『Wii U』 Miiverseプロデュース篇
1. “共感ネットワーク”
2. 2階建てのサービス構造
3. ネットワーク方針の大転換
4. 「Wiiが街に」
3. ネットワーク方針の大転換
- 岩田
- さて、この『Miiverse』は、任天堂にとっても
オンラインネットワーク方針の大転換でもあるんです。
というのも、ネットワークでつながっているところで
お客さんが遊んでいて、
「知らない人にひどいことを言われて傷つくなんてことは、
絶対に起こってほしくない」と思っていたので、
“フレンド重視型ネットワーク”でいままでやってきました。
これはWi-Fi()を使ってはじめて、
DSでネット接続したときからの考え方でした。(※22)
Wi-Fi=ニンテンドーWi-Fiコネクション。インターネットを使って、日本だけでなく世界中の友達とゲームが楽しめる無線インターネットサービスのこと。
- 水木
- そうですね。
任天堂は、現実世界の知り合い同士でつながる
いわば“超リアルソーシャルグラフ重視派”でした。
そのために、現実の友達と
“フレンドコード”を交換しあう仕組みにしたんですけど、
結果的に一部のフレンドコードが
ほかのネットワークや掲示板に出てしまって、
見知らぬ人と勝手に交換されてしまう、
ということもありました。 - 岩田
- はい。
- 水木
- だからこそ、
「もっと楽しく使ってもらえるサービスを
任天堂側から提供したほうがいい」
と考え方を変えたんです。
『Miiverse』なら、何の予備知識もない、
見ず知らずの人とつながるのではなく、
“同じゲームを遊んでいる”という
“共感”を感じられる相手と、
自分が判断したうえで、フレンドになることができます。 - 岩田
- 男女間でも、口もきかずに
いきなりおつき合いすることがないように、
『Miiverse』でも、共通の興味がある
ゲームについての会話があって、
「気が合うな」とか、「いっしょに遊びたい」
となってから、「フレンドになっていくのかな」
と思います。 - 水木
- そのほうが、
「よりよいフレンド関係を構築できるのでは?」
という仮説ですね。 - 岩田
- 実際に『Miiverse』をつくっていくうえで、
お互いにどんなことに苦労し、
どんなことに面白さを感じていましたか?
- 水木
- そうですね・・・。
開発における苦労というのは、
じつはあまりなかったんです。
というのも、はてなさんとのやりとりは、
「仕様書、出してください」っていうこともなく、
ほぼ口頭でお願いしたことを
どんどん進めてくださったので、
本当にやりやすかったというか・・・。 - 近藤
- うち、ゆるいですからね(笑)。
- 水木
- いやいやいや(笑)。
- 岩田
- 「こんな感じでお願いします」って言えば、
つくってくれたんですね。 - 水木
- はい。もちろん、社風の違いはありますけど、
僕自身は、社内の人と仕事をしている感覚でした。
それに、はてなさんだったからこそかもしれませんが、
今回「お知らせ」という機能がついていて、
誰かの「共感」がついたら、通知がくる仕組みなんです。
でも、それはこちらからお願いしたものではなく、
はてなさんが「当然要るでしょう」ってつくってくれて、
「これ便利だ!」って感じでしたから(笑)。 - 岩田
- いままで「はてなブックマーク」や「はてなダイアリー」()など、
いろんなウェブサービスをつくってきた
はてなさんだから、
「いま、実装するなら、こういう機能が必要だ」
といったリアリティがわかっていたんですね。
だからこそ、社内だけではできない、
スピードとレベルで、密度濃く、
ものがつくれた感じがします。(※23)
「はてなブックマーク」や「はてなダイアリー」=「はてなブックマーク」は、 気に入ったウェブページをインターネット上で管理できるサービス。ほかの人が気に入ったページも知ることができ、ウェブで情報を探すサービスとして使われている。「はてなダイアリー」は、2003年に開始されたブログサービス。現在は後継サービスの「はてなブログ」が開発されている。
- 水木
- そうですね。
実際、マリオクラブ()でデバッグしていても、
お知らせ機能はすごく評判がよいです。
言われてみないと、その便利さに気づかなかったので、
はてなさんには非常に助けていただきました。(※24)
マリオクラブ=マリオクラブ株式会社。任天堂の開発中ソフトのデバッグやテストプレイを行う。
- 近藤
- たとえば「共感」ボタンもそうですけど、
自分の投稿に対して、
「はてなスター」()のように
フィードバックがかかることは、
やっぱりうれしいんですね。すると今度は
「それをもらえたときは、なるべく早く知りたい」
と思うのが、人間のサガと言いますか(笑)。
ああいうことを一度体験すると、
その機能がない世界には戻れないんです。(※25)
「はてなスター」=「ちょっといいな」と思った気持ちを「★」に変えて、ブログや「うごメモ」などにワンクリックで「★」がつけられるサービス。
- 水木
- 何かしたことに対してリアクションがあったら、
「必ず通知しなきゃいけない」っていうところは、
はてなさんのすごいこだわりでしたよね。 - 岩田
- はてなさんの経験上、
それは当たり前のことだったんですね。 - 近藤
- はい。ウェブサービスの本質って
“場をつくる”仕事だから、実際に人が集まって
“観察”していくことでわかっていくんです。
だからネットワークの仕事は、
人の感情みたいなものに
迫っていく部分がある気がします。
- 水木
- あとは、仕様を決めるうえで、
「これはお客さんの反応を見ながら決めさせてください」
といった判断には「なるほど」と思いました。 - 岩田
- 『Wiiの間』はあらかじめクライアントに
実装されたフォーマットでしたけど、
『Miiverse』は、ウェブサービスなので、
サーバー側でどのようにも
サービスを変えられる仕組みにしました。
「あとで判断します」というのは
ウェブの世界では当たり前ですが、
ゲームの世界ではあまりやってこなかったことです。 - 近藤
- 僕たちはリリースしてからが
開発のスタートといいますか(笑)。
とりあえず最初のコンセプトをかたちにして、
「ここからが本番」というイメージなんです。 - 水木
- 僕自身、ソフトを出したあとに24時間安心できない、
という経験ははじめてですので、
よく考えたらドキドキしてきました・・・(笑)。 - 近藤
- 大丈夫です! ついてますんで!(笑)
- 水木
- それから今回、『Miiverse』のベースになっている
ブラウザーが、すごく快適に動くんです。 - 岩田
- 『Miiverse』はゲーム機の中で遊ぶ
コミュニケーションサービスでありながら、
ウェブサービスとしての側面も持っているので、
将来的には、ウェブブラウザーさえあれば、
たとえばスマートフォンやパソコンなどからでも
アクセスできる可能性が開いているところが強みですね。 - 近藤
- ええ。けっこう使いやすくなりましたよね。
それに、これからどんどん発展していけますからね。