『Wii U』 Miiverse開発スタッフ篇
1. “ゲーム機ならではのブラウザー”
2. 「Miiがいるだけで」
3. “共感”
4. “クラウド型ゲーム日記”
3. “共感”
- 岩田
- 元山さん、PCやタブレットとゲーム機とでは、
デザイン上で違いを感じたところはありますか? - 元山
- シチュエーションが明らかに違うと思うんです。
PCだったら、机で操作することになるし、
スマートフォンなら出先で使うことが
あるかもしれないですけど、
『Miiverse』はゲームをしながら
コミュニケーションをしますので、
いままでとはだいぶ違う印象がありました。
- 栗栖
- たしかに最初、
「置いてゲームをするのか」
「片手で持つのか」
という話は、かなりしていましたね。
あと、わたしが水木さんからのご提案で
「ここにボタンをつけよう」と元山に言うと、
「それ、本当にいるんですか?」って
だいたい言われました。
「いつ、誰が使うんですか?」って(笑)。 - 元山
- はい、すみません(笑)。
いつも「どういう状態でこれを使うのか」って、
実際のシチュエーションを想像するようにしているんです。
「本当に使うのか?」をシミュレートしてみて、
「いや、いらない」と思ったときは、
正直にお伝えするようにしていました。
あと、僕なりに「なぜボタンなのか?」を
できるだけ解釈して、ボタンの必要性を
考え直していました。 - 岩田
- ある程度動き出してから、
新しい発見はありましたか? - 元山
- デバッグで使ってもらえる段階になると、
考えていた以上のことがやりとりされて、
本当にいろんな反応があったので、
楽しさを実感できました。 - 岩田
- ようやく、もうすぐ、本当に動きますね。
- 加藤
- はい。デバッグのとき、
仮想的に『マリオ』のコミュニティをつくって
発言が並ぶのを見たんですけど、
ものすごくイメージがふくらんで、
「実際に遊ぶとこんな感じなのか・・・」
って思い描けました。 - 栗栖
- 「ステージがクリアできません!」という投稿があって、
「ルイージを踏んでいくんです」と回答があって、
「できましたー!」みたいなやりとりを見て、
「あー、これか!」と思いました。 - 湯澤
- 『Miiverse』は我々が想像している以上の使われかたを、
サービスが開始されてから
お客さんにしていただけるんじゃないかと
ものすごく楽しみなんです。 - 岩田
- かつてのウェブサービスもみんな、
そうなっていったわけで、
たくさんの人が集まって
創造する知恵ってすごいですからね。 - 栗栖
- そうですね。『うごメモ』も
最初は作品に対する「すごいですね」のような
評価コメントが多かったのに、
だんだん雑談チャットみたいなコメントが増えてきて、
そのうち『うごメモ』作品そのものが
「みんなでチャットしましょう」みたいな投稿が増えてきて、
こういう予想もしない変化が本当に面白いんですよね。 - 岩田
- 実際、「密度濃く、スピーディーに進んだ」
と思うんですが、うまくここまで進んだ理由って、
何だと思いますか? - 栗栖
- じつは、湯澤さんは前職で、
「Yahoo!知恵袋」()という
Q&Aサイトを担当されていて、
わたしもじつはこの仕事の前に、
「人力検索はてな」(※21)という
Q&Aサイトをやっていて、
同じ業界で同じ領域のサービスを担当していたんです。(※20)
「Yahoo!知恵袋」=Yahoo! JAPANが運営する、みんなの知恵共有サービス。
「人力検索はてな」=株式会社はてなが運営する、疑問を解決するQ&Aサイト。
- 岩田
- まさにライバルじゃないですか(笑)。
- 栗栖
- はい(笑)。
最初の顔合わせのとき、
「なんと奇遇な!」みたいに盛り上がったんです。
だから基本的にウェブサービスという部分では、
共通認識がはじめからありました。 - 岩田
- おたがい、一定の信頼が
できるところからはじまったわけで、
いわば最初から“共感”のある状態から
スタートできたんですね。 - 湯澤
- ええ。だから、たとえば
水木さんから仕様の相談がきても、普通なら
「はてなさんに確認します」っていうところを、
「おそらくはてなさんならここまでは確実にできます」って、
わたしのほうで判断して、お返事していました。 - 岩田
- はてなさんの代わりに、
返事をしていたんですか(笑)。 - 湯澤
