『Wii U』 Miiverseプロデュース篇
1. “共感ネットワーク”
2. 2階建てのサービス構造
3. ネットワーク方針の大転換
4. 「Wiiが街に」
1. “共感ネットワーク”
- 岩田
- 多分、冒頭に載っている写真をご覧になった方が、
「なぜ、はてな()の近藤さんがここに?」
と思われるかもしれません。(※1)
はてな=株式会社はてな。「はてなブックマーク」「はてなダイアリー(はてなブログ)」をはじめとする、「はてな」の各サービスを開発し、インターネット上で運営を行う。設立は2001年。本社は京都市。
- 近藤
- ああ、そうですよね(笑)。
- 岩田
- 『Miiverse』をつくることになったときから、
ずっとごいっしょさせていただいています。
今回は「『Miiverse』プロデュース篇」ということで、
よろしくお願いします。 - 一同
- よろしくお願いします。
『Miiverse』紹介映像を見る
- 岩田
- 『Miiverse』というのは、
Miiを通じて世界中の人たちがつながる、
Wii Uにシステムレベルで統合された
ゲームをもっと楽しむためのネットワークサービスです。
好きなゲームソフトの広場で感想を述べあったり、
手描きの絵や、コメントを書き込んだりしながら、
お客さん同士で交流を楽しむことができるサービスです。
また、「お互いのIDを打ち込む」という
これまでのフレンドコード()を打ち込むのと
同じような方法に加えて、『Miiverse』を使うことで、
いままでより簡単にフレンド関係を
成立させることもできるようになります。
ではまず、近藤さんから自己紹介をお願いします。(※2)
フレンドコード=WiiやニンテンドーDS、ニンテンドー3DSなどで、インターネットに接続するときに、割り振られるIDのこと。お互いにフレンドコードを登録すると、離れた場所にいる友達とインターネットを通じて通信プレイが楽しめる。
- 近藤
- 株式会社はてなの近藤です。
『Miiverse』では、
初期のコンセプトメイキングなどを担当しました。
よろしくお願いします。
- 水木
- 任天堂ネットワーク事業部の水木です。
今回は『Miiverse』のプロデューサーというか、
ディレクターというか、
そんなようなことを担当しました。
- 岩田
- 水木さんは『Miiverse』の
言い出しっぺでもありますね。
では水木さん、最初に
『Miiverse』はどうやってはじまったのか、
という話をしていただけますか? - 水木
- はい。正直にお話しすると、
もともと僕の中で『Miiverse』の出発点は、
先日サービスが終了になった
『Wiiの間』()にあると思っているんです。
サービスの構造はぜんぜん似ていないんですけど。(※3)
『Wiiの間』=2009年5月~2012年4月まで配信された、Wiiチャンネルのひとつ。「ショッピング」「ホームシアター」「いろんな間」の3つのサービスからなる“お茶の間コミュニケーションチャンネル”として、Wiiの間でしか買えないオリジナル商品に加え、グルメ・日用品・ファッション・インテリアなどのショッピングや、映画やアニメ・懐かしの番組などを期間レンタルで視聴できる有償映像サービスなどを提供していた。くわしくは、社長が訊く『Wiiの間』を参照。
- 岩田
- 水木さんは当時、
『Wiiの間』のクライアント側の仕事を
担当していたんですよね。 - 水木
- はい。それで、
「Wii Uのネットワークサービスはどうあるべきか?」
ということについて、
Wiiの間株式会社()の別府(裕介)さん(※5)と
以前から相談していたんです。
相談とはいっても雑談のような感じなんですけど。
そのころに別府さんが、
「Miiを中心にした任天堂ならではのサービスができないか?」
という話をよくされていたんです。(※4)
Wiiの間株式会社=『Wiiの間』を運営していた、任天堂と電通が共同で設立した会社。現在は、任天堂ネットワークサービス株式会社に社名を変更している。
別府裕介=前 Wiiの間株式会社取締役社長。現 任天堂ネットワークサービス株式会社取締役社長。
- 岩田
- まあ、その意味でいうと、
『Wiiの間』はまぎれもなく
任天堂ならではのサービスでしたよね。 - 水木
