『Wii U』 Wii U Chat篇
1. 15年越しの想い
2. 「家族の幸せって、何だ?」
3. 気持ちを通じ合えるツールに
3. 気持ちを通じ合えるツールに
- 岩田
- 当初、竹田さんが話されていた、
「何か遊びの要素がほしい」という想いに対して、
『Wii U Chat』には、
Wii U GamePadのタッチスクリーンに
絵や文字を手描きできる機能が入りましたよね? - 民谷
- はい。通話のとき、話をはずませる意味で
何かひとつ一緒にできるものがほしかったんです。
Wii U GamePadに手描きできるということで、
自然な流れとしてそのアイデアが出てきました。 - 岩田
- あれを見てると、わたしはつい、
ちょっと前に放映されていた家庭教師のCMを
思い出してしまいます(笑)。
先生が熱くしゃべっているところに、
生徒がどんどんラクガキしていくという、
ああいうことが楽しめるわけですね。 - 民谷
- 実際にやってみると、想像していた以上に
手応えがありました。
相手の顔にラクガキすることは、
リアルではなかなかできませんけど、
「ちょっとやってみたかった」という感覚が
あるのかもしれません。
その場が和んで、会話がはずむことにつながりました。
普通なら「上司の顔にラクガキする」のは
絶対にありえないですけど、
開発中は、なぜか許されていましたし、
むしろ、ラクガキされるほうは
うれしい気持ちになっていたみたいです。 - 岩田
- おじいちゃんやおばあちゃんと
お孫さんが使っていることを想像すると、
なにか、わくわくしますね。
この機能は、最初から
この方向でスッとまとまったんですか? - 民谷
- じつは、最初、
シンプルなホワイトボード機能をつくろうとしたんです。
モード切り替えボタンを押すと
テレビ画面上にホワイトボードを表示するようにして、
お互いが自由に絵を描けるようにしました。
ただ、実際にやってみると、
真っ白なボードが目の前にあることで、
絵が得意ではないお客さんにとってしんどいですし、
相手にその様子を見られている状況ではなおさらでした。
それに、色数やペンの種類が多いほど
さまざまな表現ができるようになるんですが、
逆にその作業に集中してしまって、
かえって会話がはずまなくなってしまうんです。
そして、相手とのやりとりが減ってしまって、
疎外感を抱いたり、相手の表情を見られなくなったりして、
「一緒にいる感じ」が薄れてしまったんです。 - 岩田
- ああ、それじゃ、「家族の幸せ」から
逆に離れてしまいますよね。 - 民谷
- そうなんです。
逆に、下地にあらかじめ画像が準備されていることで、
ホワイトボードを目の前につきつけられていたときに感じた
「何か描かなければ・・・」という怖さがなくなりました。
「動いている画の上に描くのは難しそう」という
意見もあったんですけど、やってみると
描いたものに合わせて人が動く、
そういった新しい発見もありました。
- 岩田
- この感じだと、声に出して話すと
少し恥ずかしくて言えないような「本音」の気持ちを
うまく伝えられそうな感じがしますね。 - 民谷
- はい、「ありがとう」のひとことでも、
「声」と「表情」で伝えるのと
「手描き」と「表情」で伝えるのとでは、
受け手側が違った感覚を得られるというのを実感しています。
開発中に、NLGさんと真剣な話をしていて
険悪な雰囲気になったときに、
会話に割って入ることはできなくても、
そこで手描きでちょっといたずら書きをすることで、
気持ちが和らいで許せるような気持ちになれたということも
実際にありました。 - 岩田
- あと、描く様子が「リアルタイムで見ることができる」
というところも楽しさにつながっているんじゃないでしょうか。
このことと関連する話で言えば、じつは、この機能には
『いつの間に交換日記』()のスタッフが
かかわっているんですよね。(※17) - 民谷
- はい。ディレクターの今井(大二)さん()や
デザインを担当した北井(優)さん(※19)がかかわっているので、
さわり心地が近いものになっていると思います。(※18)
『いつの間に交換日記』=2011年12月に任天堂より配信開始されたニンテンドー3DS専用コミュニケーションツール。2012年5月からはニンテンドー3DS本体付属のSDカード内にプリインストールされている。
今井大二=ネットワーク事業部所属。『いつの間に交換日記』のディレクターを担当。くわしくは、社長が訊く『いつの間に交換日記』を参照。
北井優=ネットワーク事業部所属。『いつの間に交換日記』ではびんせんのデザインを担当。くわしくは、社長が訊く『いつの間に交換日記』を参照。
- 岩田
- あの手描きの線はちょっと光って、
ぼんやりにじんでいるような感じなんですけど
どうしてああいう表現になったんですか? - 民谷
- あの線は、北井さんの発案ですね。
最初は普通にベタッとしていたんですけど、
わたしから「どんな背景でもちゃんと見られるように」
というお願いをしたところ、
出てきたのがあれで、不思議と映えるんですね。 - 岩田
- ああ、そうなんですね。
「このペン、自然画の上に映えるなぁ」って、
そのとき妙に思ったんです。
やっぱり、プリクラと共に育った世代は
発想が違いますよね。 - 民谷
- 写真などでどんな色を合わせたら
どう映えるのか、
北井さんはわかってらっしゃいますね。 - 岩田
- やっぱり男だけでつくると、
そういうところまで
気が行き届かないんでしょうね(笑)。 - 一同
- (笑)
- 民谷
- 不思議だったのは、
それまでベタッとしたペンのときには
みんな絵を描いていたんですけど、
あのグロー(光る表現)にしてからは、
絵よりもむしろメッセージを描くようになったんです。 - 岩田
- あれって、あれで単純に絵を描くというより、
その背景にある画とつながるものを
「描きたい」っていう感じがするんですよね。 - 民谷
- そうですね。
そこは『Wii U Chat』ならではの
画と融合した、気持ちを通じあえるツールに
なっていると思います。 - 岩田
- 手描き以外にそういったツールは
ほかに何かあるんですか? - 民谷
- じつは、社内外から山ほどアイデアを
出しあったんですが、
最終的には入れませんでした。
いろいろ実際に試したこともありましたが、
シンプルさとわかりやすさには
かえってマイナスになってしまうんです。 - 岩田
- 「いったい何を目的にしたソフトなんだ」って感じですか?