- はい。はてなさんにあとから確認すると、
そのあたりの感覚は一致していました。
長くウェブ開発に携わってきた者同士、
何が実現困難で何が簡単なのかの感覚は
一致していたと思います。
そこも今回、非常にスピーディーに
物事が進んだひとつの要因だと思います。
- 岩田
- なるほど。開発中に水木さんから
「湯澤さんがいてくれてよかった・・・」
という話はけっこう何度も聞いていたんですけど、
今日、その意味が、すとんと落ちました。 - 栗栖
- そこはかなり信頼していました。
逆に我々のことも信頼してくれていて、
最初に相談してからつくる、
というよりも、とりあえず先に
つくってから進められたのはよかったです。 - 岩田
- ご縁は不思議なものですね。
昔はライバルとして
サービスをつくっていたのに・・・。 - 湯澤・栗栖
- (顔を見合わせて)本当です(笑)。
- 栗栖
- あと、開発環境に
チャットルームをつくったんですけど、
そこで発言すると、すぐに誰かが反応してくれて、
まるで席がその辺にある人のような感覚で、
ほとんど距離感を感じることなく
仕事を進められました。 - 元山
- それに、週に何度も会議をしていたから、
意見を正直に言えたこともあります。
だんだん会っているうちに
「仲間」みたいな感じになってきて、
まるで、任天堂のみなさんが、
はてなの社員みたいな感じでした(笑)。 - 栗栖
- え? そっちですか?
僕らが任天堂さんの社員じゃなくて? - 元山
- はい。わりと任天堂さんに
来ていただくことが多かったので。
はてなの中で、普通にオフィスの席の後ろで
作業しているときもありましたから(笑)。 - 岩田
- 身内になれたのは、
しょっちゅう会ったからだけですかね?
それだけじゃないような気がしますけど。 - 栗栖
- あ、あと、「クラゲさん」って呼べたのも、
よかったんじゃないですかね?(笑) - 元山
- あー、そうですね。
ニックネームで呼び合えたことも
よかったのかもしれないです。 - 栗栖
- はてな社内は、
基本的にはてなIDで呼び合っていて、
元山さんのIDが「kudakurage」なんで、
いつも「クラゲさん」って呼んでいるんですけど、
そういうところでも親近感が・・・
湧きました?(笑) - 加藤
- はい。どっちが本名か、
わからなくなりましたから。 - 元山
- そんなわけないでしょう!
- 一同
- (笑)
- 湯澤
- あと、煮詰まったときはすぐ、
「合宿しましょう」という感じにもなりました。
まあ、合宿といっても、
1日どこかに缶詰めになって
「集中的に」ってことなんですけど、
そういったことがすぐにできたので
スムーズに進められたと思います。 - 栗栖
- 最初、“クリマ(クリエイターマンション)”って
愛称で呼ばれている、はてなが契約している
マンションの一室で開発していたんですけど、
任天堂のみなさんに気に入っていただけて、
「ここに来ると楽しいです」
とおっしゃっていただけました。 - 湯澤
- 1LDKのマンションに、
大人が10人ぐらい集まってね(笑)。 - 加藤
- その後、オフィスに移動して
本格開発をスタートするのですが、
オフィスでは 土足厳禁じゃないんですけど、
みなさん、靴を脱がれるんです。
「僕らも脱いだほうがいいですか?」って聞いたら、
「いや、脱がなくていいです」と言われて・・・。 - 栗栖
- あの、なぜ靴を脱ぐのか、というと、
初期の開発陣が、ずっとクリエイターマンションで
裸足で開発をしていたので、足が自由じゃないと、
うまく自分をモチベートできない感じに
なってしまっているんです(笑)。
脱ぎたい人が脱いでいるだけだから、
土足で大丈夫なんです。 - 加藤
- でも・・・どっちかっていうと、
僕らも脱ぎたいくらいなんですけど(笑)。 - 栗栖
- あ、そうでしたか(笑)。
- 岩田
- ああ、たしかにわたしもマンションで
作業をしていたハル研()時代、
靴を脱がないとプログラムできない体に
なっていたような気がします(笑)。
でも、ものをつくることに集中できて、
朝から晩までそれがやれるんだから、
楽しくてしかたがないんですよね。
今度、のぞきにいこうかな・・・。(※22)
- 栗栖
- はい、ぜひ、お越しください!(笑)
ハル研=株式会社ハル研究所。『星のカービィ』や『スマブラ』シリーズなどを手掛けてきたソフトメーカー。かつて岩田が社長をつとめていた。