『Wii U』 Wii U GamePad篇
1. 課題は無線システム
2. “ひとつの解で複数の問題を解決する”
3. 「最後はガッツ」
4. 「コントローラーをつくる!」
5. 「テレビがもっと魅力的に」
2. “ひとつの解で複数の問題を解決する”
- 岩田
- 課題の無線やレイテンシーについて、
どのように乗り越えていったんですか? - 山下
- 既存の無線や映像圧縮技術では
遅延が発生してしまいますから、
そのままでは使えませんでした。
そのため、各分野のプロフェッショナルの会社さんに、
いままでと違うことにチャレンジしてもらう必要があったんです。
このプロジェクトには、
いろんな協力会社さんに入っていただきましたけど、
会社選びについては、竹田(玄洋)さん()も
苦労されたと思います。(※10)
竹田 玄洋=任天堂専務取締役、総合開発本部長。任天堂におけるハードウェア開発の責任者。過去、「社長が訊く Wiiプロジェクト」のWiiハード編、Wiiリモコン編、社長が訊く『PUNCH-OUT!!』、社長が訊く『Wii U』本体篇に登場。
- 岩田
- 「いままでにないものを実現するために、
汗をかくことに協力してください」と、
いろんな会社さんを巻き込んだわけですね。 - 山下
- はい。その中でもキーとなったのは、
伊藤さんが担当されたICです。
ICの設計から
そのIC上で動作するファームウェアの開発まで、
開発パートナーのメガチップス()さんには
最後の最後まで、協力いただいています。(※11)
メガチップス=株式会社メガチップス。大阪市に本社を置く。画像、音声、通信技術を駆使して、デジタル、モバイル、セキュリティーなど幅広い分野で、製品開発を支援する研究開発型ファブレスメーカー。
- 岩田
- どのようにシステム設計を行ったんでしょうか?
「Wii Uの映像を圧縮して、無線電波にして転送し、
それをWii U GamePad側で受信して展開し、映像を出す」
という一連の動作を
“遅延なく”行わないといけなかったんですよね。 - 伊藤
- まず、一般的な映像の圧縮展開システムというのは、
画像をICに入れて1フレーム()データがそろった時点で、
圧縮して無線で送って展開します。
そして展開しおわってから、
液晶モニターに送ることをくり返します。
でも、それではレイテンシーが発生してしまうので、
今回は、“ひとつの画像をいくつもの細かい画像に分割する”
という方法を考えました。
Wii U本体のGPU(※13)から出力された段階から、
圧縮、無線送信、展開、液晶モニターへの表示までのすべてを
細かく分解した画像でやりとりすれば、
「1画面を送る遅延量を短縮できるのでは?」
と考えたんです。(※12)
1フレーム=フレームとは、動画において、単位時間あたりいくつフレーム(映像・コマ)が処理されるかをあらわす単位。フレーム数が増えるとそれだけデータ量が増えるため、滑らかな動画を見せるには、ある程度のフレーム数が必要。テレビやビデオは普通、1秒間に30フレーム(画面)を表示。現在のHDTVでは1秒間に最大60フレームまで実現されている。
GPU=Graphics Processing Unit(グラフィックス プロセッシング ユニット)の略。グラフィックスチップ、またはビデオチップとも言う。パソコンやゲーム機の表示画面を描画するための専用チップ。
- 岩田
- そのアイデアを周りに話したとき、
最初からいい感触でしたか? - 伊藤
- はい。いい感触だったと思います。
- 前
- 僕も最初からいいと思いました。
大きな単位でバッファリングしなければ
レイテンシーも小さくできますし、
メモリーも少なくて済み、消費電力も少なくて済むので、
“ひとつの解で複数の問題を解決する”
いい提案だと思いました。 - 伊藤
- 一般的に、ひとつの画面は
16×16のマクロブロック()ごとに圧縮できるんですけど、
Wii Uの場合はデータをどんどん圧縮して、
無線で送れるパケットサイズ(※15)がたまった瞬間に、
Wii U GamePadに送り出すようになっています。(※14)
マクロブロック=ひとつのフレームを分割した小さな単位。一般的には16×16ピクセル。
パケットサイズ=大きなデータを通信するときに、データを分割して通信することをパケット通信と呼ぶ。分割されたデータのことをパケットといい、パケットの大きさがパケットサイズ。