- はい。やりたかったことは意外と似ています。
ただ『Wiiの間』は基本的に、
運営側がコンテンツをつくって
お客さんに提供するものでしたが、
その仕組みでは高い頻度で更新ができなくて、
そこが強い反省点でもありました。 - 岩田
- 毎日、更新はしていたものの、
受け取るお客さんによって、
配信したものが面白いこともあれば、
ヒットしないこともあるので、
こちらが用意できる有限のコンテンツで
すべての方に満足していただくことが
とても難しかったですからね。 - 水木
- はい。だから毎日、
お客さんに楽しんでいただけるものをつくるには、
全部を自分たちでつくるのではなく、
「より多くの方が参加できる“UGC()サービス”
として実現させたほうがいいんじゃないか?」
と思ったんです。(※6)
UGC=User Generated Content(ユーザー生成コンテンツ)。利用者によって制作・生成されたさまざまなコンテンツの総称。
- 近藤
- そうだったんですね。
『Wiiの間』との関係、いまはじめて知りました(笑)。 - 岩田
- 『Wiiの間』と『Miiverse』は単体で見たら、
Miiが登場すること以外は
ほとんど共通点がないサービスですけど、
水木さんが『Wiiの間』の経験をしていなかったら、
また、毎日更新する大変さを目の当たりにしていなかったら、
この『Miiverse』は生まれていなかったかもしれませんね。 - 水木
- あと、僕が『Miiverse』のことをプレゼンで提案したとき、
たしか「Miiを使った新しいネットワークサービス」
という表現をしたと思うんですけど、
岩田さんがプレゼンの直後に
「これは“共感ネットワーク”ですね」って言われたんです。
突然言われたので驚きました。 - 岩田
- 水木さんの話を聞いてね、
同じゲームを体験した人が、
「あー、そうそう、自分もそう思ってた」
という“共感”でつながってわかりあえると、
「両方が幸せになれるな」と思ったんです。
だから「どうしたら共感が伝わりあい、増幅しあえるか?」
ということを軸に据えて、
サービスを考えていけばいいから、
「これは“共感ネットワーク”なんだ」
という話をした記憶があります。
- 水木
- そのとき『Miiverse』の核となっていたのは、
「プレイ履歴のある人同士がコミュニティ()で交流できる」
というものでした。(※7)
コミュニティ=共通の興味を持つ者同士が、さまざまな意見を交換したり、閲覧したりできるオンライン上の場所のこと。
- 岩田
- 『Miiverse』はゲーム機と統合したサービスですし、
遊んだソフトのプレイ履歴を確認しあえるようにすれば、
そのことを前提に、やりとりができますからね。 - 近藤
- 同じ体験をした人同士だからこそ、
交流しやすくなるんですね。 - 水木
- その後、社内の開発プロデューサーや
ディレクターだけでなく、
宣伝部署であったり、営業関係の方だったり、
さまざまな人と相談・・・というか、
雑談をくり返して(笑)、
仕様を詰めていった感じです。 - 岩田
- 水木さんはある一定期間、
社内を歩きまわって、
ひたすら雑談をくり返していましたよね。 - 水木
- はい。だから「自分が考えた」というより、
いろんな人と話していくなかで、
「ぼんやりしていたものが少しずつ明確になっていった」
という感じです。
最初は「Miiわらわら」と呼んでいた
「わらわら広場」()も、まさにそうなんですけど。(※8)
「わらわら広場」=Wii Uを立ち上げたホームメニュー画面に、ゲームのアイコンと、そのゲームを遊んでいる人たちのMiiが出てきて、交流する仕組み。出てくるゲームのアイコンは、すべて自分が持っているものとは限らず、さまざまなMiiがわらわらと登場し、画面上には感想などが表示される。いわば、ゲームのホームメニュー画面とおすすめ機能を統合したかたち。
- 岩田
- 「Miiがいっぱい出てきて、わらわらする何か」
みたいな話は、わりと初期から話題になっていましたよね。 - 水木
- そうですね。
雑談をする相手の中に、
「すれちがいMii広場」()を担当した
河本(浩一)さん(※10)がいたんですけど、
「単なるウェブサービスのような画面ばかりでなくて、
