『Wii U』 ZombiU(ゾンビU) 篇
1. 2つの“ゾンビ”と“U”
2. 「何を活かし、何をあきらめるか」
3. 2画面を使い分ける
4. 「ゾンビはどう?」
5. マジック・モーメント
6. 「難しすぎて・・・」
7. 「Congratulations!」
6. 「難しすぎて・・・」
- 岩田
- 『ゾンビU』が『Killer Freaks』として
つくられた当初、「ハードコアゲーマーを
ターゲットにされていた」とお訊きしましたが、
最終的にそこのバランスは
どのようなものになっているんですか? - イブ
- 一般的に、新しいテレビゲーム機の
導入時期には、はじめてそのコンソールにふれる
ユーザーを意識したゲームを出されることが
多いと思いますが、我々は基本的に
「ゲームのクリアが難しいこと」が、
大きなモチベーションになると考えています。
- ガブリエル
- つまり、わたしたちは
プレイヤーがゲームに熱中してもらうための
方法のひとつに、「何か失うものを与えること」
があると考えているんです。
その新しいチャレンジをやめて、シンプルで
スキルの必要がない方向に進んでしまうと、
プレイヤーは飽きて、離れていってしまうんです。 - 岩田
- ビデオゲームの原点は、
やられてしまったときに、「もう1回!」と思う、
ふるい立つ気持ちにあるんですよね。
そのやられかたが理不尽だと、
「無理!」となってやる気が起きないけれど、
そこがうまくできているゲームは、難しくても、
何度もチャレンジしたくなるんです。 - ギオム
- そのとおりです。
- 岩田
- やられてしまった原因が自分にあって、
そこを理解してもう1回やれば
「先に進めるんじゃないか」と思えるし、
むしろそれは難しいほうが
チャレンジしがいがあるわけですからね。
最終的には「自分との戦い」になるという・・・。 - ガブリエル
- そうですね。だからやみくもに
クリアを困難にしたいわけではないんです。
今回の『ゾンビU』でいうと、
Wii U GamePadをはじめて手にしたとき、
とまどったり、難しいと思ったりするユーザーが多いかもしれません。
誰にとってもはじめての経験ですから。
ただその使いかたを覚え、使いこなしていく楽しさは、
これまでのハードでは得られなかった
新しい感情を生んでくれると思います。 - 岩田
- はい。
- ギオム
- ただじつは『ゾンビU』には、
「サバイバルモード」という
「一度やられたら完全にゲームオーバー」という、
難易度の高いモードも用意しています。
やられてしまうとスタッフロールが流れ、ジ・エンド。
一切のコンティニューはできません。
セーブなんてもちろんできません(笑)。
ただ、わたしはこれこそが、
このゲームの「本来の遊びかたではないか?」
と思っています。
倒されれば、本当にすべてを失うわけで、
一体一体のゾンビたちと戦うことが、
「最大の脅威」になるわけです。 - 岩田
- 完全に「真のハードコアゲーマー向け」ですね。
でも、緊張感は最高でしょうね(笑)。 - ギオム
- このモードは、敵の強さなどは
ノーマルモードと何ら変わりませんが、
開発スタッフでも気を抜いた瞬間、
やられてしまうことが多々ありました。
逆に言えば、ゲームはフェアなバランスで
細部まで調整を行っているので、
そこでやられてしまう原因は、
プレイヤー自身にあるんです。
だからさきほど言われたように、
「次はもっとうまくやるぞ!」といった
気持ちがわいてきます。 - ザビエ
- そういう意味では、
このゲームは非常にプレイヤーへの
要求度が高いものになっているのは事実です。
しかしそのぶん、生き残りに必要なものはすべて
Wii U GamePadの中に備わっているんです。
大事なことは、いかにそれらを
「うまく使いこなせるようになるか」
それを習得していくことなんです。 - 岩田
- ある意味、頭と指に経験を重ねて、
現実に自分自身をスキルアップさせて
いくことでもあるわけですね。 - ザビエ
- そうですね。でも、付け加えて言うと、
じつはこの「サバイバルモード」は、
ゲームが完成するほんの数日前まで、
そもそもクリアできるかどうか、
わからなかったんです。 - 岩田
- ええ? そうなんですか?(笑)
- ザビエ
- 誰かが最後までたどり着いたのは、
たしか完成日のほんの2、3日前だったと思います。
「サバイバルモード」のデバッグのコメントには、
わたしの開発者人生の中で、はじめて目にする
バグ報告が書いてありました。
「難しすぎて、クリアできません」と(笑)。
- 岩田
- これを読んでいる世界中のゲーマーのみなさん。
これはユービーアイソフトからみなさんへの
まぎれもない挑戦状じゃないですか。 - 一同
- (笑)
- ギオム
- じつは、最初に誰がサバイバルモードを
クリアしたかという情報は、
ランキングに表示されて、
わたしたちも知ることができます。
どれくらいでクリアする人が出てくるか・・・。 - ガブリエル
- そして、そのために何人が犠牲になるかも(笑)。
- ザビエ
- 念のために言うと、
「これはサバイバルモードにかぎっての話」です。
ノーマルモードはもちろん普通に遊べますので、
誤解のないように・・・。 - 岩田
- でも、「サバイバルモード」をクリアできたら、
相当、自慢ができるわけですね。 - 一同
- (口々に)そうですね・・・!
