『Wii U』 ZombiU(ゾンビU) 篇
1. 2つの“ゾンビ”と“U”
2. 「何を活かし、何をあきらめるか」
3. 2画面を使い分ける
4. 「ゾンビはどう?」
5. マジック・モーメント
6. 「難しすぎて・・・」
7. 「Congratulations!」
2. 「何を活かし、何をあきらめるか」
- 岩田
- イブさん、まず最初に
ユービーアイソフトという会社について
少しお訊きしたいのですが、よろしいでしょうか? - イブ
- もちろんです。
- 岩田
- イブさんがユービーアイソフトを立ち上げて、
最初の『ゾンビ』をつくったとき、
会社は何人くらいからはじまったんですか? - イブ
- ユービーアイソフトは、
じつはわたしの兄弟5人でつくった会社なんです。
最初はパリの南部を拠点に、
兄弟を含めた約20人からスタートして、
それが現在は従業員7000人、
世界26拠点および22か所の制作スタジオを
展開するまでになりました。 - 岩田
- 最初に『ゾンビ』を出したときにはもう、
ユービーアイソフトという社名だったんですか? - イブ
- はい、そうです。
この名前は、わたしの兄弟の
ジェラールが考えたもので、
「Ubiquity」という言葉に由来します。
「広く、いつ、どこにでも存在する」という意味で、
「世界中どこにでも在りたい」という
願いが込められています。 - 岩田
- でも、イブさんたち兄弟は
当時、どうしてコンピューターで
ゲームをつくろうと思ったんですか? - イブ
- わたしたち自身がゲームに
興味をもっていたことはもちろんですが、
まわりの子供たちのゲームへの熱狂ぶりに
早くから注目していて、
ビジネスとしての可能性を感じていたんです。
「自分たちの住むブルターニュ()のみならず、
フランス全域、ひいては海外まで
大きく広がっていくにちがいない」と。
そこでわたしたち兄弟の中で、
ひとりはコンピューターのプログラミング、
ひとりはゲームのクオリティ管理というように、
それぞれが得意とする分野を
手分けして仕事をするようになっていきました。(※20)
ブルターニュ=フランス北西部の地域の名前。
- 岩田
- 5人がそれぞれの能力を活かして
協力しあい、それが会社という組織に
なっていくのがユニークですね。
そのとき、みなさんは何歳くらいでしたか? - イブ
- 最年少が21歳で、最年長が31歳でしたね。
年少と年長で10歳の年の開きはありましたが、
全員がゲームの世界に魅了されていました。 - 岩田
- 「遠く離れた異国の地にも
同じように考えていた人たちがいたんだな」と
とても共感するところがあります(笑)。
わたしも非常に小さなソフト開発会社から
仕事人生がはじまったんです。 - イブ
- 兄弟は、ゲーム業界の黎明期にあった
「小さいけれどダイナミックな可能性」に
大きな夢を感じていました。 - 岩田
- そこが、まさにそっくりなんですね。
かたや「世界中のどこにでもありたい」と
“Ubiquity”からUBIという名前をつけ、
かたや「IBMの一歩先を行く」ことをめざして
HAL()と名付けられたわけですから(笑)。(※21)
HAL=株式会社ハル研究所。『星のカービィ』や『大乱闘スマッシュブラザーズ』シリーズなどを手がけてきたソフトメーカー。岩田は当初アルバイトのプログラマーとして参加し、のちに社長を務めた。
- 一同
- (笑)
- イブ
- でもそれは、非常に大切なことです。
ゲームの世界ではつねに、
さまざまなチャンスが生まれ続けています。
それはかけがえのない、大きな利点だと思います。 - 岩田
- わたしがなぜ、イブさんにシンパシーを感じるのか、
ちょっと謎が解けた気がします。
一方で、ザビエさん。
さきほどもお話が出ましたが、
ザビエさんたちはWiiで
『JUST DANCE』をつくられましたよね。 - ザビエ
- はい、そうです。
- 岩田
- いまでこそダンスゲームというジャンルは
広く定着していますけど、
『JUST DANCE』がこれほどの
ムーブメントを起こすということは、
最初は誰も予想していなかったと思うんです。
今日のメイントピックではないんですが、
『JUST DANCE』がどのように生まれたのか、
訊かせてもらえませんか? - ザビエ
- はい。じつは『JUST DANCE』のベースは、
『ラビッツ・パーティー』にあった、
リズムにのって遊ぶミニゲームなんです。
これはリズムに合わせて動きを楽しむ
音楽アクションゲームで、このときはまだ
ダンスを意識したものではなかったんですが、
プレイしている姿がまるで踊っているような
印象があったので、Wiiリモコンで
試作してみることにしたんです。 - 岩田
- はい。
- ザビエ
- それまでにもスキルやリズム感が
求められるダンスゲームはありましたが、
どれも正確には「踊っている」というより
「正しく動く」ことに重きが置かれていたんですね。
