川島教授と開発スタッフに聞く、Switchの「脳トレ」。
「ここに自分の居場所はないな」(川島)
ちなみに、川島先生の研究分野って、どういうものだったのでしょうか? 「脳機能のイメージング技術」という話はホームページなどでも見かけるのですが。
川島
ええ、僕はそれを日本で最初に始めた中の一人です。
これはコンピュータが発展してきて、初めて可能になった技術なんですよ。脳の働きの変化を測定して、それをCGの技術で絵として見せるというのが基本的な説明になるのですが……人間の脳そのものを扱えるので、データを乱すノイズが非常に小さいのが特徴です。それを統計学をたくさん使ってビジュアルで表現すると、色々なことがわかるんです。

とはいえ、始められた時期はまだ20世紀だったわけですし、相当に大変だったのではないでしょうか。
川島
そりゃもう(笑)。今ならパソコンで出来ることも、丸一日かかって計算です。ちょうどパソコンが普及し始めた時期でしたが、まあ何をやるにも凄い時間がかかりました。
それに、日本には師匠もいなかったですしね。仕方ないので海外で師匠を見つけて、そのノウハウを日本に持ってきたのですが、今度は僕の研究内容が上手く既存の学問の枠に当てはまらない……ああ、ここには自分の居場所はないなと感じていました。
ですので、世界中で同じように一匹狼として活動していた研究者が集まって、自分たちで学会を立てたりしていた時代でした。
ひとつの分野を黎明期から立ち上げていくような研究者だったんですね。
川島
誰もやっていない分野だったのは、良いこともたくさんあるんですよ。なにせ僕の研究は全て新しいものになるし、ある意味では自分の好きなように研究も進められる。何かの枠にハメられることのプレッシャーもなかった。
そういう中で、「脳トレ」の基礎になるような研究結果を出されたんですね。
川島
あるとき、これまでの脳の常識から外れるような実験結果が出たんです。
計測実験をしていたら、単純な計算問題を解くときに、脳が大きく働いているのを見つけました。しかも、同じことを繰り返し続けているのに、何回やっても働き続けている――これはどういうことだ、と。
というのも通常、脳は同じことを繰り返し行うと、どんどん効率的に動くようになって、働きが低下していくんです。
すごく身近な話にまつわる結果なのですが、まさに最新のイメージング技術だから、発見できたんでしょうね。
川島
そこで今度は認知症患者の方々に、同じことを試したらどうなるのかを研究してみました。
……すると、もうみるみる効果が出るんです。どんどん計算できるようになるだけじゃない。どうも脳が全体的に活性化し始めているんです。