『Wii U』 Nintendo×JOYSOUND Wii カラオケ U 篇
1. 撤退からのスタート
2. 相手が戦えない土俵で
3. “曲を選ぶ楽しみ”
4. 「歌い込み」
5. 「記憶を探して」
3. “曲を選ぶ楽しみ”
- 岩田
- お待たせしました。
いよいよ『Wii カラオケ U』についてですが、
まず吉満さんが今回のWii U版に
かかわることになったキッカケはなんですか? - 吉満
- はい。『カラオケJOYSOUND Wii』につづく
新たなカラオケの企画を考案中に、
ちょうどWii Uの発表で
はじめてWii U GamePadを見た瞬間、
「あ、これはキョクナビだな」と思って、
「これはもう企画を出すしかない」と思ったんです。
- 岩田
- そうなんですね。
カラオケのことを1日中考えている人が見ると、
Wii U GamePadはキョクナビに見えるんですね(笑)。 - 吉満
- はい(笑)。
そこでさっそく企画書を書きました。
ただ、ちょうどその折、山上さんからも
カラオケのお話をいただいていたんですよね。 - 山上
- じつはトーセの社長さんからも、そのちょっと前に
カラオケの提案をいただいていたんです。
でもその時は、まだWii Uを発表していなくて、
企画もWiiで、ということだったんです。
でも、「これは絶対にWii Uでやりたい」と思って、
それで社長さんに「1週間お待ちください」
とお伝えして、Wii U発表後に改めてお返事をしたんです。
そしたら吉満さんからすぐに企画書があがってきたので、
「(深々とおじぎしながら)これをやらせてください」
って何も言わず、岩田さんに差し出したんです(笑)。 - 岩田
- 山上さんが、ああいう出しかたをするのは
めずらしいですよね。 - 山上
- なぜ恐る恐る出したかといえば、
「もうすでに誰かがやっているのではないか」
と思ったからなんです。でもまだ誰もやってませんでした。
せっかくつくるのであれば、わたしは、
カラオケは多くの人に親しみがあるので、
「最初から本体に内蔵したほうが喜ばれるだろう」
と考えました。 - 吉満
- わたしはあまりにも
前例がなさすぎる内容でしたので、
「はたして、いけるだろうか?」
という気持ちが正直、ありました。 - 岩田
- どういうところが
「前例にない」と感じていたんですか? - 吉満
- トーセとしては本体内蔵ソフトをつくるのが
はじめての試みになるからです。
カラオケは、一見シンプルに見えると思いますが、
じつは、いろんなことが同時に起こっていまして、
たとえば、曲を読み込みながら再生したり、
マイクにエコーをかけたり、
歌に合わせて映像を流したり、
曲の検索を行っていたり、
見えないところでは、次の曲を読み込んでいたり、
チケットの有効期間を確認していたりですね。
これらの機能を、プリインストールの段階から
フル実装するという点に、前例がないと感じていました。
それから、これまでのソフトは、
カラオケが好きな方が買われて楽しむものでしたが、
今回は、とくにカラオケに慣れていない方も対象になるため、
そういった点もあわせて、前例にないと
当初は感じていました。 - 山上
- でも、じつは大きなハードルがひとつあって、
Wii Uにカラオケを入れることについて、
宮本(茂)さんからこんなお話があったんです。
「Wii Uがオフラインのお客さんにも、
“曲を選ぶ楽しみ”を体験してもらいたい」と。 - 岩田
- 「Wii Uをインターネットにつないでいない方も、
カラオケの楽しさを味わえる仕組みをつくってほしい」
ということですね。 - 山上
- はい。しかも、通信カラオケの楽しさは
「歌うこと」と「曲を選ぶこと」にあるので、
「体験版で10,000曲ぐらい選べるものにしたい」
と言われたんです。 - 岩田
- 宮本さんはそのときすでに
「たとえば10,000曲」と言っていたんですか? - 山上
- はい。
- 岩田
- では、そのとおりになったんですね(笑)。
- 山上
- はい、そうです(笑)。
そこで中谷さんにご相談にうかがいました。
わたしも多少、音楽著作権の知識があったので、
そのことの難しさはわかっていましたから、
「わたしひとりの力ではとてもダメだ」と思って、
「歴史の長いエクシングさんのお力を
お借りできないだろうか?」と考えたんです。 - 岩田
- すみません、無理難題を申し上げまして・・・。
- 中谷・伊神
- いえいえ(笑)。
- 岩田
- 「何を言うんだ?」と思いませんでしたか?
