『Wii U』 ZombiU(ゾンビU) 篇
1. 2つの“ゾンビ”と“U”
2. 「何を活かし、何をあきらめるか」
3. 2画面を使い分ける
4. 「ゾンビはどう?」
5. マジック・モーメント
6. 「難しすぎて・・・」
7. 「Congratulations!」
5. マジック・モーメント
- 岩田
- 『ゾンビU』のゲームデザインについて、
もう少し突っ込んだお話をお訊きしたいんですが、
今回、あえなくやられてしまったプレイヤーは
「自分がゾンビとなってしまう」という、
いままでにない変わった設定がありますよね。 - ギオム
- ゾンビをテーマにすると決まったとき、我々は
「クラッシックなゾンビ映画と同じ感情を
プレイヤーに味わってもらいたい」と考えました。
登場人物がひとりずつ順番にやられていき、
そしてあるときは、ゾンビとなり、襲い来る友を
倒さなければ「自分がやられてしまう」という、
究極の選択、「葛藤」といった感情です。 - 岩田
- 「よりゾンビらしいテーマとは?」
を追求していったわけですね。 - ガブリエル
- でもそれはある意味、
ゲームのプレイヤーとしては
「やられたくない」と思う気持ちがありつつ、
ゾンビストーリーとしては、
「次は自分の番だ!」と無意識に、
襲われるのを期待している気持ちもあると思うんです。
そういったフィクションストーリーならではの
不思議な感覚も満たす必要がありました。 - ギオム
- ゲーム中、プレイヤーキャラがやられてしまうと、
現実のプレイヤーの手を離れ、
変わり果てた姿でロンドンを徘徊し、
新たな獲物を探しはじめます。 - 岩田
- それは奇妙な気分でしょうねぇ(笑)。
現実のプレイヤーはそのとき
どうすればいいんですか? - ギオム
- 現実のプレイヤーは、やられてもなお、
再度チャレンジを望みますから、
当然、そこで終わりにするわけにはいきません。
これに対する答えはきわめて明快で、
別の新たな生存者として、
その世界に呼び出される仕組みにしました。 - 岩田
- まったく別の人間としてですか?
- ギオム
- そうです。性別や年齢、人種など
さまざまなプレイヤーキャラが現れます。 - ザビエ
- ひとつには、やられてゾンビになってしまったら
やられる前のシーンからやり直し・・・
というゲームの世界の暗黙のルールを、
くつがえしたかったんです。
- 岩田
- へえ~、それは設定上、
単に「プレイヤーキャラが変わる」
というレベルではないんですね。 - ザビエ
- はい。プレイヤーキャラが倒されたとき、
持っていたバックパックは、
まさにそのままで、ゾンビと化した
前のプレイヤーキャラが持った状態になっています。
新たにその世界に呼び出されたプレイヤーキャラは、
何も持たない新たな生存者として、
生き残りをかけてそのバックパックを
1体のゾンビから奪い取るところからはじまります。 - 岩田
- ああ、つまり
前のプレイヤーキャラだったゾンビを
自分の手で倒さなくてはいけないんですか。 - ガブリエル
- そのとおりです。
『ゾンビU』の世界において、
プレイヤーがその物語の主人公として
最後まで生き残る主人公である保証は、
「限りなくゼロに近い」と思います。 - 岩田
- なるほど・・・。
すると、ストーリーを見せていく際、
けっこう工夫が必要だったんじゃないですか?
「ひとりの主人公が途中、さまざまな経験をして、
その結果、最終的に目的を達成する」といった、
一本道視点のストーリーにはできないわけですから。 - ガブリエル
- そういう意味では『ゾンビU』は
これまでに他のゲームではまったくなかった
新しいストーリーテリング()の形になったと思います。
今回のプレイヤーキャラは
従来の意味での主人公にはなりえないので、
ストーリーは周囲の環境を変化させることで
展開していくものになっています。
ゾンビがはびこる世界が
どのような結末を迎えるのかを、
現実のプレイヤーはさまざまに姿を変えつつ、
視覚的に体験するんです。(※36)
ストーリーテリング=コンセプトや思いを、それらを想起させる物語を通して伝えること。
- 岩田
- ある意味、主観視点ではない、
客観的な世界をまるごとつくったわけですね。
その中に次々といろんな出来事を仕掛けて、
プレイヤーはそれを体験することで、
全体のストーリーを理解するという
つくりかたをされているんですね。 - ガブリエル
- そうです。
今回のストーリーテリングにおいて
きわめて重要だったのは、
「ステージデザインの持続性」でした。 - 岩田
- それは具体的にはどういうことですか?