- 民谷
- はい(笑)。
そこでまたコンセプトに立ち戻って、
入り口を簡単にすることと、
相手の顔を見て話す、ということにしぼって、
最後に残ったのがいまの形になっています。 - 岩田
- 機能はシンプルだけど、
すごくたくさんのことを試して、
「選び抜いた結果がこれです」ということなんですね。 - 民谷
- インパクトがあって、
最初、「これはいい!」って
思える機能もたくさんあったんですけど、
日常生活に溶け込んで、お客さんに
ずっと使い続けていただくことを考えたときに、
「本当に必要なのかどうか」を考えたんです。 - 岩田
- 一度は使うけど、二度は使わない機能って、
たしかに世の中にいっぱいありますからね。
そのことでわかりにくくなってしまって
敬遠する人が出てくる可能性があるなら、
「余計なものはないほうがいい」という
割り切りなんですね。 - 民谷
- そうですね。
やはり、できるだけ多くのみなさんに
使っていただきたいので。 - 岩田
- 渡辺さんはどうですか。
竹田さんの想いが実現した感じはありますか? - 渡辺
- はい。わりとよい形で、実現できたと思っています。
竹田さんが最初に「テレビ電話をテーマにしよう」と
おっしゃっていたNINTENDO64の頃は、
まだハード的にも通信環境的にも
ハードルが高かったと思うんです。
それがいまはおじいちゃんの家にも
当たり前にネットワークがつながっていて、
Wii Uが1台あれば、その日からすぐに使える。
そこがやっぱり「よかったのかな」と思っています。
- 岩田
- そこで大事なのは、
竹田さんの最初の想いにもありましたけど、
「ニンテンドーeショップからダウンロードできます」ではなくて、
最初から標準搭載されるということに
こだわったことでもありますよね。 - 渡辺
- そうですね。
“竹田さんの想いを聞く会”でも、
この機能はお互いに入れている必要があるので、
「最初から入っていなければいけない」という
話がありました。 - 岩田
- 買ったその日から、ネットにつなぐと、
『Wii U Chat』のソフトが、
ネットワークから自動的に
ダウンロードされる形になっているんですよね。 - 渡辺
- そうですね。
- 岩田
- テレビ電話があまり普及しなかった理由に、
「部屋を片付けないとつなげない」
ということもあったと思うんですが、
今回、カメラは手元についていて
自由な方向に向けられますから、
都合の悪いところは映さないようにできますし、
そのうえで、「相手を大画面テレビに映し出すこともできる」
というバランスがおもしろいと思っているんです。
- 民谷
- そうですね、手元にカメラがあるので、
持っている人の表情が大きく映りますし、
それを見ている家族の人がときどき画面にあらわれるという、
おもしろさもあると思います。 - 岩田
- 「Wii U GamePadプレイスタンド」や
「Wii U GamePad充電スタンド」にセットすると、
Wii U GamePadを持たずに使うこともできますから、
ぜひ1対1だけじゃなく、
「みなさんで使ってもらえたらいいなぁ」と
とても強く思います。 - 民谷
- はい、そうですね。
家族と家族だけじゃなくて、
たとえばなかなか外に出られない
育児中のお母さん同士などのお役に立てたり、
リビング同士をつなげることで、
いろんな使いかたができるんじゃないかと思っています。 - 岩田
- 本当にいろんな利用シーンがありそうですね。
頑張って標準搭載した意味が、
これからきっと活きてくると思います。
今日はありがとうございました。 - 渡辺・民谷
- ありがとうございました。