『Wii U』 インターネットブラウザー篇
1. 「隠すことが強みになる」
2. 手元でさわって、大画面で大きく
3. テレビ+ブラウザーの決定打に
2. 手元でさわって、大画面で大きく
- 岩田
- 実際に、ブラウザーが実機で動き出したときの
手ごたえはどうでしたか? - 佐々木
- 正直に言うと、はじめてさわったときは
「こんなところか・・・」というレベルだったんですが、
3DSを終えたチームが合流してひとつになり、
半年後にチューニングされたものを見たら、
見ちがえるほどいい手ざわりになったんです。
「あっ、ゲーム機でここまでできるんだ!」って
素直に驚きました。 - 岩田
- いい感じのフレームレート()で、
動くようになったんですよね。(※11)
フレームレート=1秒間にいくつのフレーム(映像やコマ)が処理されるかという値。
- 佐々木
- そうです。WebKitという技術は、
オープンソース()でできている分、
なんというか、すごく荒削りな技術なんです。
世に出ている商品すべてが個々に
安定させるために努力をしている状態で、
UIは複雑なチューニングが必要なんです。(※12)
オープンソース=ソフトウェアの設計図にあたるソースコードを、無償で公開し、自由にそのソフトウェアの改良、再配布が行えるようにすること。
- 岩田
- オープンソースのWebKitの中に、
UI部分は含まれていないわけで、
自前でつくる必要があるんですね。
WebKitは、HTMLを解釈して
画面を描画してくれるライブラリー群に加えて、
JavaScriptなど、本当にブラウザーを実現するうちの
一部でしかないわけですよね? - 佐々木
- はい。WebKitというもの自体に、
「レイヤーに分かれた絵をつくって、
それらをどのように重ね合わせて、
それをどれくらいのサイズで描くと、
スクロールしたとき手ざわりがいいか」といった
チューニング前提の部分が山ほどあります。
そこをいかにセンスよくまとめられるかが
非常に重要になってくるので、
そこは本当に、ハル研さんのエンジニアのみなさんの
チューニングのたまものだと思っています。 - 岩田
- それは、3DSと比べてWii Uが、
CPUがパワフルだったり、
たくさんメモリーが使えるということだけで
実現できたわけではないんですか? - 佐々木
- もちろん、その恩恵は大きいんですけど、
実際にはさまざまな最適化を施した結果です。
たとえば、3DSで培ったUIとブラウザーエンジンの
非同期化()を進化させたことで、
ほぼ秒間60フレームをキープしながら
滑らかに操作できるようになりました。
また、タッチしたときのフィードバック、
ウェブページを行き来したときの演出なども
ゲーム機らしく快適に反応するような工夫もされています。(※13)
非同期化=時間のかかる処理(画面作成など)が終わるのを待つことなく、一定の間隔で割り込んで必要な処理(ユーザーの操作など)を行うこと。
- 岩田
- これは余談なんですけど、
ちょっと前のことなんですが、
海外子会社の方々が来日されたときに、
そのとき開発途中のソフトをいろいろお見せしたんですね。
そのときの雑談のなかで、
「今回いちばん感動したのは何ですか?」って聞いたら、
「Wii Uのブラウザーです」って言う方がいたんです。 - 佐々木
- そうなんですか(笑)。
- 岩田
- 「ゲーム機とは思えない、本当に使えるブラウザーだ」と。
いままで長くこの仕事をしていますが、
当時、まだWii Uのゲームの完成度が低かったことや、
ちょうどそのときは、新しいゲームを
見せられなかったという事情があったとはいえ、
いろんなソフトを見てもらって
「ブラウザーがいちばん印象的だった」と言って、
帰った社員がいたっていうのは、
はじめてのことで、びっくりしました。
- 津田
- でも、素直にうれしいです。
- 岩田
- でも、それを実現するためには、じつは、
ただごとではない苦労があったんじゃないですか? - 佐々木
- プログラムって、高速化は後まわしにしてつくることが
世の中ではわりと多いんですが、
このブラウザーのプロジェクトでは、
当初から高速化を常に意識していました。
実際に、世の中のウェブサイトの挙動を一つひとつ確認しながら、
遅い部分や問題がある部分を発見しては、
解決していく作業を繰り返したのが効いていると思います。
「このサイトはなぜ遅いんだろう?」
「このサイトはタッチしても反応が鈍いのはなんでだろう?」
といった感じで、結局は一つひとつ問題点を発見していきながら、
各協力会社さんの役割の垣根を越えて、
全員で問題解決にあたってきたことが大きいと思います。 - 岩田
- 津田さんが仕様をつくっていく過程のなかで
新たに気づいて、変えていったことはありますか? - 津田
- はい。ひとつは去年(2011年)のE3()の前に
宮本(茂)さんから出されていた課題で、