- 岩田
- それは通常の動画圧縮方法とは、ぜんぜん違いますね。
でも無線通信は、「送ったら必ず届く」とは
保証されていないわけですから、
エラーが起きたときのことを考えないといけませんよね。 - 前
- はい。無線側はすごく大変で、
いわばデータが細切れでバンバン送られてくるので、
できるだけエラーを起こさないように、
つじつまを合わせながら、リアルタイムで
届けないといけないところが難しかったです。 - 山下
- しかも1画面を構成するデータが一部でも欠けたら、
情報が足りなくてその後の展開が続けられないので、
そういったときにどう対処するか、という問題もありました。 - 伊藤
- エラーコンシールメント()をどうするかという話で、
いろんなアイデアをシミュレーションしましたね。(※16)
エラーコンシールメント=デジタルデータにおけるエラーについての修正や修復のこと。
- 岩本
- それから画像圧縮も無線も、
通常はレイテンシーを許容することで
クオリティーを担保しているものなので、
レイテンシーの制限をキツくしてしまうと、
ベストケースではよく動いても、たとえば
「電波が弱いときに、こういう絵柄を送るときびしい」
といった、状況ごとの問題に対応するのが大変でしたね。 - 岩田
- 無線は条件が一定していないから、難しいんですよね。
- 前
- はい。何より
“Wii U GamePadを手に持って動かす”
というところが無線的には非常につらくて、
ドップラー効果()が発生してしまうんです。(※17)
ドップラー効果=電磁波や音波などの発生源と、観測者との相対的な速度によって、波の周波数が異なって観測される現象のこと。
- 岩田
- しかも、さまざまな使いかた、動かしかたをするゲームを
バンバン、ソフト化していますからね。 - 前
- 正直、「やめてくれ~!」と思ったことも(笑)。
しかも縦持ちもOKですから。 - 岩田
- なぜ縦持ちが問題になるかというと、
電波というのは水中では伝搬しづらいんですが、
人体の60~70%は水でできているので、
電波の通り道の邪魔になるんですよね。
「横持ちも縦持ちもあり」となると、
手に持つ場所が一定ではなくなるため、
電波が届きやすいよう、アンテナを付けることが難しくなるんです。
コストに制限がないなら、アンテナの数を増やして対処するとか、
いろんな方法があるんですけど。
それに、ゲームによりWii U GamePadを動かすこともあるので、
そのさまざまな動きにより
電波の波が歪んでしまうかもしれない。
そんな問題を、全部考えなくちゃいけないわけですよね。 - 山下
- 家の中のどこまで電波が届くのか、
みなさん、試されると思います(笑)。 - 岩田
- 任天堂としては
「同じリビングルームの中なら大丈夫」
と申し上げてはいますが、
「壁1枚はどうなの?」
という話はよく出ますよね。 - 山下
- はい。この間も別の部署の方から、
「僕の家のトイレでは使えるだろうか?」
と聞かれました(笑)。 - 岩田
- その家が木造住宅なのか、
鉄筋コンクリートのマンションなのか、
壁の材質はどうなのか、でも違ってきますからね。 - 山下
- ええ。ですので、保証できるようにお答えしようとすると
「同一空間内であれば大丈夫です」となるんです。 - 岩本
- ただ、Wii U本体を金属製のAVラックとかに入れられてしまうと、
電波がはじかれてしまう可能性があるので、
使える距離が短くなってしまうかもしれません。
電波は距離の二乗に反比例して弱くなるので、
同一空間内でも距離をとると弱くなりますし、
障害物があると不利になると思います。 - 山下
- テレビとWii U GamePadを
いっしょに使うスタイルもひとつの形ですけど、
テレビを使わなくても遊べるところもWii Uのよさです。
その使いかたではWii U本体が意識されにくくなるために、
「テレビから離れたら使えないぞ」って
違和感を持たれてしまう可能性もありますよね。
ちなみに、我が家はリビングルームとトイレが
壁1枚の構造なので、トイレでも使えました(笑)。 - 岩田
- 山下家の場合は壁1枚を乗り越えたそうです!(笑)
よく「ベッドルームで使えるの?」と聞かれますけど、
見通しが利くところなら保証できるんですけど、
基本的に家がどういう構造かに依存しますから、
「まずはご自宅でお試しください」ということになりますね。