『Wii U』 Wii Street U powered by Google篇
1. 「空を見上げたくなるんです」
2. 風景をまるごとデータベースに
3. 「みんなに伝えるために」
4. 迷うのが楽しい
5. シンクロ率
6. 「いろんなところに行きたい」
5. シンクロ率
- 鈴木
- これが普通のゲームづくりだったら、
最後の最後までネタづくりに苦労するんですけれど、
ストリートビューはもう、
最初からネタがいろんなところにある感じなんです。
- 岩田
- 道具として使われていたサービスが、
Wii Uというエンターテインメントのデバイスを通すことで、
新しいものに生まれ変わる予感があるんですよね。
それによって興味を持つ人が増えて、
地図とのかかわりかたが変わる可能性があると思うんです。 - 河合
- まったく想定していなかった
ストリートビューの使いかたや、
楽しみかたのヒントがわいてきますね。
「ロンドンでかくれんぼ」とか
「セント・アンドルーズ()でゴルフ」とか、
「ケネディ宇宙センターから打ち上がりたい」とか(笑)。
・・・たくさん、できそうなことがあります。(※23)
セント・アンドルーズ=スコットランドのファイフにあるゴルフの発祥の地。
- 岩田
- ありますね、すごく(笑)。
- 鈴木
- プレゼンを見せてお話しした時にも、
その場でいろんなアイデアをいただいたんです。
どれも本当に、みんなやりたいんですけど(笑)。 - 岩田
- 大橋さんは、UIまわりをつくりながら、
そんな目の前におもしろいネタが次々と
出てくることに対して、どう感じられていましたか? - 大橋
- 僕はわりと集中してやっていたので、
まわりから「すごいものつくっているなぁ」と
言われたりしながら、
けっこう淡々と作業していた気がします。 - 一同
- (笑)
- 鈴木
- 大橋さんは僕がいつもつついているから、
かなり負担をかけてしまって・・・。 - 大橋
- いえいえ(笑)。
- 岩田
- でも、そういうプレゼンの場があると
目標があるから一気に進むんですよね。
いま、すごくチームがノッている感じがしますから、
「何をしたらいいんだろう?」というような
迷いがなくなるんですよね。
「こうしたらもっとよくなるに決まっている」
というところだけが見えて、
走れば走った分だけ結果につながるというか。 - 高橋
- じつはプロジェクトの当初、
最初に企画ベースで話しているだけでは
「えっ、それは本当におもしろいの?」と、
半信半疑の人間もけっこういたんです。
でもやっぱり、動くものを見た瞬間に、
こうググッと気持ちがつかまれる感じなんです。 - 河合
- すごくよくわかります。
Googleでも「百聞は1デモにしかず」
という格言があるんですよ。 - 岩田
- ははは(笑)。
「とにかくつくって見せろ」ということですよね。
とくにさわり心地みたいな部分は、
どんなにおもしろそうに説明だけされても、
まったく保証されるものではないので、
チームに力があるかどうかは、
動いているものを見て判断するしかないんです。
「あとで直りますから」というチームもいるんですけれど
たいていは、あとで
「ここをあと回しにしているチームは、やっぱり筋が悪いなぁ」と
なることが多いんですよ(笑)。 - 河合
- こわいなぁ~(笑)。
- 高橋
- 見せる時点で最低限
「こことここは気づかっておかないと」
みたいなところはありますからね。
今回Googleさんにデモを持っていったのは
そこに確信を持てたからできたのであって、
段階を踏んで「まずお話を・・・」とは
ぜんぜん思っていませんでした。 - 河合
- いや・・・それは大成功ですね(笑)
- 岩田
- わたしから見ると、
Googleさんへのプレゼン以前は、
「技術的には実現可能だけれども、
本当にサービスとして実現できるか」が
わからなかったところはあるんです。
Googleさんが共感して協力してくださらなければ
ぜったいに不可能なことでしたから。
でも、それがあのプレゼンを境に、
両者ともに一気によい方向に
加速していった感じがすごくありますね。 - 鈴木
- そうですね、それを現場ですごく感じます。
- 岩田
- 鈴木さんはこれまでいろんなプロジェクトにかかわり、
多くの外部のパートナーさんと
お付き合いをされてきましたけれど、
その中でも今回はひときわ
シンクロ率が高いんじゃないですか?