何か特徴的な画面が欲しいよね」と河本さんに言われて、
「そうだよな・・・」と思って、
「じゃあとりあえずMiiがなんかわらわらしてたらよいかな?」
みたいに雑談したのがキッカケです。
その後、Wii Uの本体メニューをつくっているチームが
「Wii Uの起動画面にMiiをわらわらと出しましょう」
と言ってくれて、
いまのような「わらわら広場」というかたちで
仕上げてくれたんです。(※9)
「すれちがいMii広場」=ニンテンドー3DSに内蔵されているソフトのひとつ。すれちがい通信ですれちがった人のMiiが集まってくる広場のことで、相手のプロフィールを見たり、『すれちがい伝説』などを楽しむことができる。
河本浩一=企画開発本部環境制作部所属。ニンテンドー3DSの「すれちがいMii広場」や、付属ARカードを使った「ARゲームズ」などのディレクションを担当。過去、社長が訊く『ものすごく脳を鍛える5分間の鬼トレーニング』開発スタッフ篇に登場。
- 岩田
- じつは、Wii Uの本体メニューは、
『どうぶつの森』()シリーズのディレクターを務めてきた
野上(恒)さん(※12)がまとめているんですよね。(※11)
『どうぶつの森』=2001年4月、NINTENDO64用ソフトとして発売された『どうぶつの森』が1作目。最新作は2012年11月8日、ニンテンドー3DS用ソフトとして発売の『とびだせ どうぶつの森』。
野上恒=情報開発本部制作部所属。『どうぶつの森』シリーズのディレクターを担当。過去、
社長が訊く『街へいこうよ どうぶつの森』に登場。
- 水木
- Wii Uの総合プロデューサーの
江口(勝也)さん()と、野上さんは、
『どうぶつの森』の経験もあって、
かなり早い段階で『Miiverse』の構想に
賛成してくれたおふたりでした。
江口さんが推進してくださったおかげで、
『New スーパーマリオブラザーズ U』(※14)や
『Nintendo Land』(※15)は、
積極的に『Miiverse』に対応してもらえました。(※13)
江口勝也=情報開発本部制作部部長。『どうぶつの森』シリーズをはじめ、『Wii Sports』や『Wii Sports Resort』などのプロデューサーも担当。また、Wii Uの開発では、総合プロデューサーを担当し、『Nintendo Land』のプロデューサーも担当。過去、E3 2012特別篇 社長が訊く『Wii U』に登場。
『New スーパーマリオブラザーズ U』=2012年12月8日、Wii U用ソフトとして発売予定の『マリオ』シリーズ最新作。Wii Uと同日発売。
『Nintendo Land』=2012年12月8日、Wii U用ソフトとして発売予定のテーマパークアトラクションゲーム。Wii Uと同日発売。
- 近藤
- たしかに、当時「Miiわらわら」と呼ばれていた
「わらわら広場」の原型を見た瞬間、
僕も“本気”を感じました。 - 岩田
- やっぱりあれが、
『Miiverse』が大きく化けた瞬間でしたね。 - 水木
- 江口さんと野上さんが
『Miiverse』に反応してくれたのも、
以前『どうぶつの森』で
「お客さんからの声を掲載する」という
公式ホームページの企画()をやっていたとき、
投稿内容を選別していたこともあって
「“ライブ感”が足りなかった」
という反省点があったかららしいんです。
だから『Miiverse』では
「もっとお客さんに自由に使ってもらえる
サービスでないといけない」というのが、
おふたりが共通して言っていたことでした。(※16)
公式ホームページの企画=任天堂ホームページ『どうぶつの森』公式サイト内にある「みんなのお便り」掲示板に、いろいろな遊びかたや楽しみかた、感想などを投稿できる企画。くわしくはこちらを参照。
- 岩田
- そういう意味では、
『どうぶつの森』をつくったときから
ずっとやりたかったことで、
当時は時代が追いついていなかったんですね。
だけどもし、本体メニューを
『どうぶつの森』の人たちが担当していなかったら、
あるいは江口さんが全体のプロデュースをしていなかったら、
『Miiverse』はそういう人たちの支持は得られず、
もう少し違うかたちになっていたかもしれませんね。