「テレビ画面で小さな文字が映し出されたとき、
手元のWii U GamePadの画面で
大きく表示してルーペのように動かせないか?」
という話があったんです。
当時まだ実機でほとんど動かせていない状態で、
PC上ではイメージがわかなかったんです。(※14)
E3=Electronic Entertainment Expo(エレクトロニック エンターテインメント エキスポ)の略で、米国のロサンゼルスで開催されるコンピューターゲーム関連の見本市のこと。
- 岩田
- ジャイロセンサー()などを使う機能になると、
実機でないとなかなか実感できませんからね。(※15)
ジャイロセンサー=Wii U GamePadに搭載された、傾きを検知するセンサー。
- 津田
- はい。その後、実機が届いて、
いろいろ実際にやってみたんですけど、
「もうひとつ何か足りない」と
佐々木さんや上司からずっと言われていたんです。
それであるとき佐々木さんから、
「自由に動かすのをやめて、制限をかけたほうが
いいんじゃないか?」って言われて、
スクロールを縦だけにしてみたんです。 - 岩田
- ああ、左右にしょっちゅう行かなきゃいけないページは、
むしろ「ウェブページのデザインが悪い」と言えますからね。 - 津田
- そうなんです(笑)。
そこで縦に固定したら操作性が格段に良くなって、
Wii U GamePadを傾けることで画面スクロールできる
“ジャイロスクロール”というモードができました。
タッチスクリーンだけではなく、
ハードを利用して快適になるところが、
「Wii Uらしくて、いい感じになった」と思っています。
- 岩田
- タッチスクリーンだけで実現しようとすると、
何回も指を動かさなきゃいけないけれど、
そこをヒョイッと、Wii U GamePadを傾けるだけで
直感的にできる感じがいいですね。 - 津田
- 開発していく過程で、
そこらへんはどんどん変わっていきました。 - 岩田
- そう考えていくと、
Wii Uがブラウザーとして有利な点は、
すごくたくさんあるんですよね。 - 津田
- そうですね。
手元でさわって動かせる画面がありつつ、
離れた距離で眺めるだけに特化した画面もあるという
両立性がマッチしていると思います。 - 岩田
- 佐々木さんはどう思いますか?
- 佐々木
- 先ほどの動画の話にも関連するんですが、
「PCやスマートデバイスで見るのに最適なもの」と、
「大画面で大きくして見たいもの」という、
2種類のコンテンツがネットにはあるんですが、
Wii Uのブラウザーは、
その両方のニーズにぴったり合っている気がしています。 - 岩田
- ちょうどそういう時代になってきた、
ということですか? - 佐々木
- そうですね。逆に言うと、
これまでのインターネットは、
どうやってもテレビで見ることに
向いてなかったんじゃないかとも思います。 - 岩田
- 文字を読むことや、入力すること、
そして、何かをポイントすることは、
ぜんぶテレビが苦手なことなんですよね。
これは、画面が近いほうが有利なんです。
ところが、映像を見ることに関しては
圧倒的にテレビのほうが快適ですし、
とくに複数の人で楽しめる強みが出てきます。
Wii Uなら手元で文字の読み書きができ、
ポインティングもでき、
もちろん大画面テレビにも映すことができる。
そういった利点がつながることで、
みんなと共有して楽しめる
「ちょっとおもしろい存在になったな」
と思いますね。 - 津田
- そうですね。
ひとりだけのものじゃないという前提なんです。 - 岩田
- ある種、パーソナルなものなのに、
その部屋にいる人が行き来している感じがあります。
わたしはあのカーテン機能をはじめて見たとき、
とても衝撃を受けて、社内のあちこちで
「すごいものができた!」って
吹聴して歩いていたんです(笑)。 - 津田
- ありがとうございます(笑)。
- 岩田
- 隠すことを思いついただけでなくて、
カーテンの演出を付けるのがおもしろいなぁと。
でも、そもそもなぜカーテンだったんですか? - 津田
- 「テレビを隠す」ということを考えたら、
昔のブラウン管のテレビの時代を思い出したんです。 - 岩田
- え・・・? けっこう昔ですよね、それは(笑)。
テレビが家具のように扱われていたのは、
わたしの子供の頃の時代の話ですから。 - 津田
- そうです、そうです(笑)。
カーテンとか、扉付きの台に収納されていた、
「あの雰囲気を再現したいなあ」と思ったんです。 - 岩田
- 津田さんは、まだ生まれていない時代じゃないですか?
そんな発想が津田さんの世代から
出てくるっていうのは、ちょっと意外です。 - 一同
- (笑)
- 岩田
- でも、あのカーテンプレゼンテーションは、
きっといろんな家で、
おもしろいことをする人が現れそうですよね。
あれこそ“手元と向こう側の両方がある強み”になる気がします。