我々がそこで考えたのは
「画面の振り付けをまねていくだけで、
プレイヤーが本当に踊っているかのような
楽しさを味わえるものにしよう」
ということでした。
このとき大事にしたのは、たとえば
トラッキング()の精密度が多少ずれていても、
それはゲーム的に大きな問題には
しないことにしたんです。(※22)
トラッキング=追跡、追尾するという意味。ここではダンスの動きに対してのWiiリモコンの動きを指す。
- 岩田
- つまり、多少動作がちがっても、
ゲームルール上はОKにしたわけですね。 - ザビエ
- そうです。いくらミスをしても
途中でゲームオーバーになることはなく、
楽しく1曲踊ってもらうシステムにしました。
第1作をリリースしたとき
「忠実にトラッキングされていない」という
レビューを多くいただいたんですが、
それは、我々が意図的に狙って、
調整した結果だったんです。 - 岩田
- たぶん最初に遊んでくれたお客さんは
「これまでのダンスゲームとちがうじゃないか」と
ある種とまどったんでしょうね。 - ザビエ
- もちろん、プレイヤーのアクションの
正確さはゲーム側でチェックしているので、
よりうまく踊るための手助けは行いますが、
それと「ゲームを楽しむ」ということは
完全に切り分けて、ちょうどよい
バランスになるボーダーラインを見つけたんです。 - 岩田
- そこは、もしダンスの判定が、
「完璧に動きをまねることがベスト」という
ものだったら、最終的な世間の評価は
まったくちがっていたでしょうね。 - ザビエ
- そうですね。
最初は(ゲームメディアから)厳しいレビューを受けた
『JUST DANCE』でしたが、
その後、だんだんとご支持をいただくようになってきて、
現在に至る、というような感じです。 - 岩田
- おそらく、ユービーアイソフトさんは、
Wiiリモコンを使ったゲームにおいて、
新しいフランチャイズ()を最も成功させた
ソフトメーカーさんだと、わたしは思っているんです。
でも、なぜユービーアイソフトさんが
抜きんでた結果を出せたんでしょうか?
わたしはそこに、すごく興味があるんです(笑)。(※23)
フランチャイズ=特定の地点で何かをする自由あるいは権利を意味する。ここではWiiにおいて展開するソフトおよびサービスを指す。
- ザビエ
- それはおそらく、ユービーアイソフトが
「任天堂がWiiでめざしたもの」を、
一緒に共有できていたことが大きいと思います。
Wiiリモコンも、Wiiモーションプラス()も
開発の初期段階から、本当に深いところまで
任天堂のチームと話し合った記憶があります。
そのうえで、ユーザーさんの声に
注意深く耳を傾けてきたことが、
ヒットに結びついたのではないでしょうか。(※24)
Wiiモーションプラス=ジャイロセンサーを内蔵した周辺機器で、Wiiリモコンに接続して使用する。現在では、WiiリモコンにWiiモーションプラスの機能を内蔵した「Wiiリモコンプラス」を発売中。Wii本体セットに含まれるWiiリモコンも「Wiiリモコンプラス」へと切り替わっている。
- 岩田
- 「任天堂がめざしていたもの」とは、
具体的にはどのような理解をされていますか? - ザビエ
- Wiiの企画当初からの印象として、
「大事なのはトラッキングの精密さではなく、
体や手を使った新しい遊びかたなんだ」
ということです。
それを我々は、Wiiのテニスゲームを見て、
早い段階で理解したんです。 - 岩田
- まさに、そのとおりですね。
任天堂は『Wiiスポーツ』()の企画段階で、
Wiiリモコンで「できること」と「できないこと」を
すごく注意深く、分けていたんです。
おそらくユービーアイソフトさんは数々の実験で
その見極めがすごく上手になっていて、
その経験から『JUST DANCE』で
「何を活かし、何をあきらめるか」といった判断を
絶妙なバランスで取り入れることが
できたんでしょうね。(※25)
『Wiiスポーツ』=『Wii Sports』。「テニス」「ゴルフ」「ボウリング」「ベースボール」「ボクシング」の5種目を収録したスポーツゲーム。2006年12月、Wii本体と同時発売。
- ザビエ
- 「遊ぶ人自身が楽しめるのはもちろんで、
多人数プレイでより楽しく、
そしてそれをリビングで見ている人も楽しい」
それが、Wiiの基本コンセプトだと思います。
我々が『JUST DANCE』でとった
アプローチは、まさにこれと同じものでした。
世の中にはダンスの上手な人や下手な人、
目立ちたがりの人もいれば、
恥ずかしくて踊れない人もいますよね。
でも我々は、その全員が踊っていることを実感し、
楽しめることを大事にしたんです。 - 岩田
- こうして振り返ってみると、
『JUST DANCE』というゲームは
いくつかの要素とアプローチが、
本当にまるで吸い寄せられるかのように
集約されて、できていった感じがしていますね。