『Wii U』 ZombiU(ゾンビU) 篇
1. 2つの“ゾンビ”と“U”
2. 「何を活かし、何をあきらめるか」
3. 2画面を使い分ける
4. 「ゾンビはどう?」
5. マジック・モーメント
6. 「難しすぎて・・・」
7. 「Congratulations!」
1. 2つの“ゾンビ”と“U”
※この社長が訊くインタビューは通訳を介して行われたものですが、
全文を日本語にして掲載しています。
- 岩田
- わたしは今日、フランスはパリにある
ユービーアイソフト()さんの本社におじゃましています。
ここは、その最上階にある会議室です。
“社長が訊く”はこれまで約200回ほど
さまざまな人たちのお話を訊いてきましたが、
こうしてヨーロッパの会社におじゃまして
お訊きするのは、今回がはじめてです。
今日はWii Uソフト『ゾンビU』のお話とともに、
ユービーアイソフトさんのこともあわせて
いろいろお訊きできればと思っています。
それでは、集まっていただいたみなさんから
自己紹介をしていただきたいと思います。
イブさんからどうぞ。(※1)
ユービーアイソフト=フランスに本社を置くゲームソフト開発販売会社。
- イブ
- ユービーアイソフトのCEOを務める、
イブ・ギルモです。
本日はお越しいただき、ありがとうございます。
お迎えできて、とても光栄です。
- 岩田
- こちらこそ。
今日はよろしくお願いします。 - イブ
- よろしくお願いします。
わたしたちは、任天堂さんがこれまで
成し遂げてきたことに、感銘を受けてきました。
そこにはゲームに対する思想やこだわり、
そこから多くのプレイヤーが感じる
興奮と感動がありました。
この業界でユービーアイソフトを立ち上げたとき、
わたしたちもそういった目標をもって、
フランスはもとより
「世界中から広く愛される新しい商品を生み出したい」
そう考えました。
1986年にその第1歩として、
最初につくったゲームは『ゾンビ』でした。 - 岩田
- イブさんがユービーアイソフトの創立時に
ゾンビのゲームをつくっていたんですか? - イブ
- はい。もうだいぶ前のことですが、
最初は Amstrad CPC()版としてフランス国内で発売し、
その後、Commodore 64(※3)に移植され、
ドイツなど欧州諸国へと展開していきました。
またElite Systems社(※4)が移植した
『Commando』(※5)と
『Ghosts’ n Goblins』(※6)の
販売をしていました。(※2)
Amstrad CPC= Amstrad社が1984年に発売した8ビットのホームコンピューター。
Commodore 64=Commodore International社が1982年に発売した8ビットのホームコンピューター。
Elite Systems社=1984年に設立されたイギリスのゲーム開発会社。当時はアーケードゲームを家庭用コンピューターゲームへ移植する開発会社として知られていた。
『Commando』=カプコンよりリリースされた業務用アクションゲーム『戦場の狼』の海外向けコンシューマー移植版。移植だがゲーム内容はハードのスペック差により大きく異なっている。
『Ghosts’ n Goblins』=カプコンよりリリースされた業務用アクションゲーム『魔界村』の海外向けコンシューマー移植版。移植だがゲーム内容はハードのスペック差により大きく異なっている。
- 岩田
- それは興味深いお話ですね。
ユービーアイソフトさんが
はじめて出したソフトが『ゾンビ』で、
Wii Uのメインローンチタイトルとして
今年また新たに『ゾンビU』をつくる。
偶然の一致にしては、
ちょっとできすぎているくらいです(笑)。 - ザビエ
- ザビエ・ポワです。
わたしはフランスのパリ、アヌシー、モンペリエ()の
開発スタジオの代表取締役を務めています。
今回の『ゾンビU』は、
モンペリエの開発スタジオで開発しています。
どうぞよろしくお願いします。(※7)
アヌシー、モンペリエ=アヌシーはフランス東部の都市。モンペリエはフランス南部の都市。
- 岩田
- こちらこそ、よろしくお願いします。
- ザビエ
- 任天堂とフランスの開発スタジオの間には
以前から深い結びつきがありまして、
Wiiのローンチタイトルとして発売した
『レッドスティール』()はパリで、
『ラビッツ・パーティー』(※9)は
モンペリエで開発をしています。(※8)
『レッドスティール』=2006年にWiiと同時発売されたアクションゲーム。一人称視点で、Wiiリモコンを剣に見立てて戦う。
『ラビッツ・パーティー』=2006年12月にWii用ソフトとして発売されたアクションゲーム。ユービーアイソフトのマスコットキャラクター、「レイマン」が登場する。
- 岩田
- Wiiを立ち上げたとき、
「Wiiリモコンをいかに活用するか?」という研究を
ユービーアイソフトさんでもかなり早い段階から
実験してもらっていたんですよね。 - ザビエ
- そうですね。その経験が、
さきほどの2タイトルに活かされています。
ユービーアイソフトは任天堂さんが
新しいハードをつくり出すたびに
そこに込めた夢や楽しさを
いちはやく見いだして、そこに
「自分たちならではの
クリエイティビティ(創造性)を加えたい」
と思ってきました。つまり
「任天堂さんが新しいハードを出す」
ということは、我々にとっては
「まったく新しい出発を求められること」
を意味するんです。 - 岩田
- 任天堂の新しいハードは、
「任天堂からみなさんへの挑戦でもある」
ということになりますか? - ザビエ
- まさにそのとおりです(笑)。
それまでに積んだ経験をリセットして、
新しい遊びかたを考えます。
Wiiで我々はたくさんのことを学び、
活用してきました。 - 岩田
- ザビエさんはWiiで、世界的に人気を博した
『JUST DANCE』()
シリーズをつくられていますよね。