- 鈴木
- たしかに、最初にデモを見てもらった瞬間から
「ああ、いいですね!」って
100%言ってもらえたことって、
じつは僕の中でもはじめての経験でした。 - 岩田
- そこまで一発で受け入れられて、
シンクロ率が高い理由は、つくった側から見て
どこにあると思いますか? - 鈴木
- いくつかあると思いますが、
いちばん大きいのは、写真の力じゃないでしょうか。
『Touch! Generations』()では、
「自分と関係がある」ということが
大切にされていたと聞いています。
それでいうと今回は、
ゲームのいつものCGではなく、
身近な自分の家や街、行ったことのある場所などが、
すべて実写でその場にいるように見えるということは、
「自分と関係がある」典型的なものだと思うんです。
それはいままではある種の制約があったんですが、
今回Wii Uのデバイスとの相性がピッタリはまって、
一気に乗り越えられた感があります。(※24)
『Touch! Generations』=「いろんな世代に、新しいエンターテインメントを。」をキャッチフレーズに、老若男女を問わず、家族でも楽しむことができるソフト群の総称。『脳トレ』や『えいご漬け』『やわらかあたま塾』などがそのひとつ。
- 岩田
- Wii U側からの視点で見たときに、
「写真という身近な素材が、
人の心をつかめるものだった」ということですね。
高橋さんはどう思いますか? - 高橋
- まず、やっぱり今日のお話を聞いていても、
「多くの人に共感してもらってこそ価値がある」という
根本の部分が、Googleさんも任天堂も
一緒だったという点が、
いちばん大きいんじゃないかと感じますね。 - 岩田
- ほんとに似ていますよね。
わたしはプレゼンの報告を聞いたとき、
「ああ、Googleさんも
やっぱり、おもしろいことが好きなんだ」
ってすごく感じたんです。 - 河合
- いや、われわれから見ても、
「似てるなあ」と思っていたんです(笑)。
- 岩田
- 任天堂の場合は、出口となるデバイスをつくって、
そこにエンターテインメントを提供するという流れで
やってきたんですが、それは逆に言うと
「人が共感してくれる要素がないと、
ぜったい成立しない」ものなんです。
なにせ、娯楽は(せまい意味では)役に立つものではありませんから(笑)。
ただ、最初から手ざわりが求められますし、
UIについてはすごく鍛えられ、洗練されるんですね。
基本的に「人は面倒なことが嫌い」ですから、
そこをクリアする工夫を盛り込むわけです。 - 河合
- なるほど。
- 岩田
- そこでお客さんが反応してくださったとき、
その共感が広がって、苦労が報われて、
またさらに続けていけるという構造まで、
そっくりだと思うんです。 - 河合
- おっしゃるとおりですね。
Googleの製品の場合も、
よりおもしろく、便利にする努力を続けないと、
お客さんが戻ってきてくれる保証はないので、
つねに危機感があるんです。 - 岩田
- そこは、実用性のあるサービスをつくられていても
「飽きられてしまうかもしれない」って、
お考えになるものなんですか? - 河合
- そうですね、たとえば別に
Google マップを利用しなくても
利便性の高い紙の地図は最初からありましたし、
代替となる媒体はそれこそいくらでもあるわけです。
そのいろんな比較対象とくらべて、
また戻ってきてもらわないといけないわけで、
そこはある意味、同じだと思いますね。
「もっとよくできないかなあ」と
試しては捨て、ということをくり返しています。 - 岩田
- そこも同じですね(笑)。