩田
- いわゆるストリートじゃない場所、
さきほどのNASAなどの有名な場所や、
海にまで入れるところもあるじゃないですか。
ああいった場所はどのように選んで、
実現されているんですか?
- 河合
- 最初のきっかけと似ているんですが、
ひとことで言ってしまえば“思いつき”なんです。
自分たちが「おもしろい」と思うことをやるのが基本で、
そこを外部の方に「共感」していただくことで
よりよいものに仕上がっていくという。
そこは、ゲームの企画と似ているのかもしれません。 - 岩田
- たしかに似てますね。
- 河合
- 自分たちがおもしろいと思えないと、
協力してくださる方、利用してくださる方から
本当の共感を得ることは難しいですし、
けっきょく続けられないんです。 - 岩田
- どんなに仕組みがしっかりできていても、
あれだけのモノを撮り続けていくことは
かなりの重労働なはずですからね。 - 河合
- スペースシャトルの場合は、
やっぱりみんな子供の頃からあった
宇宙へのあこがれの象徴ですし、
それが世界中どこからでも見られるようになったら、
ぜったいおもしろいじゃないですか。
それに対してNASAから
「それはいいね! ぜひやってくれ」と
共感してもらえたから、できたことなんです。 - 岩田
- 「みんなに見てもらえて、記録として残してくれる」
ことに価値を感じて、協力してくださったんですね。 - 河合
- ホワイトハウス()もやっぱり同じで、
みんなに広く見てもらう目的で
もともと見学ツアーのようなものはあったんですが、
そこに実際に行ける人は限られているわけで。
それがネットで見られるようになることは、
ホワイトハウスとしても歓迎だった、と。(※15)
ホワイトハウス=ワシントンD.C.にある、アメリカ合衆国大統領が居住し、執務を行う官邸・公邸。
- 岩田
- 多くの人に仮想ツアーを
体験してもらう道具として、
Googleのストリートビューは
まさにピッタリの役割を果たしているわけですね。 - 河合
- そういう意味では、現在オルセー美術館()をはじめ、
世界の美術館内部のストリートビュー(※17)を
やらせていただいています。
このプロジェクトは、インド人のアミット(※18)という者の
「自分はまずしい村に生まれて、
まさかこんな立派な美術館に来られるなんて、
子供の頃まったく思ってなかった。
だからこれからは、どんな人でも
美術をもっと身近に感じられる環境を
技術の力でかなえたい」
という想いから、実現したものなんです。(※16)
オルセー美術館=フランスのパリにある、19世紀美術専門の美術館。
世界の美術館内部のストリートビュー=Google Art Project。世界40か国、180以上の美術館内部をバーチャルに体験、作品鑑賞ができるサービス。絵画のほか彫刻・ストリートアート・写真なども加えた約3万5000点の芸術作品が閲覧可能(数値は2012年12月現在)。
アミット=アミット・スード氏。Googleのプロダクトマネージャー。Art Projectの責任者。
- 岩田
- 「昔の自分のような子供たちにも
名画が身近なものになるようにしたい」
ということなんでしょうね。 - 河合
- そうですね。
もちろん、その場に行ってこその感動は
あるとは思いますが、
ストリートビューで見ることで
得られることもたくさんあると思うんです。 - 岩田
- お話を訊いていると、
世界中の価値ある場所が
次々と見られるようになっていくほど、
そこで出た反響が、「じゃあこれはどう?」という
次の新たなプロジェクトに
どんどんつながっている気がします。 - 河合
- そういう意味では、東日本大震災でも
ストリートビューは深いかかわりを
経験しています。 - 岩田
- 震災直後、六本木のGoogleさんは
一時期不夜城のようになって、
災害対応に取り組んでおられましたよね。 - 河合
- はい。あの時Googleでは
そのときやっていた業務を止めて、
「自分たちがいまできることをやろう」と、
被災者支援に集中したんです。
ウェブの開発はとにかく短期間でつくれるので、
少しでも役立ちそうな可能性があれば、
それを3、4日でつくってはすぐに出す、
といったことをやっていました。
- 岩田
- どんどんつくって出して、
「利用が多いものがニーズのあるものだ」
というやりかたをされたそうですね。 - 河合
- はい。それで夏を迎える頃に、
「次にできることはなんだろう」と考えたんです。
当時、さまざまな報道の方から
「ストリートビューで被災地の風景を
撮って公開したらどうか?」
と言われてはいたんですね。
というのは、被害が特定の場所だけではなく
本当に広い地域一帯なわけですから、
普通のカメラでは収めきれなかったんです。
でもストリートビューなら、それが可能だろうと。 - 岩田
- ストリートビューはシンプルに言うと、
クルマからの全方位の眺めを写真として
すべて自動で撮れる仕組みですからね。 - 河合
- ただやっぱり、そうやって撮影することに対して
「被災者の方がご覧になったらどう思うのだろうか?」
という不安もあって、悩みました。 - 岩田
- 「カメラがたくさん付いたクルマが来て、
そこらじゅうを撮っていくことを
不快に感じられる方もいらっしゃるんじゃないか」
ということを心配されたんですよね。 - 河合
- はい。わたしも地元が仙台なんです。
ですから自分自身でも葛藤はありました。
ただ、本当に多くの方からお話をいただいて、
「それができるのは自分たちだけだし、
これは自分たちの責任で、やらなければいけない」
と考えたんです。撮影をはじめてみたら、
心配していたことはまったくなくて、
地元の自治体の方がみなさんとても協力的で、
あたたかく受け入れてくださったんです。
撮影していたドライバーが、
地元の方からミカンやおにぎりをもらって、
逆に元気づけてもらうようなこともありました。 - 岩田
- 「みんなに伝えるために撮影に来ている」ということが
伝わったから、きっとみなさん手を貸してくださったんでしょうね。 - 河合
- まさに、そうです。
「震災で残った建物を残すべきかどうか」
という議論はいまもありますし、
「見るたびにつらい」という方もいらっしゃって、
人によってさまざまな意見はあります。
でも「記録に残して、伝えなければいけない」
という想いは、みなさん一緒だったんです。
そこで撮った写真は、2011年の12月に
公開()したんですが、大きな反響があって、
アメリカの主要メディアでも記事が組まれて、
世界中の方に見ていただくことができました。(※19)
2011年の12月に公開=Googleは2011年12月に、東日本大震災デジタルアーカイブプロジェクトとして、東北地方の沿岸地域や主要都市周辺の被災地のストリートビューの公開を開始。被災した地域の過去・現在の写真や動画を募集・公開するサイト「未来へのキオク」では、一部対象地域は震災前後の同一地点の画像が見られる。
- 岩田
- その場にいるかのように見渡すことができる
ストリートビューのテクノロジーで、
一枚一枚の写真では伝えきれなかった
地震のリアリティーが伝わって、
結果として世界中のたくさんの人々の
気持ちが動いたんでしょうね。 - 河合
- 被害の様子を後世に伝えるという目的以外にも、
たとえば支援にいらっしゃったボランティアの方が、
「いまあそこはどうなっているのか」って、
気にされることもあると思うんです。
同じ写真でも見る人によって
わき上がる想いはそれぞれなんですね。
そんな経験を経て、ストリートビューは
「たくさんの方に、いろんな意味で
活用していただける道具でありたい」
と、あらためて思うきっかけになりました。