- 岩田
- あとゲーム内容について、もうひとつのモード、
「マルチプレイヤーモード」についても
少し教えてもらえますか? - ギオム
- はい。「マルチプレイヤーモード」では、
我々が「キング・ボリス」と呼んでいるキャラクターと、
生存者との戦いになります。
プレイヤーはこのキング・ボリスと生存者に分かれて、
アリーナを舞台に戦っていきます。 - 岩田
- アリーナというのは、
マルチプレイ用のバトルフィールドですか? - ギオム
- そうですね、ローマの競技場のような感じです。
キング・ボリスとなったプレイヤーは、
Wii U GamePadを用い、見下ろしマップ画面を見ながら、
ストラテジー的な操作で
フィールド上にさまざまな種類のゾンビを
つくり出して、生存者の全滅を謀ります。
対して生存者は、FPS的な画面を見ながら、
迫り来るゾンビから生き残るために戦います。 - 岩田
- リアルタイムの対戦で、
一緒の空間を共有しているけれども、
それぞれゲームスタイルが
まったくちがうのがユニークですよね。 - ギオム
- 勝敗を左右する隠し味として、
バトルフィールド上にボーナスアイテムも現れます。
これはじつは任天堂のクラシックゲームから
インスピレーションを受けたアイデアなんです。
たとえば、あるアイテムを取ると
生存者側のプレイヤーの速度が上がったり、
ランダム要素で効果が変わります。
逆にストラテジープレイヤー側も
その類(たぐい)のアイテムを購入することができます。 - 岩田
- ああ、部屋の中の叫び声が想像できますね(笑)。
こういったマルチプレイは、
ランダム要素が適度に混ざることで、
上手な人を初心者が打ち負かすことができるので、
それができると戦いが熱くなりますよね。 - ギオム
- さらにもうひとつのポイントは、
各ゲームを終えたあと、プレイヤーに
役割を交換する仕組みにしていることです。
このゲームをはじめて遊んで負けた人の大半は
「相手が有利だったからだ」
と考えるんですが、そこで立場を入れ替えて
プレイしてもらうと、
そのバランスがいかに適正かがわかるわけです。
- ガブリエル
- 「Wii U GamePadを使って勝つのは、
それで負けるのと同じくらい簡単で、
またその逆もしかり」というわけです。 - ザビエ
- そういう意味では、このモードは、
あまりFPSの経験がなかった方にも
比較的気軽に遊んでいただけるものになっています。 - ガブリエル
- わたしはテストプレイのとき、
最初はWii U GamePadのスイッチの入れかたすら
わからなかった女性が、その後
何時間も夢中になっていたのを目撃しました。 - 岩田
- 『ゾンビU』は、一見ゲーマー向けの
難しいゲームではあるんですが、
同時にまったく未経験の人への入口も
つくることができているわけですね。 - ギオム
- はい。対戦プレイをしているのに、
それぞれに求めるスキルがちがうので、
遊んでる様子はちょっと不思議で新鮮なんです。 - ガブリエル
- 言うなれば“フレンドリー・ソファーコンペ”です。
これは「リビングやソファーに体験の場をもっていく」
という、もともとはWiiの発想から生まれた、
よりソーシャルな体験のためのモードです。 - ギオム
- わたしは個人的に、
これこそ岩田さんのおっしゃっていた
ブリッジ戦略()に関する、
ユービーアイソフトなりの解釈であり、解答だと思っています。(※37)
ブリッジ戦略=「新しい層が入れない娯楽はすたれる」という危機感を持ち、つねに初心者を意識した間口の広さを意識したソフト展開を提唱する考えかた。
- 岩田
- なるほど、わかりました。
わたしは今回、この『ゾンビU』に
欧米だけではなくて、日本を含めた
世界中が注目してくれている感じがしているんです。
そこでわたしが期待しているのは、
「なぜWii UはWii U GamePadと一緒に売られるのか」
ということを、任天堂はもちろん
自分たちの手で証明していきますが、
この『ゾンビU』もまた別のアプローチで、
それを証明してくれる
「代表的なタイトルになるんじゃないかな」と思っています。