そのことものちほどくわしく、
お話を訊かせてください。(※10)
『JUST DANCE』=2009年より展開されているダンスゲームシリーズ。日本では2011年10月に『JUST DANCE Wii』、2012年7月に『JUST DANCE Wii 2』が任天堂より発売されている。
- ギオム
- ギオム・ブルニエです。
今回、モンペリエスタジオで
『ゾンビU』のプロデューサーを務めました。
ユービーアイソフトに勤めて10年以上経ちますが、
わたしのゲームへの情熱は
スーファミの『F-ZERO』()からはじまったので、
今日、自分がこの場にいることに、
すごく感激しています。(※11)
スーファミの『F-ZERO』=スーパーファミコンと同時に発売された近未来レースゲーム。1990年11月発売。
- 岩田
- 『F-ZERO』が好き、ということは、
ギオムさんはきっと、かなりストイックなゲーマーですね(笑)。
『ゾンビU』の前は、どんなソフトを
つくってこられたんですか? - ギオム
- 『From Dust』()というゲームの
制作に携わっていました。
これもモンペリエスタジオでつくられたもので、
非常に情熱的な経験をしました。
その前にはトム・クランシーの小説を原作にした
『スプリンターセル 二重スパイ』(※13)や
『ゴーストリコン』(※14)などですね。
もっとさかのぼると『XIII』(※15)という
セルシェーディングのFPS(※16)も担当しました。(※12)
『From Dust』=Xbox360向けに2011年にダウンロード販売され、PCやPS3などに展開しているリアルタイムストラテジーゲーム。
『スプリンターセル 二重スパイ』=作家トム・クランシーの監修によるステルスアクションゲームシリーズ。
『ゴーストリコン』=トム・クランシー監修による近未来ミリタリーアクションゲームシリーズ。
『XIII』=ベルギーの人気コミックを題材にした一人称視点のアクションシューティング。
セルシェーディングのFPS=アニメ調のグラフィック処理を施した、一人称シューティング(ファースト・パーソン・シューティング)。
- 岩田
- ギオムさんが、ゲームを遊ぶ側から
つくる側に変わることを決心する
きっかけは何だったんですか? - ギオム
- わたしはプレイヤーとしてゲームを遊ぶたびに
「ここはもっとこうしたほうがいい」と
思うことがけっこうあったんです。
それで、遊ぶだけでは飽きたらず、
「アイデアを実装することのできる
チームのメンバーでありたい」という願いが、
ゲーム業界にわたしを引き入れたんだと思います。
ちょっとクレイジーな業界ですが、
わたしにとっては最高の業界です(笑)。 - 岩田
- はい(笑)。
では、ガブリエルさん。 - ガブリエル
- ガブリエル・シュレーガーです。
『ゾンビU』のストーリーデザインディレクター兼
リードライターです。
ユービーアイソフトには2006年から勤めています。
ギオムとは『From Dust』など、
いくつかのゲームで一緒に仕事をしています。
また『ラビッツ・ゴー・ホーム』()では
今回の『ゾンビU』の開発ディレクターと
一緒に仕事をしています。(※17)
『ラビッツ・ゴー・ホーム』=ユービーアイソフトのマスコットキャラクターのひとつ、「ラビッツ」が登場するコメディーアクション。2009年にWii用ソフトとして発売。
- 岩田
- ガブリエルさんはどういう経緯で
ゲームをつくる仕事につかれたんですか? - ガブリエル
- わたしも昔からゲーマーでした。
とくにアクションアドベンチャーが大好きで、
それでこの業界に入りました。
はじめはサウンドデザイナーとして、
Cryo社()というメーカーに勤めていました。
その後ゲームデザインを学んでいって・・・。(※18)
Cryo社=1992年に設立されたフランスのゲームソフト開発販売会社。
- 岩田
- はじめはサウンドからこの世界に入られたんですか。
- ガブリエル
- はい。 わたしはミュージシャンなんです(笑)。
だからまず、サウンドを担当させてもらいつつ、
ゲームデザインを独学で習得して、
たたき上げでいまの“書く”仕事へと進みました。
わたしは映画やドラマではなく、
インタラクティブに展開していくゲームの
シナリオがやりたくて、情熱を注いできたんです。 - 岩田
- ゲームのシナリオというのは、
ストーリーを語るということや、
ナレーションを入れることひとつをとっても
他の媒体とはものすごくちがいますよね。 - ガブリエル
- はい、ぜんぜん、ちがいますね。
- 岩田
- ゲームに代表されるインタラクティブな世界の
シナリオの構築術というものは
まだあまり確立されていませんから、
「学ぶ」という点では苦労されたと思いますが、
どうやって自分の力を高めていったんですか?
- ガブリエル
- わたしにはむしろそこがよかったんです。
たとえるなら、目の前に制約のない
広々とした道が一本あるだけなんですね。
そこに新しい方向性を指し示すものが現れたとき、
ストーリーを創造して語るための
まったく新しいパラダイム()が広がるんです。(※19)
パラダイム=物の見えかたや、とらえかた。
- 岩田
- はい。
- ガブリエル
- そういう意味では、
今回Wii Uは2つの画面を使って、
「よりシネマグラフィック的な体験が
生み出される世界をテレビの外側に
創造したんじゃないか?」
と思っています。 - 岩田
- それは、あとでくわしくうかがいますけど、
Wii U GamePadのことですね。 - ガブリエル
- はい、Wii U GamePadはこのゲーム体験において
「核となる重要な存在だ」と思います。
Wii U GamePadなしではこのゲームは
生まれることはなかったと思います。 - 岩田
- 『ゾンビU』自体が、
Wii U GamePadがあるWii Uのために、
「ゼロから設計された」ということですね。