- 中谷
- そうですね(笑)。
ただ、今回はあくまで「ディスクの商売ではない」
ところがカギだったと思います。 - 岩田
- 「お客さんにネットワークビジネスの
入り口に入っていただくための体験を、
ネットワークにつなぐ前にしていただく」
ということが今回のポイントですかね。 - 中谷
- はい。なので
「商業目的でないなら可能性はあるかな」と思いました。 - 山上
- くわしくはお話しできない
いろんな苦労はありましたが、
いろいろJASRACさんにお話をした結果、
ネットワークの疑似体験として
われわれが望んでいるライセンス許諾モデルに
まとめることができました。
難しい相談でしたので、許可をいただいたときは
思わず鳥肌が立ちました。 - 岩田
- それほど今回の相談は、
任天堂にとって過去に例のないチャレンジだったんですね。
こうして『トライアルディスク』()によって、
本来、ネットにつながないとできなかったことが、
曲数制限と有効期限がつくものの、
体験できるようになったんですよね。
宮本さんからの難題はクリアしましたが、
しかし、それだけでは終わりませんよね?(笑)。(※24)
『トライアルディスク』=『Nintendo×JOYSOUND WiiカラオケU オフラインで1ヶ月間・50曲歌い放題10,000曲収録トライアルディスク』。本サービスに提供される約90,000曲から10,000曲を収録したディスク。インターネットに接続していないWii Uでも、ディスクに収録された10,000曲から最大50曲を1か月間、歌い放題で楽しめる。ただし、有効期限は最初にディスクを起動してから31日間、一度使用したディスクは同じWii U本体でしか使えない、ディスクは1枚のみ有効などの条件がある。
- 山上
- はい(笑)。
正式にスタートしたのはいいものの、
恥ずかしながら、わたし自身は
ほとんどカラオケに行ったことがありません。
そこでカラオケ好きなスタッフを加えたんですが、
逆に好きすぎてマニアックになってしまい、
わかりにくいところを指摘しても話が通じません。
「これはやばい!」と思って、
『ガールズモード』()で
忙しかった服部さんを巻き込んだんです。(※25)
『ガールズモード』=『わがままファッション GIRLS MODE よくばり宣言!』。2012年9月、ニンテンドー3DS用ソフトとして発売されたよくばりファッションゲーム。山上がプロデューサーを、服部がディレクターを担当。
- 岩田
- 服部さんの“未経験者の目”を活かして、
できあがったソフトがこれまでもありましたけど、
「その目を今回も使おう」ということですね。 - 山上
- はい。宮本さんも言われていたように、
「カラオケの楽しさは歌うことと、選ぶことである」
というキーワードを服部さんと共有していきました。 - 岩田
- 山上さん、好きなだけ夢を語って、
忙しい服部さんに仕事を渡したんじゃないですよね?(笑)
服部さん、災難でしたか? - 服部
- ・・・はい(笑)。
でも、『ガールズモード』が運よく、
発売よりちょっと前に完成していたので、
ピークがずれて、何とか実現できました。 - 岩田
- 実際に入ってみてどうでした?
- 服部
- ・・・・・・はぁ・・・(深いため息)。
- 一同
- (笑)
- 岩田
- この深いため息には、
どんな意味があるんでしょうか!?(笑)