『Wii U』 Nintendo×JOYSOUND Wii カラオケ U 篇
1. 撤退からのスタート
2. 相手が戦えない土俵で
3. “曲を選ぶ楽しみ”
4. 「歌い込み」
5. 「記憶を探して」
4. 「歌い込み」
- 服部
- コンセプトは山上さんが
お話しされたとおりなんですけど、
わたしもカラオケに行くほうではなかったので、
とりあえず、まずはひとりでカラオケに行ってみました。 - 岩田
- え、ひとりで行ったんですか?
- 服部
- はい。それでひたすら2時間ぐらい
選曲をして、歌わずに帰ってきました。 - 一同
- (笑)
- 服部
- わたしが比較的、
カラオケに行っていた高校生くらいの時は、
まだリモコンで番号を入れる時代でしたから、
「最近のカラオケってこんなに進化しているのか・・・!」
という衝撃からはじまりました。 - 岩田
- あの、すみません、エクシングさん。
失礼なことを申しまして・・・。 - 中谷・伊神
- いえいえ(笑)。
- 服部
- あ、そうですよね。
申し訳ありません!(笑)
あとはひたすらさわって研究したんですけど、
カラオケには長い歴史があるぶん、
昔つくった機能にさらに機能を追加するという形で、
キョクナビが進化してきたんじゃないかと感じました。
ですから、実際にさわってみるとすごく魅力的な機能なのに、
「わかりにくい部分があるなぁ」と感じたんです。 - 岩田
- パソコンソフトがバージョンアップを重ねると、
どんどん複雑化していくのと似ていて、
前にあった機能をそのまま残しつつ、
だんだん新しい機能がたまっていくと
新しいお客さんにはわかりにくくなってしまうんですよね。 - 服部
- だから、1回要素をすべて分解して、
それを組み立てなおすところからはじめました。
1回バラバラにして、必要な機能を抽出して
わかりやすいところにまとめたんです。
でもそれと同時に、いままでカラオケボックスに
親しんでこられたお客さんが使いやすいように、
基本操作はなるべく、いままでの感覚で
操作できるようにするということも設計のポイントでした。
- 伊神
- いまおっしゃった話はそのとおりでして、
もともと「キョクナビ」というのは、
選曲本を置き換える役割で、
「曲を知っている人が探せる機能」が中心でした。
だから「曲を探す楽しみ」とは、
ちょっとベクトルが違うスタートだったんです。 - 岩田
- 「いかに早く歌いたい曲を探せるか」という視点で、
検索端末はつくられていたんですね。 - 伊神
- だから今回のインターフェイスを見たとき、
商品企画のうちのスタッフが
「やられた!」と言っていました。
やはり「探しかた」の視点が違っていて、
われわれは昔からの「業界の常識」に
沿う形でしかつくれていなかったんです。 - 岩田
- どんな仕事であっても、
いまのお客さんの要求に応えることが
優先度の高いことに思えますし、
いまあるものを変えたら不便になりそうなので、
変えにくくなるんですよね。
それはゲームでも同じことなんです。 - 伊神
- ええ。今回で感覚が大きく変わったので、
今後、「業務用にも取り込んでいきたい」と思います。 - 岩田
- 逆に吉満さんは、
日々カラオケには慣れ親しんでいますよね。 - 吉満
- そうですね。
わたしはよくカラオケに行きます。 - 岩田
- なにせ「Wii U GamePadがキョクナビに見えた」
くらいですからね(笑)。 - 吉満
- はい(笑)。ですから慣れすぎてしまい、
「ここがわかりづらいです」と服部さんに言われて、
はじめて気づく部分もありました。
じつはわたしも、服部さんと同じように
2、3時間カラオケボックスにこもって
タッチパネルを眺めてですね・・・。 - 岩田
- あの~・・・どちらも
エクシングさんと仕事をしているんだから、
ひとりでカラオケボックスにこもらず、
エクシングさんのところでさわらせてもらえば
いいんじゃないですか?(笑) - 服部
- はい。ですので開発の途中からは、
業務用のカラオケ機材をお借りして、
会議室の一室をカラオケボックスにしていました。 - 岩田
- えっ、そうだったんですか?
- 服部
- でも、もちろん防音設備なんかはなくて、
ふだんはちょっと恥ずかしいので、
土日の出勤のときに歌っていました。 - 吉満
- ああ、うちも同じです。
スタッフが帰ってフロアーに人が少なくなったら、
「じゃあ、そろそろ歌うか!」と。 - 岩田
- あははは(笑)。
開発途中に「歌う」というのは、
ほかではあまりないですよね。 - 伊神
- われわれの場合はそれが仕事ですから、
開発途中に「歌い込み」の時期がありますよ。 - 岩田
- 「歌い込み」ですか?
「歌い込み」ってなんですか?
- 伊神
- 音質をいかに高めるかとか、
気持ちよく聴こえるかとか、
感覚的なものをつきつめないといけないですから、
パラメーターをいじりながら何度も歌って、
歌った声がどう聴こえるかを
チェックしていきます。
そういうのを「歌い込み」といいます。 - 岩田
- へえー・・・!
- 伊神
- ほかにも歌のテロップとか機能面とか、
とくに採点機能を確認するときは
きちんと歌わないといけないので、
自分自身のレベルも上げないと、
高得点のテストができないんです。 - 岩田
- じゃあ、開発している方は
みんな、歌がうまくなるんですか? - 伊神
- うーーーん・・・それは、人それぞれですね(笑)。
ただ、採点のロジックを知っていると、
有利に働きます。 - 岩田
- なるほど(笑)。
- 吉満
- とにかく、どこかで誰かが歌っている状態でして、
送られてくるデバッグの映像も、
基本的にスタッフが本気で歌っている映像なんです。 - 服部
- デバッグルームは異様な雰囲気でした。
テスターさんがずらりと並んで、
ヘッドフォンをつけて、みんなが
それぞれの曲を歌っているんです。
デバッグ室に電話をすると、
後ろから歌声じゃなくて、ものすごい
うなり声が聴こえてくるという(笑)。 - 山上
- しかも音楽は流れていないから、
生声なんですよね。 - 岩田
- それ・・・すごすぎます(笑)。
でも、吉満さんも、服部さんたちから
次から次へと改善のリクエストをされて、
現場はすさんだりしませんでしたか? - 吉満
- いえ、大丈夫でした。
もちろん大変な時期もありましたが、
いただくアイデアは納得できるものでしたので、
スタッフも前向きにつくっていましたし。
なにより・・・、ストレスを感じたら、
いつでも歌って発散できる環境にいましたから。