- ガブリエル
- 新しい生存者がゲームを再開したとき、
前のプレイヤーキャラが解除したドアや、
発見したミッションアイテムは
「出発地点となる隠れ家にある」
といった恩恵を受けられます。
倒したゾンビは基本的に生き返ることはありません。
そして前のプレイヤーが
やられた場所にたどり着くことで、
そこからストーリーがふたたびつながっていく、
いわば“リレー”のようなものです。
- 岩田
- そう聞くと一見、
きれいで自然な答えではあるんですが、
その答えを出すまでにはきっと、
たいへんな苦労をされていますよね? - ガブリエル
- えー、言わないほうがいいかもしれませんが・・・
思いつくのはじつは簡単でした(笑)。
ただ「もしこうだったら、こうなる」という
いろんな“もしも”がプロジェクトの後半になって
途方もない量になってしまったため、
そのすべてに対処するのが、かなり複雑な作業でした。
人のとっさの判断というものは、
ときに思いも寄らぬことを起こすものなので(笑)。 - ザビエ
- 本当にたいへんな作業でしたが、
でもそこは、テストプレイと
プロトタイプがおおいに役立ちました。 - 岩田
- 一方で、今回はおそらくイブさんから
「絶対にローンチタイトルにするぞ」という
至上命題が出ていたと思うんです。
その「タイムリミット」と「新しいチャレンジ」、
そして「いいものにするためのこだわり」と、
3つの要素がせめぎ合っていたと思うんですけど、
そこはどうやってクリアしたんですか? - ガブリエル
- それは・・・「あまり寝ない」ことですね。
- 岩田
- あははは(笑)。
それは世界共通ですかね。 - ギオム
- もうひとつ言うと、チームのメンバーは
毎回少しずつゲームを披露するたびに得られる
ユーザーやメディアの評判に、
おおいに刺激を受けてきました。
なかでもE3は、大きな後押しになりました。
チームみんなが作業を続け、正しい決断をして、
ときに必要となる仕様のカットを適切に行うため、
ユーザーのみなさんの反応が、
モチベーションのカギだったのはまちがいないです。 - 岩田
- 「お客さんの反応からエネルギーをもらう」
というのは、いいゲームができるときの
条件でもあるんですね。 - ギオム
- 本当にそう思います。
さらに言うと、「発売日」は我々にとって、
「成功のための最たる要素」であり、
チームはそこに向かって本当に一致団結しました。
最終的には大きな仕様のカットもなく、終えられました。
当初は「一部をカットせざる得ないのでは・・・」と
予想していたところはあったんですが、
Wii Uの力に助けられ、実際は最小限ですみました。 - ガブリエル
- まあでも、もしいまから半年前に、
「これが終わると思う?」と聞かれていたら、
答えは「ノー」でしたね。 - 一同
- (笑)
- 岩田
- いや、わたしから見ても実際、
「よくこれだけの期間とタイミングで
これほどのものを詰め込めたなあ」と思います。
そしていろいろなイベントなどの機会に
『ゾンビU』が発表されるたびに、
すごくよい反応があった印象がありました。 - ギオム
- 我々にとってその象徴的な例が、
E3で見せたデモにあったんです。
それは、クローゼットからゾンビが
「わぁッ!」と飛び出してプレイヤーを驚かすという、
非常にシンプルで古典的な方法でした。
これを開発チームでまず実装してみたものの、
「こんなのぜんぜん怖くないよ。
ただゾンビが飛び出してくるだけじゃないか」
と言われて、誰もが自信を失いかけたんですが、
それでも我々はその瞬間のために、
研究を重ねて、デモを完成させたんです。 - 岩田
- それが、E3ではどんな結果に?
- ギオム
- 人々がその瞬間、Wii U GamePadを
落としそうになるのを、何人も目撃しました。 - 一同
- (笑)
- ギオム
- 本当に驚きました。
そして、うれしかったんです。
チームの中で長く開発をしていると、
自分のしていることに確信が持てなくなったり、
多くの不安や恐怖を抱えてしまうんです。
でも我々がE3から戻り、すぐにチームみんなに
“その瞬間”のことを伝えたら、
イスから転げ落ちる者もいたくらいでした(笑)。
この出来事はチームの空気を確実に変えて、
“その瞬間”をつくり続ける自信を与えてくれました。
これはわたしが今回『ゾンビU』を
開発しているなかでも最も忘れられない、
すばらしい経験のひとつです。
- 岩田
- 何かをしたときに“マジックモーメント”が
起こって、そのゲームの中に本当に
「人の心が入っていく瞬間」というのがあるんですね。
それが、E3の発表のあとも、
ユービーアイソフトさんが新しい情報を出すたびに、
繰り返し広がって、それがお客さんにも、
開発のスタッフの方にも、
両方に響いていった感じがしますね。